第61話 フーリが商機を掴みます
フーリがコックピットに上がってきた。
なんだかパイロットスーツをしっかり着れて無いけど。
私は指を動かし〖念動力〗で、ちゃんと着せてあげる。
フーリはちょっと驚いた後、お礼を言ってきた。
「あ、ありがとう。――アメリカ大統領まで観てるとか、相変わらずスーチャンネルはハチャメチャね」
言いながらフーリは、シートに体を固定し始める。
『これは他国にバラすのは最終手段と言われていたが、仕方ない』
後ろからバルカン砲が放たれる。
このバルカンはゴブリン戦闘機の奴――やっぱゴブリンの戦闘機なら地球圏でも武器が使用できるのか!!
これに当たるのは、不味い。スワローさんでも大ダメージを受ける。
❝なんだと!? ゴブリンの戦闘機なら、地球圏での武器の使用が可能なのか!?❞
大統領も驚いている。
「ごめん、フーちょっと荒っぽい飛び方する」
私は機首上げで、バルカンを躱す。
機首下げだと、フーリが宙に浮いて体をシートに固定しづらい筈だから。
「ちょ、きゃああああああ!!」
それでも、フーリにとっては堪えるよね!
でも「な、なんとか、体を固定できたわ!」という声がフーリから掛かったので。
私は横転を開始、螺旋を描きながら敵の弾を躱す。
「じ、Gが――」
慣性に逆らう私達を、強烈なGが襲う。
「ごめん、フー。ここからが本番!」
私は機首上げのまま、急反転。
ゴブリン戦闘機に、真正面から突撃。
「称号発動〖伝説〗!! 三択ブーストシールド!!」
白銀に輝きだし、特機化したスワローさんはシールドも強化される。
〖伝説〗状態なら、ゴブリン戦闘機のバルカン砲程度じゃなかなか破れない。さらに三択ブーストでも強化した。
ただ、フーリの安全を考えてシールドを強化したけど、基本的に弾は躱せるし。
――でも加速も、さっきまでの1.5倍になったから・・・フーリのうめき声が、後頭部から聞こえた。
「いぃぃぃぃ」
パイロットスーツが血を頭に送ろうと、強烈に足を締め付けてるんだと思う。
ほんとに、巻き込んでごめん―――!
『き――貴様、なぜ無重力でそれほど正確にUターンできる!?』
「〈発狂〉デスロードだと、こんなの児戯にも等しいよ!!」
『だがこちらには、弾幕も有る!』
弾幕まで使えるのか・・・・!
❝なんということだ、オルグス同盟連合国はこんな事を隠していたのか!❞
❝プレジデント! 我々もゴブリン戦闘機の武器の使用は試しましたが、使用はできませんでした。何か秘密があるのだと思います!❞
――普通は、ゴブリン戦闘機の武器でも使用できないのか。
ゴブリンの戦闘機から放たれる、弾幕の花が咲いた。
でも正直、スカスカで私には弾幕にすらみえない。
『ば、馬鹿な――当たらないだと!? ・・・どうなっている!?』
「返すよ」
私はゴブリン戦闘機を、掠めて飛んだ。
ミサイルが、ゴブリン戦闘機のエンジンに突き刺さる。
爆発したゴブリン戦闘機は、まともな飛行能力を失って、宇宙空間に弾かれた。
まあ、地球のミサイルだと死ぬことはない――よね?
