フェイテルリンク・レジェンディア ~訓練場に籠もって出てきたら、最強になっていた。バトルでも日常でも無双します~

毘沙門 子子

第1話 押し間違えます

 本名、鈴咲すずさき 涼姫すずひ――IDはスウというプレイヤーが、スワローテイルという名の あげは蝶を模した可変戦闘機で、30層ボスを翻弄しはじめる。


 宇宙空間に放たれる敵の弾幕を踊るように躱しながら、ボスに攻撃を叩き込んでいく。


 これまで数百人で抑えられなかったボスを、たった独りで翻弄し始めた。


 30層ボス討伐に集まった数百人が、次々に驚愕を始める。


『なんで最弱機体のスワローテイルで、戦えるんだよ!!』

『だけど、ボスの光みたいな速さの攻撃はどうするんだよ――避けられないのに!』

『――おい、スワローテイルはどこに行った!? ――ボスもスワローテイルを見失った!?』

『でも、姿を消すスキルなんてないぞ!? ――姿を消す機体だってない!!』

『嘘だろ、―――サーチライトを消してやがる!!』

『な・・・なんだよそのイカれた行動!? ・・・・ここは真っ暗な宇宙空間だぞ!! 恒星どころか、衛星の光も差し込まないんだぞ!? なんでサーチライトを消して、雨あられと飛んでくる弾幕を躱せるんだよ!!』


 スウの一番の理解者――、トップモデルにして上位ランカープレイヤーでもある八街 アリスが、スウの操縦技術に驚きの声を上げる。


「スウさん―――そんな方法が!」


 スウの配信を見ている数万人のファンたちも、一斉にコメントを打ち込みだす。


❝Herスウ! Herスウ!❞

❝スゥ、イエッスゥ!!❞

❝世界よ! これが、日本最大の登録者数のプレイヤー配信者スウだ―――ッ!❞




 ――時は3年と3ヶ月前に戻る。




◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




(私って、何なんだろう)


 私は学校の非常階段の下のスペースで、お昼ごはんを食べながら独りレーゾンデートルについて思案していた。


 誰でも一度は、考える疑問だと思う。

 特に、私のような第二次性徴期の中学生なんかは。


「ああ、ボッチか」


 周りを見回す。暖かくなり始めた陽気の中、閑散とした――というか人っ子一人いない学校の隅。

 そんな場所で、人目を避けて昼食をむ姿など、傍から見たら間違いなくボッチだと分類されるだろう。そして、それは事実である。


 私は、宇宙的真理に気づいてしまった猫のような顔になった。

 フリーズした猫のようになった私の後ろに、真理を示す計算式が流れていく!

 

「なんて存在意義レーゾンデートルのない分類なんだ」


 しかも私って勉強は普通な中の中、運動はてんで駄目、他人と上手く付き合うことも出来ない。

 ここまで存在意義レーゾンデートルが無いと笑えてくる。


 さらに私の場合タチが悪く、リアルでボッチなだけではない。ネットでもボッチなのである。


 何とか友達が欲しい――せめてネットでだけでも友達が欲しいと、得意のゲームの動画を撮ってネットにアップしてみたけれど、誰にも見向きもされない。

 トップランキングに食い込んでいる、沢山の一人でしかなかった。

 動画についた「いいね」は3つ。


「そうだよね。あのゲームはサービス開始3年、シリーズ4作目。もう有名な人は固定されているよね」


 私が、割り込む余地などない。


 やっぱネットは、拙速せっそくたっとぶんだなあ。


「ああ、人生のリセットボタンを押したい。もっと早くゲームを上手くなっていれば・・・・世界初さえ出来ていれば」


 私は、そんな事を思い。人生のリセットボタンをイメージしながら、想像に浮かべたボタンを箸でつついてみた。

 その刹那だった――。

 空一面が突然、虹色に輝いたんだ。

 それは一瞬だった。

 

(げ、幻覚!?)


 オーロラでもなければ、空一面が虹色に輝くなんてありえない。

 でも、今のはオーロラなんかじゃなかった、なんだか一点から光が広がるような感じだった。


 理由わけのわからないものを観て、自分がどうかしたのだろうかと慄いていると、校舎や校庭から騒ぎの声が聞こえてくる。


 彼らの声に、私だけに見えたものではなく誰もが見た輝きらしいと安堵する。


(よ、よかった私だけじゃなかった)


 すると今度は、脳内に直接女の人の声が聞こえた。


『ゲーム〝フェイテルリンク・レジェンディア〟を開始します。第一章〝胎動たいどう〟編。銀河を滅ぼそうとする謎の敵に挑もう!』


 ・・・・なにこれ。


『フェイテルリンク・レジェンディアとは、銀河の彼方で冒険するゲームです。銀河を探索したり、モンスターを倒したり、アイテムを手に入れたり、仲間と絆を深め合ったり。様々、自由に冒険できます』


 私は〝声が脳内に聞こえてくる〟というあまりに非常識な事態に混乱し、指の力を失って箸を取り落とす。


 え・・・・私、間違った?

 

「――リセットボタンと間違って、・・・・スタートボタンを押しちゃった・・・?」


 スマホを取り出してSNSを見ると、世界中で輝きは観測され、声も聞こえているらしく、大変な騒ぎになっている。


 声は、さらに続ける。


『では。これより能力のある方々へ、フェイテルリンク・レジェンディアを始めるのに必要な機械をプレゼントします』


 SNSに『なんか空から白いのが降りてきた』などという言葉が、書き込み始められる。


 早速アップされた動画をみると、戦闘機らしきものが降りてきていた。


 形は細いプラナリアみたいな胴体に、三角形の翼――ダブルデルタっていう名前の翼を持った見た目だった。

 そんな戦闘機が、空から降りてくる。


 あれ、なに? あれが、この声の言うゲームを始めるために必要な機械?


 もうお弁当を食べるのも忘れて、スマホに釘付けになっていると、・・・・頭の上の方で音がした。


「え、――ん゛?」


 私が見上げれば、白くて細長いプラナリアみたいなダブルデルタ翼の戦闘機が非常階段の上に居た。


 まさか・・・・私は周りを見回す。

 当たり前だけど、周りには誰もいない。


 じゃあ――もしかしてあのプラナリアは、私のプラナリア!?


 校庭や校舎の方から騒ぎが聞こえてきて、こっちに走ってくる気配がした。


 私はどちらかといえば、対人恐怖症だ。

 なので、私は恐怖にかられて――逃げた。


 私が逃げると、プラナリアは上昇して宇宙に消えた。


 「ホッ」と一息。


 学校にプレイヤーに選ばれた人間がいるという噂は立ったけど、私だとはバレなかった。

 こうして、しばらくの時間が経つ。




 フェイテルリンク・レジェンディアが始まって3ヶ月が経った。


 世界はまだ大混乱の渦中にあった。――いや、前より酷くなっているかもしれない。

 その理由はフェイテルリンク・レジェンディア――フェイレジェから持ち込まれる、物品。


 フェイテルリンクの世界の文明は、銀河の彼方に飛べるような戦闘マシーンを〝ほいほい〟プレゼント出来る程、謎の超科学力。


 今のところ超科学文明が地球に襲い掛かってきたりはしないけど、あちらの世界からもたらされる物品や資源だけでも、世界の経済は大混乱した。


 他にも経済だけではなく、プレイヤーとなって冒険をした人はステータスを強化したり、スキルという謎の異能力を手に入れたりして、スーパーマンにもなれる。


 超人兵士なども作れてしまい、こっちでも世界は大混乱。


 今のところ地球人同士の戦争には発展していないけど、急いで新しい法律や条約が制定されて行っている。


 そんな中、私はどうしていたかと言うと。


 フェイテルリンクにある、VRの訓練シミュレーターの中に引きこもっていた。


 フェイテルリンクが始まったあの日、私はSNSや動画で慎重に情報を集めてからフェイテルリンクに参加してみた。


 参加方法は簡単で、学校で非常階段の上に来たプラナリアに乗ればよいだけだった。


 ちなみにプラナリアは戦闘機にも人型ロボットにもなれる航宙戦闘機で、Variableバリアブル(可変) Supportサポート(支援) Frameフレーム(機体)――通称バーサスフレーム(V.S.Frame)。という物らしい。


