第20話 永遠なる寒き眠り
——一〇時二四分、本城三階にて
「ほんと何もないな」
背の高い女が入って行った先には重要なものがあったのだろうが、グレイはギリギリ扉が閉じるのに間に合わなかった。
「あらあら、地下に行こうとしたらこんな所に人がいるじゃない」
いきなり声が聞こえてはっ、と思い後ろを向く。そこには黒いドレスの女が、にやにやと笑みを浮べながらたたずんでいた。だが先ほどの背の高い女とは違うようだ。
「だれ…だ……」
今まで感じたことのないほどの恐怖心が全身を逆撫でた。圧倒的な威圧感。こんなに近くまで来ていたのに分からなかったことに恐怖を覚える。そしてグレイはこの恐怖心と威圧感が何かをすぐに理解した。
殺意。
これは明確な殺意だ。
「私は今はここを収めているメランダだ」
他にもこんなやつが沢山いるのか。そう心の中で呟くと。
「ええそうよ」
まるでグレイが考えたことを知っているかのように返答を返してきた。もう一度、メランダの顔を見てみると勝ち誇ったかのような顔をして先ほどよりも更に不気味な笑みを浮かべた。
「私はあんた達人間の心が読めるのよ」
「なんっ…」
メランダの言葉にグレイが何かを思う前に腹に言葉が途切れ、口の中に鉄の香りが漂う。ふと自分の腹を見ると鋭い爪のようなものが刺さっていた。
「ごぼっ」
水を吐くように口の中から赤い鮮血が飛び出す。腹から止まることなく流れ出ていく生暖かい血にグレイの体は溺れていく。
「さよなら。人間」
メランダのその言葉を最後に、グレイの前から姿を消した。そして、グレイの意識もすぐき途絶えた。
——一二時四八分、本城三階にて
メジロさんはまず、グレイに城内に敵がいることを伝えようとしていた。廊下を右へ左へ曲がりながらグレイとの合流をしようとしていた時のこと。廊下を歩いていたメジロさんが地面に倒れているグレイを見つけた。床には大量の血が流れており、もう死んでいるかも、という最悪の妄想が頭をよぎる。
「グレッ……!」
反射的にグレイの元へ行こうとしたその時、彼のそばに一人の男が廊下の角を曲がって寄っていく。
「あーあ、メランダのやつまた酷くしやがったな。折角の客人で利用価値のありそうだった若者なのに」
グレイの前にしゃがみ込み、彼の体を調べているのが見える。遠く離れている場所でも聞こえる低音ボイスを響かせた男はグレイを持ち上げて曲がり角を曲がっていった。男はグレイを持ち上げる時に上着のポケットから何かを落とすも、その落とし物の存在には気付くことは無かった。その後、グレイを持って廊下を歩いていった。男が見えなくなると近くに誰もいないことを確かめ、辺りに注意を払いながら落とし物を拾い上げた。
「マヨルダの部下三人いて、全員城外の空気に触れさすことにより白骨化させることができる。その時辺りのの気温がグッと下がるため注意が必要、ね」
マヨルダの部下というのはおそらくあの黒いローブの女のことを指すのだろう。グレイを早く取り戻しに行かないといけない、と思いすぐにグレイを連れていった男の方へ走ろうとすると。ピュンという甲高い音と共に地面がへこむ。
「何をしようとしてたのかしら?」
体ごと反対側へ向ける。後ろにいたのは黒いローブを被った女だった。
「っ!」
女の方を見た瞬間、白い魔法で作ったような矢が大量に飛んできた。その矢を腰につけている剣で一本一本丁寧に捌きながらメジロさんは隙を見て窓から飛び出す。
「この城の庭にお前のような人間は踏み入れてはならない! 私たちの大切な庭になっ!」
着地したメジロさんを追って女は平気な顔をして窓を乗り越えてきた。どうして女は城外の空気に触れても死なないのか、という疑問がまず思い浮かんだ。
「まぁ、お前はここでお別れなんだけど」
そう小さく呟くと女は手を高く上げ、頭上に大量の白い矢を作り出してきた。
「あの子を殺したことがどれほどのことなのか思い知らせてやる!」
