第3話
◇
「やっぱり、婚約破棄するべきよね……」
衝撃のお茶会を終え、私は自室のベッドに飛び込み考えていた。
リシェルが本当にミアを好きなら、二人には幸せになってほしい。
好きな人の恋は、悲しいけれど応援してあげたい。
そのためには、私から解放しないと。
◇
「…急にどうした?話があるなんて、珍しいな」
リシェルが品よく紅茶を飲む。
その姿に見惚れながらも、ヘレネは姿勢を正して言い放った。
「婚約破棄、してほしいの」
「……え?」
彼は、思わずティーカップを落とす。
それは床でパリンと割れた。
「…待って。どうして急に?」
「だって……私、リシェルのこと好きじゃなくなったもの」
こんなことを言うのは辛いけど、大好きな人のため。
「だから、婚約破棄しましょう」
彼は信じられないといった顔で私を見ていた。
それから、我に返ったようにはっとして私に言った。
「…いや、だめだ」
「どうして!?」
拒否されたことに純粋な疑問を感じて、思わず立ち上がってしまう。
「…それは、言えない」
「だ、だって…私と結婚したら、愛人は許さないわよ?」
「もちろん、そうだと思っていたが…何もおかしくない。何を言ってるんだ?」
私を正妻にし、ミアを愛人にするのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
彼は首を傾げていた。
「わ、私と婚約したら、リシェルにとっては苦痛の日々よ?」
「?いや、そんなことはないと思うけど…」
ますます困惑した表情になる婚約者に、思わずこっちまで困ってしまう。
「…と、とにかくっ、婚約破棄するから!」
◇
「…で、婚約破棄を叫んだと」
「叫んではいないわ」
「いえいえ、私にまでよ〜く聞こえましたよ」
リサは面白半分で聞いている。
「だって。ミアのことが好きって、聞いたのよ」
「それも確かかはわかりませんけどね」
確かに彼本人からはそんなこと一言も聞いてない。
やっぱり、私が心配性なだけなのかと思えてきた。
「それでも気になさるのなら、楽しいことをして忘れちゃいましょう!」
リサが提案してきたのは、お菓子作りだった。
手軽にできるクッキーを焼いてみてはどうかと言ってきたのだ。
次の日、厨房に立って、私はリサたち侍女や料理長から教えてもらいながらクッキーを作った。
そういえば、リシェルはチョコが好きだった。
「チョコクッキーも作りたいわ」
「まあ!いい案ですね」
こういう時は、侍女たちと同じ目線に立って過ごせる。そんな時が、私は好きだった。
「できた!」
おめでとうございますと料理長や侍女も手をぱちぱちと叩く。
「みんなのおかげね。本当にありがとう」
「いえいえ」
円満なこの家で、私は幸せに暮らしているのだと、改めて実感する。
みんなで作ったクッキーはとても美味しくて、思わずリシェルに持って行きたいと思うほどだった。
そして、それをリサに言ってしまった。
意外に彼女はいい案だと賛成してくれたので、今すぐに持っていくことにした。
「それにしてもリシェルの家、久しぶりだわ。いつも来てもらっていたから」
「そうですね。公爵家だけあって、なかなか立派ですよねぇ」
馬車に揺られてリシェルの家に到着した。
私は婚約者なので、リシェルやそのご両親から自由に入っていいと承諾を得ている。
なので、私は構わず門を開けてもらい、中に入った。
そこで、公爵家自慢の庭園を散策しながら本邸に向かっていると。
「…だから、………ほしい」
「そんな………で。私は…………」
全然内容は聞こえないが、男女が話し合っているのが聞こえた。
もしかして、と不安を抱きながら私はそちらに向かう。
「…はぁ…」
「…お願い、リシェル」
そこには、ミアとリシェルがいた。
婚約者は「愛してる」と言わない 月橋りら @rsummer
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。婚約者は「愛してる」と言わないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます