第77話 攻略法をみつけます

 私がハドロン砲をどうするかと唸っていると、命理ちゃんからの通信が入った。


『スウ、待ってたわ。好き』

「い、命理ちゃん――会う度告白しないで」


 私のお願いに返事はなく、命理ちゃんがこっちに飛んでくる。


 10層ボスを倒した時もそうだったけど、彼女はバーサスフレームどころか航宙船にも乗らず、生身でMoBと戦うんだよね。

 昔からあの戦い方で、ベクターとMoBを相手にしてきたらしい。


 命理ちゃんの体内には、バーサスフレームと同じ光崩壊エンジンがあって。

 今の銀河連合が使っているものよりずっと小型で、高性能なんだとか。


 命理ちゃんは、スワローさんの翼に手をかけると張り付いて並走を始めた。


 命理ちゃんを連れて暫く飛ぶと、知っている声で通信が入る。


『八街 アリス、やっと来た』


 見れば、騎士騎士しい見た目の機体がこちらへ飛んでくる。

 一緒にクランを設立した、立花 みずきさんの機体だ。


 立花さんの機体はニュー・ダーリンと言って、アリスのニュー・ショーグンと合体する。


 アリスのニュー・ショーグンは、見た目が武者。

 立花さんのニュー・ダーリンは見た目が騎士。互いの趣味がよく出ている。


 ちなみに分離状態だと、アリスがパワー型の火力機。

 立花さんが、スピード型のタンク機。


 そして合体形態は2種類あって、メインパイロットがアリスの形態と、立花さんの形態。

 サブパイロットになる方が、鎧パーツになってメインパイロットになる方にくっつく。


 アリスがメインの時は、パワーと防御力で押す、タンク機〝ナイト・アリス〟になる。名前の通り、見た目はナイト。

 立花さんがメインの時は、スピードと火力で押す、火力機〝ムシャ・リッカ〟になる。名前の通り、見た目は武者。


 鎧パーツの方の見た目に寄るので、こうなってしまう。


 でも、西洋人の血を引くアリスがメインで合体すると、騎士の姿になって。

 日本の武家の血を引く立花さんがメインで合体すると、武者の姿になるのは、なんとも不思議な因果を感じる。


 立花さんがアリスに、提案する。


『戦ってみたけど、あのヘルメスっていう敵はタンクの方が良いかもしれない。アリスメインで合体しよう』

『わかりました。その方が強力なバリアが張れますからね』


 立花さんの騎士みたいな見た目の機体が分離、幾つかの鎧パーツに変化して、アリスの武者に合体。

 現れるのは見事な騎士。


 アリスが通信で声を張り上げる。


『ナイト・アリス見参!!』


 あ、そういうの言っちゃう派なんだ・・・・私は無理。

 さすがエンターティナー。


 アリスのプロ根性にびっくりしていると、クエストが表示された。


『レイド・クエスト。挑め!〝俊足の貴公子〟を開始しますか?

⇨はい

 いいえ』


 ⇨はい を選んで周りを見回す。


 戦闘宙域に到着した。すると、ヘルメスが見えて――見えない・・・・!

 移動速度が早すぎる!


 移動速度が、ほとんどワープだ――流石ギリシャ神話の韋駄天と言われるスピードの神の名を冠されたボス。

 それでも目を凝らせば、なんとかぼんやり見える。――人型? 敵は半裸の男性に見えた(イケメン)。

 身長は、スワローさんの1.5倍位のサイズ。


「大きめの、人型に見えるね」

『涼姫には――見えるんですね。わたしには全く見えません――どんな姿をしていますか?』

「目が2つ有って、鼻が2つあって、口が一つで」

『それだと、人か、獣人か、ゴブリンかすらもわかりません』

「えっと、半裸の人間の男性。イケ面」

『イケ面ですか』

「イケ面」


 ただちょっと軽薄そう。ヘルメスって、泥棒で、いたずら好きで、好色なのに、憎めない性格なんだっけ?

