第48話 アリスと市役所に行きます
【悲報】復活したボス仕様ミダス、スウたんたち4人に30分で撃破される【朗報】
最新アースウノイド:配信外でなにやってるのあの人達
最新アースウノイド:4人でボス撃破って、撮れ高の塊じゃん
最新アースウノイド:スウには撮れ高にすらならないとか思われたんじゃね?
最新アースウノイド:マジかよ。
最新アースウノイド:俺みてたけど、やっぱアレ有名人だったのか。血湧き肉躍るってああ言う感情を言うんだな。人間の可能性を見た気がした。宇宙で加速って必要なんだなあ・・・要らないと思ってた。
最新アースウノイド:お、目撃者現る。動画とかないの?
最新アースウノイド:わるい、ずっと見とれてた
最新アースウノイド:どんな感じだった?
最新アースウノイド:もうずっとヒヤヒヤしながら見てたよ。弾幕のスレスレばっか飛ぶんだもん。飛行形態のスワローテイルでムーンサルトした時は・・・・俺、もうなんか違う世界にきちゃったのかな? って思った。宇宙だから出来る機動だけどムーンサルトで弾幕を縫うんだから。
最新アースウノイド:こりゃスワローテイルを地雷とか、言えなくなったよなあ
最新アースウノイド:いやー、でもあんな飛び方出来るヤツいないだろー。一般人が使ったら相変わらず地雷だろ。一部のイカれちまった人間だけに赦される機体だよ。
最新アースウノイド:俺、真似して即撃墜された。
最新アースウノイド:俺はスワローテイルにチョバム装甲を着せて戦ってる
最新アースウノイド:それは最早スワローテイルじゃないんよ。見た目もイモムシみたいになるじゃねーか、あれ。
最新アースウノイド:俺なんかヒーラー装置積んで戦ってるぞ。回避ヒーラー。案外盾役が居ない時役に立つんだよ。まあ、火力機のシールドは脆いから回復間に合わなくて、あんまり強い相手とは戦えないけど。やっぱバリアがある盾機いないときついわ。バーサスフレームに搭載されてるバリアはHPと防御力高いけど、シールドはHPも防御力も弱いってイメージ。
最新アースウノイド:え、スワローテイル流行ってるの?
最新アースウノイド:メチャクチャはやってるぞ
最新アースウノイド:俺、世の中の事全然ん分からなくなってきた。
最新アースウノイド:ハイレーンの海上とか、ハイレーン近くの宙域で練習してるヤツいっぱい見る。ずっと閑散としていたVRトレーニングルームも、最近は人いっぱいになってるし
最新アースウノイド:お前らスウの影響受けすぎ。スワローテイル楽しいです
最新アースウノイド:おまいう
最新アースウノイド:実際盾の後ろなら、スウの真似してエンジン余裕で止められるし、そしたら火力出せるし。
最新アースウノイド:それ、他の機体を使ってるプレイヤーもやりだしてるから、結局相対的に火力不足は変わらんのよ。
◆◇◆◇◆
10層のボスを再撃破しておいた、次の次の日曜日――5月の最終日曜日。
私はアリスと〈時空倉庫の鍵〉を登録しに市役所に向かっていた。
アリスとお出かけとか嬉しすぎる。
私、シミュレーターやりまくってよかったなあ。
アリスに私のこと見つけてもらえて、本当によかった。
「フェイテルリンクで手に入れた物品を日本に持ち込む場合、登録が必要になります。
さらに販売する場合は、40%の関税を支払わないといけません。
とのことです」
駅を出るとアリスが、スマホ片手に説明してくれた。
説明に私は頷く。
「なるほど、私的利用する場合は登録だけでいいんだね」
「ですね」
というわけで市役所なんだけど、来たことのない市役所本部。
つまり人が多いあたり。
私は江ノ電の駅を出て、ごった返す人を見て怯える。
そんな怯える私を、なぜかアリスがじっと覗き込んできた。
最近アリスがたまに、あんな顔をする。
「あの・・・涼姫」
「どうしたのアリス、顔がこわ――綺麗だよ?」
アリスの探るような、真剣すぎて怒ったような瞳が私を射抜いている。
「涼姫、やっぱり私になにか隠してます?」
「え、何も・・・!?」
「なんか・・・・前にチグさんたちとお弁当を食べた日の後辺りから、ずっと涼姫の様子が変なんですよ」
まさか、家を追い出されたことを言ってるの?
「なにか有ったんじゃないですか?」
この人気づいてたの!? 怖いって!!