女は癇癪を上げ、頭上に作られた白い矢を大量に撃ってきた。ここで第二の疑問が浮かび上がる。なぜあの女は魔法を使えているのか、ということだ。今もなお、メジロさんたちの飛ばされた空間は魔法は使えないようになっていた。
「これはっ……」
あまりの量にメジロさんは剣で捌くのをやめ、一度柱の影に隠れることにした。
「おいおい、どうしたんだよ?そんな所に隠れてないで正面から戦ったらどうなの!」
ローブの女は何本もある柱の上部を順番に破壊し出した。無数の矢を飛ばし、あんなに大切にしていた庭をなりふり構わず破壊し続ける。
「あんなのと戦えばいいのよ!」
小さな声でメジロさんは呟く。今、隠れている柱が完全に壊される前になんとかして女を倒すべく急いで隣の柱へ移動する。
それを何回も繰り返して、ようやくローブの女が見ている方向の後ろの柱は辿り着く。
「死ねぇ!」
メジロさんが元々、隠れていた柱を矢を集合させて作った純白の剣で完全に破壊する。それと同時にメジロさんは真逆の柱から飛び出し剣を振り下ろす。
「並行斬撃」
「遅いのよ」
カン、と金属音を響かせて剣が止まった。女の手元見てみると白い剣で私の斬撃を止めているようだった。
「なっ……」
メジロさんが繰り出す攻撃の中でもかなり速い斬撃を受け止められ思わず声が漏れ出る。その驚きの顔を見て剣を受け止める女は悪魔のような笑みを浮かべ、私の腹を思い切り蹴った。
「いいこと教えてあげようか? 私はね、自分の体が滅びる時に出る冷気を使ってこれを作ってるのよ」
女はそう意げに手の中に収まる剣を振る。
「最近、私が作ろうとしている技の研究があって、あんたにはその記念すべき実験体にな
ってもらおうかしら」
剣をポイと放り投げると白い煙を上げて空気中に消えていく。女はゆっくりとメジロさんの方へと近寄ってきた。
「大丈夫、痛くはないから」
そう呟くと女はメジロさんの額に手を当てる。
「
言葉と同時にメジロさんの意識は遠くなり、それと同時に心から震える寒さがメジロさんを襲ってきた。
——一五時五一分、位置不明
「んん……」
「おっ!ようやく起きたか……」
グレイは肩を大きく揺らされて意識を取り戻した。すぐに目を覚ますなり自分の腹を見る。
「あれっ、俺は確かマヨルダに……」
「危なかったんだぞ。俺がいなかったらお前はとっくに死んでたんだ」
その声を聞いて自分のいる場所を改めて見回してみた。今、グレイは椅子に座らされ後ろ側で手を縛られている。そして、目の前には黒いロングコートに黒いサングラスのようなものをつけた男が俺の顔を覗いていた。
「結構、
男は後ろにあるテーブルに広げていた何かをケースにしまいながらそう呟く。天使粒子という言葉には聞き馴染みがなく、それについて言及しようと思った時。
「クリストファー、ようやく起きたのか……」
「ああ。でもかなりの
「まあいい。これが成功すれば僕たちは晴れて自由の身だ」
奥から白衣を着た白髪の男がポケットに手を突っ込みながら出てきた。少しの間クリストファーと話を交わすと、今度はグレイの方へ不気味な笑みを浮かべながら寄ってきた。
「やぁ、僕はウィリアムっていうんだ。君は大切な実験材料だからね。実験体は清潔じゃないといけないから」
ウィリアムが言うとグレイの座っている椅子を蹴ってきた。そのまま後ろ向きに地面に倒れる、と思っていた。椅子は一八〇度よりも大きく回り、勢いよく落ちていく。しかし落ちた場所がかなり深い穴だと落ちている間に気づいた。
「うあっ……マジかよ!」
と言いながらもどうにか助かる方法を模索した。椅子には手を結ばれて繋がれているため受け身を取ることもできない。この空間では魔法も使うことはできない。よって、残念ながらグレイが今できることは何もなかった。この結論が出るまでに掛かった時間は一秒にも満たなかった。
「くそっ!」
何も動きを取れないまま、グレイは水に落ちた。強い衝撃と共に椅子が壊れたのが分かったが、グレイは水に落ちた衝撃で気を失ってしまった。
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