「とりあえず勝ったよ、フー」
「え―――か、勝ったの? 武器も使えないのに、どうやって!?」
「相手のミサイルを、相手に返したよ」
「なんてことを・・・―――」
❝この事件は、大問題になるぞ❞
❝アメリカ大統領の名に掛けて、ただではおかんオルグス!❞
「と、とりあえず皆さん、事件の証人にしてしまってすみません」
❝問題ない❞
❝NP❞
❝スウさんが無事で良かった❞
「じゃあ、この突発配信――なのかな? は、ここで一旦切りますね。私はまた行方をくらまします」
❝おk❞
❝またー❞
❝次の配信を楽しみにしてるー❞
という事で、配信を切った。
するとタイミングを見計らったように、以前クリティカル・クエストのクリアを伝えてくれた女性の声がした。
『スウ様、只今そちらの地球圏でバーサスフレームを使った戦闘が検知されました。何かございましたか?』
「あ・・・・フェイレジェ運営さんですか?」
『はい』
私は運営さんに、さっき襲われた理由や、地球の状況、私の身辺の状況を訴えた。
「な、なんとかなりませんか?」
『なるほど、ゲートの争奪戦――その様な事が起きるのですか。我々のそちらの地球文明の理解が足りませんでした。わたくし銀河連合の頭脳の善意を司っているので、その様な事態を予想出来なかったのかもしれません。・・・・誠に申し訳なく感じております。――しかし、どうすれば解決出来るのか・・・』
運営さんの言葉に、私は素早く考える。つまり、現状は私の持ってる権利が狙われるわけで、私が狙われてる訳じゃないんだから・・・・。
「じゃあ――」
私は提案した。
『なるほど、了解しました。この度は、スウ様に大変なご負担を掛けて申し訳ございません。フェイテルリンク・レジェンディア運営として深く謝罪いたします。そして、スウ様が仰る通りゲートが一つしか無いのが問題であるならば、今回のゲートはテストケースにさせて頂きます。今後お望みの国、都市が有れば幾つでもゲートを設置出来るようにする事を、お約束します』
「た、助かります」
いやでもまって、私はそこまで大規模な提案はしてない。もうちょっとゲートを増やしてと言っただけだから・・・・運営さんのやり方だとちょっと極端すぎる。
「で・・・でも、運営さん。それって不味く無いですか? 航空産業とか、海運業とかに混乱が起こります」
フーリが頷く。
「あ――! そうね、なるほど。日本のゲートでハイレーンに行って、アメリカに繋がるゲートに入れば一瞬で目的地ね。物資も人も運び放題」
『はい。しかし元々、物資の持ち出しは拒否させて頂く形です』
「「ええ!?」」
じゃあ、この騒ぎが本当に馬鹿馬鹿しくなってくる!
「それって、ハイレーンから資源を地球に持ち込めないって事ですか!?」
『その通りです。地球から持ち込まれたものを持って帰れないという事は有りませんが』
「フーリ、これって根本的に話が変わってくると思う・・・」
「そ、そうね・・・・これじゃゲートなんてどうでもよく――とまでは行かないけれど、相当価値は下がるわね。物資が簡単に運び出せるから大きな価値が有るってみんな思ってるのに」
『またハイレーン側のゲートを使う場合、ゲート先の国籍がなければなりません。密入国などを防ぐ観点からの措置です』
あ・・・。
――いや・・・・依然として、観光や学術的には価値があるとは思うけど。
フーリが、大きなため息を
「呆れた、それだとそもそも日本に設置されたゲートは日本人しか使えないじゃない。ハイレーンから帰ってこれないわ」
「でも、まって下さい運営さん。今は戦闘機や空母で資源や人の移動はできてますけど、それも禁止するんですか?」
『バーサスフレームや空母、戦艦などでの持ち出しは、今まで通り禁止しません』
「そっちは今まで通りなんですね。じゃあ私達みたいなバーサスフレーム乗りがゲートでハイレーンから帰れなくなった人とか、ハイレーンに来た人が運んで欲しい物を地球に運ぶのは良いんですか?」
『人は可能です。物品は物によりますが可能です』
「私達がどっかで採掘した地下資源とか、ガスとか」
『構いません。不可なのは武器類など危険物だけです』
「なるほど」
これ、もしかしてゲートを通ってきた人にプレイヤーになって欲しいのかな?
先に仕様を説明しといてよ、とは思わなくはないけど。
じゃあ、あっちも解決できる?
さっきまでの私の提案だと海外からのバッシングは避けられても、日本のゲートを無意味にしたバッシングは、避けられなかった。でも――
「じゃあ私達が運送業しちゃったら、人も物も運べるし、ハイレーンから帰れなくなった人とか助かる感じですか? ――というか、そしたら日本も助かるから、バッシングが無くなる?」
『フェイテルリンクは、わたくしたちのルールに干渉しない限り、問題にしません』
「スズっちさん、ナイスアイデアよ!! 良い、それ。やりましょう!! ボロ儲けじゃない。沖小路宇宙運輸を起業していいかしら!? ――アメリカで大量の金が発見された、ゴールドラッシュの時に一番儲かったのは、何処だかしってる!?」
「えっ、しらない」
「――鉄道会社なのよ!!」
ま、まじか、運送って凄いな。
でもフーリが会社運営してくれるなら助かる。前から水素とか運べたら良いのになあとか思ってたけど、私が何もしなくても儲かりそう。
そして、沖小路宇宙運輸とスウチャンネルの関係を示唆すれば、あんまり怒られない!
