第8話
「あつーい」
リィーンは、ベッドの上でゴロゴロと左右に転がるように寝返りを何度もうっていた。
寝汗をかいていて、背中が湿っている。
「気持ちわるい」
ずっと横になっていたので、倦怠感はなくなっていた。体調が回復してきたら、今度は暑くて寝苦しい。
せめて、半袖の服が欲しいかも。
リィーンの服は2着共に長袖だった。
袖口を折りたたみ捲りあげているけれど、通気性が悪い。
まぁ、冬のことを考えると仕方ないんだけれど……
ダメだ
汗ばんだ体が、妙に気持ち悪い。
シャワー浴びたい!
もちろん、この家にシャワーなどない。
浴室にバスタブらしき、大きな桶がある。
けれど、お湯がでないので、
その桶に水を溜めて体を洗うのだ。
冬場はお湯を沸かして、温度調整している。
小さな暖炉があるので、薪を入れてマッチみたいなもので火をつけている。
鍋に水を入れて火の上にかけれるようになっているのだ。
キャンプに使うはんごうみたいな要領だ。
マッチは大量にある。
今の時期は水浴びが気持ちいい季節。
リィーンは、重い身体を起こして、井戸から水を汲むために外へ出た。
バケツに水を汲んで、浴室の大きな桶に水を移すのだ。
恐ろしいほどに地道な作業だ。
「よいしょっ、よいしょっ、えい!」
水の入ったバケツをゆっくりと浴室に運ぶと、勢いよく桶へ流し込む。
何往復か分からないくらいに、同じ作業を繰り返した。
「もう、これくらいの量で大丈夫かな」
ある程度桶に水が溜まると、今度はもう一つの桶にも同様に水を入れる。
一つの桶で身体を洗い、もう一つの桶には、体を洗った後に入るのだ。
この作業は体力がいる。
何とか二つの桶に水を貯め終えると、リィーンは衣服を脱いで水に浸かる。
「はぁ、気持ちいい」
久々の入浴だった。
石鹸で全身を綺麗に洗い、流し終えスッキリすると、もう一つの桶に入った。
石鹸など生活に必要なものは大量にある。
そうだ、ついでに服も洗おう。
先程着ていた服を洗うことにした。
浴室に置いてある洗濯用の桶に入れて、手洗いをする。
服を洗い終えると、ひとまずそのままにしておいて、桶に浸かった。
お風呂に浸かるとすっきりするなぁ
前世では、仕事終わりはクタクタだった。自宅に帰るとシャワーを浴びていたから、こんな風に浴槽に浸かったりしなかった。
今世では、ずっとこんな生活をしているはずなんだけど、前世を思いだしてから、どうもしっくりこない。
「くしゅん!」
さすがに水風呂に長い時間はしんどい。
リィーンは身体を拭いて、もう1着の服に着替えた。
庭に出て、先程洗った洗濯物を干す。
きっと、この天気ならすぐに乾くだろう。
干した洗濯物を見ていると、視界に靄がかかるように記憶の断片が流れ込んできた。
✳︎✳︎✳︎
「こらこら、まだ泡がこんなに残っているでしょう?リィーン、ほらほら動かないの、じっとして」
大人の女性が自分を追いかけているのが見える。
誰?
「ほら、つかまえた!さぁ、きれいにしましょうね、リィーン、お湯をかけるわね」
「まだ、まだ、泡であそぶ、お母さん」
「♪♪♪」
女性が鼻唄を口ずさんでいる。
そう、私はその歌を聞くのが好きだった。
「この歌はね、━━の歌なのよ」
お母さん……
女性の顔を見ているはずなのに、その顔は不鮮明だ。
何度も何度も思い出そうとするけれど、どうしてもだめだった。
「お母さん……」
ここで、昔、お母さんと暮らしていたんだ
どうして忘れていたんだろう、誰かと暮らしていた記憶はあったのに。
そう、お母さんだ。
どうして、いなくなってしまったんだろう
あれ……お湯……?
記憶の中では、温かいお湯が突起物から出ていた。
リィーンは慌てて家の中に戻り、浴室へとかけこんだ。
先程思い出した記憶の断片と同じ浴室
女性は蛇口のようなものに手をかざしてお湯を出していた。
リィーンは、桶の近くにある突起物に試しに手をかざす。
「……出ないか」
少し叩いたり、掴んだりしてみたけれど、何の変化も起こらなかった。
あやふやな記憶に頼ることは諦めて、浴室を後にした
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