 その中でもプラナリアは〝訓練用バーサスフレーム・ホワイトマン〟という名前なんだとか。


 フェイレジェが始まったあの日。私が呼ぶと、プラナリアが再び私の頭上に来た。


 私がプラナリアに恐る恐る乗り込むと、初心者クエストという物が始まった。

 けど、私は初心者クエストを無視してVR訓練シミュレーターに引きこもった。

 だって、


「SNSで見たけど、初心者クエストの中には生身でモンスターと戦う戦闘訓練メニューが有るらしいんだもん」


 私がぶつくさ言っていると、コックピットの計器の屋根の上――ダッシュボードの上に扉が現れ、中から執事の格好をした小さな男性のホログラムが現れた。


 ホログラムから、私の耳に機械の声が聞こえてくる。


『しかし、マイマスター。初心者クエストに出てくるコボルトは、恐ろしい相手では有りません。初心者クエスト位はクリアしておいた方がいのではありませんか? ――初心者訓練をクリアすれば、機体選択があり強い機体も手に入ります。これで手に入れた機体もVR訓練で使えます』


 このAIは、イルさん。私が命名した。

 私を補助してくれるAI。


 イルさんのボイスは、私の大好きな男性声優『岩畑 光央』さんみたいな声にしている。

 ちなみイルさんのAIを今の声に変えてから、岩畑 光央さんが主演した世界的アニメ映画の登場人物の真似をして、私はカチューシャでおでこを出す感じの髪型でキメてたりする。


「ムリ」


 謎運営はフェイレジェを、なんかコンピューターゲームみたいな感覚で紹介してくるけど、誰がどう見てもこれは現実世界じゃん。――ただ、NASAも現実だって証拠が掴めてないんだけど。


 ともかく生身でモンスターみたいなのと戦うのなんて、怖すぎる。


「運営やイルさんは、一介の女子中学生に何を求めているんだ」


 ホログラムの執事が悲しそうな顔になる。


『そうですか、残念です』

「でも私も、フェイレジェからアイテムや資源を持ち帰ったり、プレイヤー活動を配信してお金持ちになって悠々自適に暮らしている人々を『羨ましいな』とは思うんだよ?」


 ホログラムの男性の顔が、パッと輝く。


『なら』

「だけどさ、運営は『死なないよ』『死んでも復活するよ』とか言うけどさ――開示されている復活方法を見たらさ・・・」


 私は、やっぱり訓練シミュレーターに籠もることにした。

 それにシミュレーターの中には、まだまだ沢山の訓練メニューがある。

 これが、よく出来ていて楽しいんだ。


 ――実は私、戦闘機やメカアニメなどが大好きなんだよね。

 好きになった理由は、至極不純なんだけど。


 初恋の人が、戦闘機やメカアニメが好きだったから。――初恋の人と、お話してみたかったから。


 結局、私の初恋の人は同業の配信者と結婚を宣言して、初恋は見事に空中分解した。


 祝福の投げ銭をエンターキーをぶっ壊す勢いで叩きつけると、その後はヤケクソになって、戦闘機を操縦して対戦するFPSゲームにのめり込んだ。

 そのFPSをプレイした内容というのが、以前投稿したという動画なんだけども。


 ただもしかしたら、フェイレジェの運営は、私があのゲームのトッププレイヤーだったから戦闘機を操縦できると判断したのかも知れない。


 ――あのゲームってば、このゲームってフライトシミュレーター? って思うくらい、すごくリアルなゲームだったし。


 しかしそうは言われても、怖がりの私がモンスターなんかと戦えるわけがない。

 というわけで私はロボットや戦闘機がVRで操縦できる訓練場で、ひたすらモンスターの模造品を倒し続けた。


 このシミュレーターはホワイトマンに乗ったまま出来るから、誰とも会わなくて良くてコミュ障な私には気が楽。

 なので引きこもり続ける事にした。


 私がVRに籠もっている間にも日々は過ぎ。

 最初の頃はバーサスフレームでごった返していたシミュレーターのある軌道ステーションも、最近は落ち着いて来た。

 