しかも運送業始めた私達が一人勝ち。――ウェヒヒ、すみません。
「でも、そしたらタンカーとか有れば良いのになあ」
銀河連合から資源を運んでいる人々が使ってるのは、主に空母なんだよね。戦艦は勲功ポイント1000万以上だから、資源目的の人には勲功ポイントが貯められないので使われていない。
私の何気ない呟きに、運営さんから驚きの返事が返ってくる。
『今回のお詫びに、タンカーを一隻ご用意致しましょうか?』
「え!? ――い、良いんですか!? 前にタンカーをバーサスフレームとか
『はい。タンカーは通常買えません。しかし購入条件を満たせば購入できます。――購入条件は、銀河連合で一定以上の生産活動をし、非常に友好度の高い人物である事。こういった方のカタログには、タンカーが表示される仕組みです』
「そんなゲームの隠し要素みたいなのが有ったんですか」
いや、運営はゲームって言ってるけど。
『はい、このゲームには隠し要素が沢山あります。スウ様も幾つかの隠し要素を開放していますよ。例えばスウ様は、隠し要素の特別権限ストライダーです』
「あ、そっか」
『という訳で、貴女は生産活動以外の条件が整っています。なので今回はお詫びとしてお譲りします。ただしお譲りすると言っても、一隻分の購入権限を開放するだけですので勲功ポイントで購入なさって下さい』
それでも十分助かる。
「幾らですか?」
『50万ポイントになります』
252万ポイントあるから、全然買える。
「じゃあ買います」
『了解しました。3日後に、ハイレーンのドックでお受け取り下さい』
これは、本当に水素とかいっぱい運べちゃう!
「えっと、スズっちさんがタンカーを使うわけじゃないわよね? ならスズっちさん・・・・それを沖小路宇宙運輸で使っていいの?」
「うんうん、そのために買ったから」
「本当にありがとう! タンカー一隻は、地球のものですら50億とかするのよ。航宙タンカーとかもう、幾らになるのかしら。この出資は必ず還元してみせるわ、私の商才に掛けて!」
フーリって、ほんとに頼もし過ぎる。
私がフーリに頼り甲斐の視線を向けてると、彼女の顔が急に悪い方になる。悪のボスの参謀みたいな顔になった。
「恐らくスズっちさんしか持っていないタンカーをゲットと言うことは、つまり、」
フーリの呟きに、運営さんが答える。
『はい、タンカーをゲットしたのはスウ様が初でございます。おめでとう御座います』
「やっぱり。じゃあこれは、実質私達だけがゲートを使える状態に近いわ。今回のゲート争奪戦は、瞬時に移動できる事が得なんじゃなくて、人や物を運べるから起きたのだから」
「なるほど、そうとも言えるんだ?」
「儲かるわよ、これは。クックック」
フーリの〝わるーい〟笑いが、スワローさんのワンルームにこだました。
私がフーリに、頼り甲斐を超えて、ちょっと恐怖まで覚えていると運営さんが尋ねてきた。
『以上で、問題はないでしょうか』
そんな言葉に、私は頷く。
「あ、もうなにもないと思います」
『ではスウ様と、お名前は存知申し上げませんが地球の方、この度は大変なご負担をおかけして申し訳ありませんでした』
「いえ」
「まあ、謝意は物として受け取ったわ」
『今後は再発を防止するように、心がけていく所存でございます。では、失礼いたします』
こうして通信が終了した。
私は、机にへたり込む。
「ふー」
「まあ、迷惑掛けられた分位はもぎ取れたわね」
「フ、フーリらしいなあ」
いやでも、私達だけ資源を大量に運べるとか、迷惑料なんか目じゃない程の得をゲットしてる気もするんだけど。
あとその世界を征服しようとする悪の大幹部みたいな悪い顔、早く戻して、怖いから。
フーリに怯えながらも、運営さんとの接続が切れて、ちょっと安堵しているとフーリがスマホを取り出した。
「そうだわ、そろそろゲートの開通式の筈よ」
「大丈夫かな。ゲートの仕様とか知らせないと駄目なんじゃ」
「もう間に合わないわよ。大体私達、政府に連絡できないわ。出来ても開通式には間に合わない連絡先しか知らないし」
「まあ、そっか。見守るしかないね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます