#05-6 末永く仲良くするとしよう
〇
「速報! 速ほ〜〜う!!」
「あの。……何事か、あったのですか?」
「なんだか、物々しいのよねぇ」
「おや、巡礼の修道女さんかい? そうさ、何事も
問われた読売は、その言葉を待ってましたとばかり。
読売の名の通り、周囲を行き交う人々に読み聞かせるように大きな声を上げ。手にした新聞紙を高々と掲げながら
「この地の領主様、ローセリア侯爵が、
読売の見事な売り言葉に、民衆が続々と群れをなし、場は急速に熱を帯び、
手にしていた新聞が次々に売れていくことにほくほく顔の読売だったが、ふと気づく。
熱狂を
(なんだ、あれは冷やかしだったのか?)
思わず首を傾げてしまったのだが。
「おぉい、こっちにも一部くれ!」
「こっちもだ!」
「おっと、毎度ぉ!」
その後も続々と押し寄せる人の波におされ、そんなことを考える
(……まぁいいさ、売り
そうして読売の頭から、奇妙な修道女の存在はすぐに忘れられていった。
☆
「すまない、
ここは『渡河の街』に建てられた修道院の奥深く。
「いえ、とんでもございません、カルラ様」
本来、迷える子羊がすぐ訪ねることが出来るように、修道院の入口近くに設置されているのが
けれどその修道院の奥底に、表向きのものとは別に用意された、告解室と呼ばれるもうひとつの懺悔の小部屋があることは、一部の人間にしか知られていません。
「カルラ様こそ。この度はお疲れ様でございます」
わたしとマリーはそんな部屋で。
修道頭巾を外して、カルラ様の座る長椅子に向かい合う席に座っています。
「ふふ。……ま、お疲れになるのはこれからなのだがね」
組んでいた脚を解き、カルラ様は長く息を吐き出されました。
「頑張ってくださいませ。……新領主様」
「くく……っ。マリー女史に言われては、
喉の奥を震わせるように
その奥から漏れ出た爛々と輝く光は、新領主様の、強い決意の光なのでしょう。
「……街では、この噂で持ち切りでしたよ」
その光に導かれるようにわたしが声をおかけすると。
なんとも愉快そうにニヤリと笑い、前のめりになって続きを促してこられます。
「誰が領主様を殺したのか、何の為に、何があって、と。いずれも推測の域を出ないものでしたけれど」
ひとつ確かなことは、わたしたちの“胡散臭くも必要な手筈“は確実に効果を発揮していた、という所でしょうか。
「また、シェリル様に対する意見、カルラ様に対する意見共に、
「まぁ、あの母のことだからな。
カルラ様が嘆息気味に吐息を漏らすと、マリーが
「腕の見せどころですわね」
「まったく。先が思いやられるよ」
結局は溜息を
しかしどこか
「ま」
とはいえ、その瞳はずぅっと細められたままで。
「母という亡霊がいなくなったことで、日陰者がようやく表舞台に引きずり出されたんだ。やれる限りやるしかない」
決意表明のように力強く声を張り上げると、すぐお隣……二人がけの長椅子に、カルラ様とともに腰掛けられていた御方に向けて。
まるで悪友に、いたずらの相談をするような口調で語りかけられるのです。
「
そしてそんな相談を受けたお相手はといいますと。
「……ふん。こういう時だけ家名で呼ぶのは、卑怯だと思わないのかい、カルラ?」
こちらもなかなか味のあるお顔で返されるのです。
「あら。
「くっくっ、成程、私は遠回しに褒められていたのか。素直じゃないな、
「……どうせなら、“猊下呼び“する程度には、敬意を払ってもらえると有難いんだがねぇ……」
マリーとカルラ様の口撃を受け、苦戦しながらもあしらっておられるのは、現枢機卿の一人にして、共和国のみならず、帝国や西王国といった周辺諸国までその権威を轟かせる、ルクスルーブラム家の二男、ラウレンス・ヨハン・ファン・ルクスルーブラム様。
わたしも随分とお会いしておりませんでしたが、カルラ様との仲の良さはご健在のようです。
……マリーとも(しかもこんな軽口が叩ける程度に)親しい仲だったとは、存じ上げませんでしたが……。
「敬意など。……勿論あるさ。我が国の、いやさ他国でさえもその
「ちっ……
カルラ様の視線を受けて、ラウレンス様は目を逸らしたように見せて、別に視線を流します。
流れた先は、わたしの隣にいる女性。
「あら。猊下のアプローチを受けて断る女性がいらっしゃるなんて……世も末ですわね」
「ああまったく。連れない女性も居たもんさ。……ま、その方が男というのは燃えるものなんだがね」
「まぁ! 殿方というものは
ん? ……んん?
見つめ合い、やり取りし合う二人。
……え、この二人って、そういう関係なんですか?!
「あー、そういうのは、他所でやってもらえるか?」
思わず声を上げそうになったところで、その前に入ったカルラ様からの(呆れたような)制止の声に、その場の皆が押し黙ります。
……く、詳しく詰問したかったのですけれど……。
今はそれどころでは無い、んですよね、はい……。
「ともかくだ」
咳払いをおひとつ、なされまして。
「私はこれから、ローセリアの
その力強い瞳と声を伺いますと。
「――このローセリアに巣食う闇たち。……先日の奴隷商人の件で発覚した新たな『脅威』を、
カルラ様もまた、己の母親の命さえチップにして、政治の駒として使い潰すこと、(そこに如何に深い愛が込められていたとしても)それを
「幸い、お陰様で帝国と繋ぎも出来たからな。そこにルクスルーブラムの力を利用させてもらう。その為の工作は、もう進んでいる……んだろう、ラウレンス?」
「ま、キミの望み通りにね。
「
新たなる『脅威』。
それは
そう。
それはわたしの隣に腰掛ける、どこか気怠げな、けれど誰よりも深い“想い“を
「西王国、そして彼の地に根を張った黒幕からの『脅威』を、我々の手で排除する、その為にも――」
カルラ様はこの場の全員を見渡して。
「――末永い付き合いを願いたいところだな、
新たな『依頼』を、口にされたのでした。
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