 ――とりあえず、私はVRの中で勉強を終わらせる。


 私は最近、VRで勉強するようにしている。

 なぜならこのVR訓練シミュレーターは内部で3時間過ごしても、現実では1時間しか過ぎていないんだ。


 つまりリアルの3倍、勉強できちゃう。


「ねえ、イルさん」


 私が話しかけると、ダッシュボードの上に扉が現れ、中から小さな執事が現れた。


『なんでしょうマイマスター』


 小さな執事は丁寧なお辞儀をして、小鳥のように首を傾げる。


「最近、出てくる訓練メニューが本当に難しくなって、流石に訓練用のホワイトマンでは厳しいんだよね」


 執事が眉尻を下げる。


『ですからマイマスター、初心者クエストをクリアすれば「機体選択で、好きな機体を選べます」と、何度もお伝えしているではないですか』


「初心者クエスト――・・・・それは、ムリ。それに今は、訓練シミュレーターに夢中なんだ」


 そう返して、また一つのメニューをクリアすると、私のVRに〝クエスト〟ってのが表示された。


「あ、噂に聴くクエストだ」


 クエストとは、謎の運営からの依頼オーダー

 無視してもいいけれど、達成すれば色々なご褒美が貰える。


 金銀財宝、肉体強化、魔法みたいなアイテム。


 訓練場から出られない私には、クエストが出来る機会なんて今まで無かったから、これ幸いと挑む事にした。


「でもクエストかあ。今まで以上に難しくなるなら、流石にホワイトマンは力不足だなあ。初心者クエスト終えたらちゃんとした機体を貰えるなら――流石に・・・・流石に、初心者クエストをクリアしようかな?」


 イルさんのホログラムの顔に花のような笑顔が咲いた。


 私は、初心者クエストをするかどうかを考えながら、VR用のイヤーギアを外した。


『プレイヤーの皆様フェイテルリンク・レジェンディア・オンライン運営です。これより新章である第2章〝潜伏〟が開始されます』


 あら、章が進んじゃったんだ?


 私が引きこもっている間にも、攻略はどんどん進んでいるんだなあ。

 ちなみにフェイレジェに参加している人は、プレイヤーと呼ばれている。


 以前よりだいぶ人の減ったVR訓練シミュレーターがある施設に、広域通信で『おおお』っと、歓声があがる。


 さらに謎運営のアナウンスは続いた。


『また、この度は日頃のご愛顧に感謝して、皆様へのプレゼントを企画しました』


 VR施設の『おおお』が、さらに大きくなる。


『プレゼントは2つ。ST-81スワローテイルと、勲功ポイント20万になります。スワローテイルは他の標準的な機体より、1世代古いバーサスフレームですが、量産機としては、最速かつ、最高の旋回性能を持つ機体です。――また第2章〝潜伏〟に導いた、プレイヤーIDマイルズ・ユーモア様にも特別なプレゼントをご用意しました。今後開放される新惑星オルテゼウスへの先行招待権となります』


「あれ? ――イルさん。これって訓練用じゃない、ちゃんとした機体が手に入るって事?」


 イルさんの笑顔が引きつる。


『イ、イエス、マイマスター』

「なんかバーサスフレームってのが手に入っちゃうのか。・・・じゃあ初心者クエストは無視でいいかあ」


『マ、マイマスタァ・・・』


 イルさんが涙の粒を零しながら、ダッシュボードの屋根に両手両膝を着いて小刻みに震えている。


「マイルズって人、ありがとー」


 マイルズって人の顔が、ウィンドウに映し出される。

 あら、イケメン。金髪碧眼のかなり若そうな男の子だった。


 マイルズさんは、自分の顔の前に右手で壁を作って、


『おい止めろ、映すな』


 と、ちょっとご立腹してた。


 その後、私はVRのクエストに、貰ったスワローテイルで打ち込む事になる。

 3倍の世界でひたすらに。



挿絵(近況ノートへのリンク)です。

https://kakuyomu.jp/users/mine12312/news/16818093088539463921

鈴咲 涼姫です。


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星、フォロー、ありがとうございます!






 この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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