 そんなやり取りを、アリスとしていると、立花さんが突然妙な事を言いだした。


『こんリッカー。配信始めたよー、今ヘルメスと戦ってるの。うん、前からお話してた一式 アリスとの合体状態。ふふふ、羨ましいでしょ。今日はその初お披露目です。今はアリスをメインで合体しててね――』


 なるほど、配信を始めたのか――いきなりだなあ。

 ここからは立花さんって呼ばないように、脳内でもリッカさんに変換しないと。


『アリス~、自己紹介してー』

『じ、自己紹介ですか? 皆さんはじめまして、一式 アリスです。モデルとかしてます』


 リッカさんに促されて、若干困惑しながらも、アリスが自己紹介をした。


 私も配信を始めようかな。


「私も配信しますねー」

『あ、はい』

『スウも配信開始するって。そうそう、スウとも一緒にいるよ』

『了解しました。ではこれからはMsスウとお呼びしますね』


 アリスがちょっと困惑して、リッカさんが私のことを視聴者に紹介してる。エレノア軍曹は呼び方を変えてくれるらしい。


 配信準備をしながら、ヴィックに通信を入れる。


「ヴィック。スウ、到着しました」

『スウ、来てくれたか!』

「だけど、あまりお役に立てないかもしれません。正直、光速の10%なんて速度の攻撃は躱せません。普通の火力くらいのお手伝いしか」

『そうか――マイルズも無理だったが、君でも無理か。分かった、では左舷をたのめるかい?』

「はい。お任せ下さい」


 こうして私達は戦いを始めた。

 どうやらエレノア軍曹の機体はヒーラー機だったらしく、彼女にアリスのバリアを回復してもらいながら戦う。


 リッカがバルカンを撃ち、今日は火力用のアタッカーパックを装備した命理ちゃんが、巨大な機関銃を乱射。

 私もスワローさんを人型にして〈臨界黒体放射〉を、最高効率で放つんだけど。


「――速いなあ」


 サーチライトの中を、瞬間移動でもするみたいに動くヘルメスが本当に追いづらい。


❝『速い』で済んでるのがおかしい。他のクランの人は、ほぼダメージ与えれてないんよ❞

❝スウ達だけおかしい。スウも、リッカも、なんかちっこい人影もちゃんと命中させてる❞

❝・・・・スウだけ命中率が違うけどな❞

❝一式 アリスだけ下手すぎてワロう❞


『わ、わたしは射撃が苦手なんですよ!』


 するとエレノア軍曹が、


『しかし、アリスさんはバリアの角度を調節してダメージを最小限に抑えていますし。実体の盾も使ったり、時折剣でも弾幕を弾いています。それに3択ブーストを使うタイミングも完璧で、非常に回復しやすいです。流石はトップランカーで赤い閃光のアリスといわれるだけ有りますね。お陰で当職が、攻撃する隙まであります』


 確かにアリスのバリアが、ずっと強い光を保っている。


 本当に安定感のあるバリアで心強い。


❝うん、一式 アリスの防御かなり凄いかも❞

❝つか、今の人誰? はじめて聞く声だけど❞

❝アメリカ軍の軍曹だって❞

❝えw またなんでそんな人が、スウと一緒にいるんだよワロワロワロwww❞

❝スウたん、ブートキャンプされちゃうワロワロwww❞


「ブートキャンプは勘弁して下さい!! エレノア軍曹はとっても優しくて、鬼軍曹じゃないし!!」

『いえ、当職を鬼軍曹と呼ぶ方もいますよ』

「ア゛ーーーーーーッ!!」


 私は優しく抱っこしてくれていたクマさんが、やっぱり肉食獣だったことを思い出させられ。

 高原で叫ぶマーモットのように、奇声を発した。


❝あかんエレノアたんワロw その言葉、今は不味いw スウたんにデバフ掛かるからワロワロwww❞


 私は恐怖に震えながらも攻撃を繰り返す。


「にしても柏木さん凄いな、相手のハドロン砲を唯一の死角である下に躱しながら戦ってる」


 「流石だ」と感心していると、ヘルメスがアリスの方向を向いた。


 首筋がヒヤっとした。

 私はナイト・アリスの手を、スワローテイルで引いていた。

 刹那の間もなく、光の線。


 ナイト・アリスのバリアが貫通され、シールドが破壊され、白い鎧を穿うがたれ、ナイト・アリスの足が吹き飛んだ。


『え』

『な―――っ』

『・・・』

『これは』


❝・・・なんだこれ❞

❝これだよ! ヘルメスの光速の10%の弾丸!! これで戦線が瓦解して行ってるんだよ!❞

❝威力やばくね!? バリアもシールドも黒体も装甲も、まるで紙じゃん!❞

❝防衛機構とか目じゃないぞ!?❞


 私の前にアリスのウィンドウが開く。アリスの顔は安堵していた。


『あ、ありがとうございますスウさん。危ない所でし・・・え、どうしたんですかスウさん?』


 だけど私は返事ができない――だって。


(私がもし、今、ナイト・アリスの腕を引かなかったら、アリスのコックピット直撃コースだった―――もし私が、アリスの危機に気づかなかったら――)


 湧き上がる恐怖、そして有り得た過去に湧き上がる怒り。


(――よくも・・・よくも、やってくれたな―――!!)


 私は全身の血が逆流して、沸騰するかのような感覚を味わった。

 許さない。

 アイツは、赦さないッ!!


 私は床を見つめたまま、脳を全力で回転させる。


〔理解しろ〝アレ〟はなんだ? アレの今までの攻撃パターン、外観、行動、今まで得た情報、貰った情報を分解しろ、解析しろ、統合しろ―――〕


 私は口の端を吊り上げた。


「なぁんだ。簡単な事じゃないか―――」


 私は、目を見開き、笑顔を浮かべながらスワローテイルを加速させ、ヘルメスに突進する。


❝ちょ、どうしたスウたん!❞

❝なんか、目の光消えてね?❞

❝・・・・怖いんだけど❞

❝簡単?❞


『待って下さいスウさん! 避けられる攻撃じゃ有りませんよ!! スワローテイルで攻撃を受けたりしたら、一撃で撃墜されてしまいます! アビキャンで、スキルもステータスもまだ復活してないんですよね!?』

『スウなにしてる?』

『駄目だわ、スウ』

『Msスウ!?』


 アリス、リッカ、命理ちゃん、エレノア軍曹が通信を入れてきた。


❝え。スウたん、スキルもステータスも無しなの?❞

❝なんでボス戦あるって分かってんのに、アビキャンのんじゃったんだよ!?❞


 私はヘルメスに尋ねる。


「ねえ、ヘルメス。お前、目で物を見てるよね?」


 広域通信が騒ぎ出す。


『なんだ、あの前に出てきた戦闘機!!』

『死ぬ気か!?』

『まて、おいお前、あれスワローテイルだぞ――それも旧世代機!?』

『最弱機の中でも、真の最弱機の初期型スワローテイルって奴か!?』

『死ぬ気か!!』


 すると柏木さんだ。


『スウ君か!?』

「柏木一等空佐。スイッチしてください」

『ス、スイッチ?! ――ああ、タンク交代か! ――わ、分かった・・・!』


 柏木さんのF35みたいな機体が、徐々に速度を落とす。


 私は、転移するような動きのヘルメスを追う。


 無駄だよ、私は一瞬現れた瞬間にAIMを合わせられる。


 〈臨界黒体放射〉〈臨界黒体放射〉〈臨界黒体放射〉。

 何度も強烈な一撃を加える私を、ヘルメスは無視出来なくなったのか、こちらに振り向く。


 ヘルメスが後ろ向きに飛びながら、私を睨むように表情を歪めた。


 私はほくそ笑む。

 ヘイトは貰った。

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