第4話 訪問(B2パート)見比べる
翌朝、
「お久しぶりです、
「
さすがに高山
「はい。義統さんが高校時代に描いた模写を見に行くとお聞きして、ぜひ私もと思いまして。ご迷惑でしたか」
「そんなことはありませんよ。警察から聞き及んでいるかもしれませんが、これからおたくへ向かう予定になっていますけど」
「ええ、その準備はきちんとしてきました。義統さんの初期作が見られるなんて、考えただけでもワクワクしますよ」
高山西南としては、忍が昔からどれだけ描けたのかを知って、自らが持つ本物と模写の実力を評価したいのかもしれない。
忍は大きな包みを掲げてみせた。
「見てがっかりされるかもしれません。なにせ十年以上も前の模写ですので」
「いえ、昔このレベルで、今このレベルというのがわかれば私はまったく気にしません。少なくとも私は義統
本物と模写の区別の仕方を教えてあるからこそできることだな。忍としては「自分の絵」を飾って楽しまれるのはこそばゆい。
「確かにあのレベルの模写は類を見ないでしょうからな。夏目先生、姫垣先生も二枚を比べてみればその凄さがおわかりになるはずです」
久しぶりに見る絵だからだろうか。玉置警視も外面では落ち着き払っているが、なんともいえない雰囲気を醸し出している。
校門で待っていると、校舎から中年の女性が駆け寄ってくる。
「
「皆様おはようございます。義統くんお久しぶりね。あれからずいぶん経ったけど、今はなにをしているのかしら」
「都立先枚高校で体育教師をしています」
「あら、美術教師じゃなくて」
「はい、体育教師です」
「小学校の頃は体があまり強くなかったのにね。高校生で会ったときは体が締まっているなあとは思っていたんだけど。そう、体育教師に」
荒井先生も感慨ひとしおなのだろう。しげしげと忍の体に視線を走らせる。
「それで、今も絵は描いているのかしら」
「依頼されて母の絵の模写を何枚か描きました。自分にはオリジナルは描けないなと痛感していますよ」
「あれだけ描けてオリジナルがダメなんてことはないと思うんだけどなあ。あ、夏目先生、姫垣先生、初めまして。私、荒井と申します」
「積もる話もあるだろうが、私たちの目的は義統くんの本物と模写を見比べることです。できれば義統くんが描いたという本物の絵を見せていただきたいのですが」
「もちろんです、夏目先生。どうぞこちらへ。美術室は一階にありますので。ご案内いたします」
荒井先生は皆を先導して美術室までやってきた。
「今他のクラスの児童が美術室を使っていますので、本物が飾られている美術準備室へお入りください。こちらです」
音を立てずに開いた扉から大人たちが中へと入っていく。
「ほう、これが内閣総理大臣賞を獲った作品か。納得ですな。近年のどの作品よりも上等ですな」
「本当に。これが小学生のレベルとは思えませんわ」
夏目
「美術部の児童にはこれを見せて発破をかけているんです。君たちもこのくらい描けるようになりなさいって」
「浜松、これが幼少期の義統くんの本気だ。どういう印象を持つかな」
顎を撫でながら浜松は顔を絵に近づけている。
「うなるしかないですな、これは。今どきの小学生はここまで描けるんですか」
荒井先生がくすりと笑った。
「いえ、私が小学校教師になってから今まで、これほどのレベルに達したのは義統くんただひとりですわ」
「本当にすごい作品ですね、これは。これならあの模写も納得の出来栄えです」
高山西南はうんうんと頷いていた。
「じゃあ義統くん。持ってきた模写を並べてくれるかな」
玉置警視の促しに応えた。
「あまりの落差に驚かないでくださいね」
包みを解くと、額に入った模写を本物の隣に掲げる。
するとその場にいた誰もが感嘆した。
「これは、完璧じゃないのか、駿河。模写でこのレベルなんて信じられん」
「夏目さん、これだけ精度の高い模写を描ける高校生がいるとは思いませんでしたね」
「ええ、これは天賦の才ですな。お母さんの義統悦子さんは死後に認められましたが、義統くんは内閣総理大臣賞を得たときから認められた存在ですね。今がどのレベルなのか、興味が湧きます」
高山西南が口を開く。
「ではさっそくわが家へ参りましょう。現時点での義統さんの画力がわかりますので」
「そうですな。ぜひ今の彼の実力を知りたいものです」
忍は模写を包んで立ち去る準備を始めた。そのとき玉置警視のスマートフォンが鳴った。
「はい、玉置だが。うん、うん。なに、義統悦子の作品が持ち込まれた
「杉並木さんって、あの杉並木さんですか。私、彼女と大学の同期なんですよ」
高山西南が通話に割って入る。
「杉並木氏の住所や連絡先は浜松くんのスマートフォンに送ってくれ。今から先方に向かわせるから」
玉置警視は通話を切ると、夏目と姫垣に語った。
「私たちはこれから捜査をしなければなりません。高山さん、夏目さんと姫垣さんに例の作品をお見せいただけませんか」
「わかりました。それでは夏目さんと姫垣さんをご案内いたします。義統さんは来ていただけないのですか」
「残念ながら、これから私たち警察とともに杉並木邸に向かわなければなりません。義統悦子の作品を鑑定できるのは彼だけですからね」
「そういえばそうでした。では夏目さんと姫垣さんを私の車でご案内いたします。義統くん、頑張ってくださいね」
その言葉を聞いた忍は、はいと答えると大きな包みを持って玉置警視の後をついていった。
(第2章A1パートに続きます)
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