「本当に何もないけど」
「そうですか――?」
「あんまり見つめないで・・・。恥ずかしい」
「そこまでいうなら、詮索はしませんけど・・・・本当になにもないんですね、涼姫?」
「うん」
「そうですか」
まだ疑われているのでシラを切る。ごめんアリス・・・・なんか言う勇気が出なくて。
「やっぱり初めて来る街は、怖いな―――」
「支部の市役所だと登録できないんですよね。というか、自分の住んでる市の市役所本部に来たこと無いのはどうなんでしょう」
私の住んでいた場所の近くにある支部で登録できるのかと思ったら「出来ない」と言われて、遠くの本部に来ることになった。
怖いので、アリスに着いてきてもらうことにした。
アリスは快く承諾してくれた。優しい。
するとアリスはモノレールが怖いと言うので、電車に乗って大回りでやってきた。
「フェイレジェ省が出張所を作るって話は、どうなったんだろう」
「設置されたのはまだ東京、名古屋、大阪だけですねぇ」
フェイレジェ省というのは、中央宇宙省の事。
日本に新しく作られた省庁。
フェイテルリンク・レジェンディアが始まって、入ってくる謎のアイテムや、安い資源で、世界中はそれはもう大混乱したんだけど。
焦った資源産出国がG20資源会合を開いて、フェイテルリンク・レジェンディアから持ち込まれる物品の関税を世界中で引き上げ、かつ平均化を提案した。
で、幾つかの国は強く拒否したんだけど、世界の経済の安定の為に30%以上の関税を設ける事が決定しちゃった。
こうして現在、日本がフェイテルリンク・レジェンディアからの物資にかけている関税は最低40%。めちゃくちゃ高い、信じられないほど高い。
私にも直接関係あることだから、もうちょい安くならないかなあと思ってる。
日本の立場は少しややこしい。
資源の少ない日本に、安い資源が入ってくるのは工業製品の低価格化に繋がるので嬉しいんだけど。
だからといって、地球に未来の工業製品なんていっぱい入ってきたら、そもそも工業製品が売れなくなる。
なのでこのあたりの交渉の結果、関税は40%に落ち着いたんだとか。世知辛い。
んで、こういうアイテムとか資源とかプレイヤーとかを管理してるのが中央宇宙省――通称フェイレジェ省。
出張所、鎌倉市や藤沢市にも早く作って欲しいなあ。
にしてもこの街、本当に人が多くて吐きそう。
人が多いと、ほんと怖い。みんながこっちを向いている気がする。
なんかこう、ぼんやり見える他人の目全部がこっちに向いてる光景が視えるんですよ。
でも実際にそっちを視ると、全然向いてないの。
若干ホラーです。
しかし、私はこんなに怯えているのにアリスは堂々としてる。私とアリスは、どう違うんだろう。
アリスが、歩いているお兄さんを小さく指さす。
「あの人フェイレジェ産の服を着てますね。最近、流行ってるんですよねフェイレジェの服。あれとか1000年以上前の服なんで、状態の良いものは希少で、かなりのプレミア付きで売れたりするんですよねえ」
フェイレジェの服流行ってるとか、全然知らなかった。
さすがモデルの陽キャ、オシャレに詳しい。
「アリスは、こんな遠い街まで来るの?」
「全然遠くないですけど、来ますよ」
「嘘ぉ・・・」
私がまるで、全然外に出ない引きこもりみたいじゃない。
「本当ですよ、例えばあっちに美味しいごはん屋さんがありますし、あっちは本屋。こっちには輸入小物屋さんとかもあります」
この人、マジでこんな遠い辺境まで来るんだ。――いや、私の住んでた辺りこそ辺境か。
まあ――それよりアリスの言葉に気になる部分があった。
「輸入品を売ってるお店あるの?」
「興味あるんですか?」
「・・・うん。ほら輸入品小物って、冒険感ない? お宝探し的な」
ファンタジーに、冒険をしに行っているような感覚あるんだよね。
ちなみにスワローさんで他所の国に勝手に行ったら、不法入国になるらしい。
「あー、確かに旅行感はありますね。わたしは和風の方が好きですが。――日本で育った時間が長いんで、ヨーロッパは異国感あります」
「アリスのルックスでヨーロッパが異国感かあ。不思議」
「ですかねえ。でも部屋に飾るものとかを、輸入小物屋さんで買うのは良いですよね。海外でテンションに任せて小物を買って日本に持って帰ると――わたし、なんでこれを選んだ・・・? という事がたまによくあります」
「あははは。そんな事あるんだ?」
「でも、輸入小物屋さんなら落ち着いて部屋に似合う物が選べます」
「なるほどー」
「市役所に行く前に、小物屋さんに寄りますか?」
え―――時間潰させて、いいのかな。
でも行きたいな。アリスと2人なら入りやすいし。
「う、うん! よかったら」
「じゃあそろそろお昼ですし。ついでに、ご飯も食べましょう」
「ほ、ほんとに?」
同い年くらいの女の子と、ごはん屋さんに入るの初めて。
いや、だからって一人じゃごはん屋さんに入れないんだけどね。
――普段は外に出たら、お昼ご飯をどうしてるのかって? そんなもの食べないよ、食べないでお腹ペコペコのまま帰えるんだよ。
お菓子とか買って帰って、家で貪るんだよ。
アリスが、私をみて微笑む。
背が高いから、上からの視線がカッコイイ。
「まるでデートですね」
ふぁい!?
「ななな、なにを言い出すの!」
私は頬を熱くして、目を丸くした。
「涼姫、顔真っ赤ですよ。かわいい」
や、やっぱナンパ師だこの人!
真っ赤になった私は、アリスに連れられ輸入雑貨屋へ。
「可愛いものが一杯ありますね」
「可愛い系のお店だね!」
「こう、使い道の分からないものもあって、使い道を考えるのも好きです」
「分かる!」
なんか自分のテンションが、妙に高い気がする。
落ち着け、素数を数えろ。
(じゅげむじゅげむ五劫の擦り切れ――)
私が素数を数えていると、アリスがよく分からない謎の青い網を持ち上げて首を傾げる。
「例えば、涼姫ならこの網とかどう使いますか?」
「うーん? 壁に掛けて、そこにキーホルダーとか掛けたり?」
「なるほど! それ良いですね。丁度、海外で買った小物が一杯あるのに、飾る場所がなかったんです。買いましょう!」
「買うんだ?」
アリスが網をクルクル巻いて、小脇に抱える。私なら、「なんで網持ってんだこの人・・・」と思われそうな姿も、アリスだと絵になる――さすが大人気モデル。
その後もいろんな商品を見て回った。
――楽しそうな兎の家族の、なんか謎の置物とか。
クジラの背中から湯気がでるポットとか。
妖精が持ってそうな、花の中が光る鈴蘭型のランプとか。
アリスが兎の家族をつつく。
買わないのにつついちゃ駄目だよ。
「兎の形をしたものが、結構ありますね」
「うんうん」
「このキーホルダーなんか、不思議の国のアリスのホワイトラビットですよ」
「不思議の国のアリスかあ。アリスと言えば」
隣のアリスを視る。
「な、なんですか」
「いやアリスだなって」
「なんですかそれは」
アリスが楽しそうに笑った。
「でも本当にアリスは、中身までアリスだよね」
「どういう意味ですか?」
「んとね、不思議の国のアリスの作者は、作中のアリスをこう評してるの――〝大胆不敵なまでの勇敢さ〟〝活力〟〝決断力〟あと若さ?」
まさに陽キャの鏡。
「そうなんですか」
「私の知ってる八街 アリスは勇敢だし、スポーツマンだし、迷いがないし。若さにあふれてエネルギッシュじゃない?」
「褒めてるんですか? 恥ずかしいんですが」
「褒めてるよー。で、作者いわくその対比にしているらしいのがホワイトラビット」
「どんな評価なんですか?」
「えっとね。〝臆病〟〝虚弱〟〝シャイすぎて優柔不断〟それから年寄り。それはもうガチョウにすら文句を言えないで震えている――ん?」
ふと、事実に気づく。
私は、驚きのあまり震えながら兎を見て、若干悲鳴みたいな声を挙げる。
「――これ、私じゃん!?」
アリスが私の悲鳴のような声に ビクッ としながら首を振る。
「そ、そんなこと・・・・」
でもそこまでしか言わなかった。詰まった――やっぱ詰まるよね!?
――いや仕方ない、間違いなく、違わず。
「臆病で、引きこもりの不健康で、優柔不断で、色々諦めててまるで老人。ちょっとした物にも怯える。ほ、ほら・・・! この兎って、私だ―――」
するとアリスが兎を握りしめる。
「じゃ・・・じゃあ、わたしこれ、買います!」
へ・・・・この人、何を言ってるの?
「
するとアリスが真剣な表情をこちらに向けた。
「だって、この兎が涼姫なら、お守りになりますし!」
「いや、ホワイトラビットって、若干アリスの敵な所あるよ」
アリスがホワイトラビットを私の方へ近づけて、言う。
「でも涼姫は敵にならないですよね?」
「それはもちろん―――」
「じゃあお守りですよ」
アリスがホワイトラビットを引いて、嬉しそうに頬に当てた。
めんこい。
などと、私がキモイ感想を抱いていると、アリスはホワイトラビットのキーホルダーと、隣にあったアリスのキーホルダーを持ってレジカウンターに行ってしまった。
そうして、網とキーホルダー2つを購入して戻ってきた。
「ほんとに買っちゃった」
「勿論ですよ。で、こっちは涼姫の分です」
アリスが、小さな包を私に手渡してくる。
「え、なに?」
「アリスのキーホルダーです。お守りにして下さい」
私の分買っちゃったの!?
「あ、じゃあお金」
私がゴスロリなポーチからお金を取り出そうとすると、アリスが私の手を軽く握る。
「何言ってるんですか、プレゼントですよ」
マジで? くれるの?
「い、良いの?」
「今日、初めて一緒にでかけた記念です」
「嬉しい・・・・・・」
生みの親以外から初めてプレゼントを貰った・・・。
さすがアリス、イケメン・・・。私はアリスのキーホルダーをカバンに付けた。アリスはホワイトラビット、スマホに付けた。
「お守りなので、フェイレジェでも持ってそうなスマホにつけたので、
「え、あ、うん――ウチのマンション、番号入力と指紋認証だから」
「ハ、ハイテクですね・・・」
「私もスマホにつけようかな! フェイレジェでも使ってるし!」
「ですね!」
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