二 ガラスの靴の持ち主1
「王族って憧れてたけど、言うほど楽じゃないのね」
『グレーゼルが言います。僕も隣で頷きます』
「上に立てば上に立つほど責任もしがらみも多くなるものさ」
『魔女が言いました』
「魔女さんは何でも知っているんですね。王族になったことあるような口振りですね」
『僕がそう言うと、モーリーとネヌットは苦笑いを浮かべるのでした。面と向かって魔女と呼んだことがあまりウケが良くなかったようです。しかし、僕にとってはヨーキは間違いなく魔法使いでした』
「ともかく話の続きを聞きましょ」
『グレーゼルがそう言うので、僕らは耳を傾け直しました』
王子のシンデレラ捜索は翌日から始まった。しかし、シンデレラという名前は国の名簿にはなく、残されたのはガラスの靴だけ。仕方なく、王子は全国を闊歩し、この靴を履けるものを探すことになる。もちろん、記憶に残るシンデレラの容姿を頭に入れて。
まずは上流市民から探した。その中にはセロイド家も含まれている。しかし、当日はまたトーラの指示によりアイシャは地下に隠されていた。トーラが万が一履けてしまったらどうするんだと危惧したのだ。どうやら、アイシャが会場にいたことはバレていなかったが、そういう理由でアイシャは王子との再会を阻まれていた。そして結局上流市民の中からは見つからなかった。
名簿にもいない、上流市民の中にもいないとなると、下流市民が混じっていたと考えるのが妥当だった。名簿も流石に下流市民全員は載っていない。
そして、王子による2回目の全国捜索が開始され、その行き先には当然、憂さ晴らしのリコがあった。
「このガラスの靴を履けたものはここにいる王子と婚約できる権利を得る」
従者が入り口でそう叫ぶ。事前に情報は流れてきていたため、一人しかいない女性の従業員がガラスの靴を履いてみる。
「この酒場にいる女性は貴女だけか」
眼の前の女性もダメだった。と言っても見た目からも違うのは分かっていたが、念のため履かせるだけ履かせてみるのだ。
王子は焦っていた。国王との約束は半年間の捜索のみ。その期日ももうあと1週間に迫っていた。
「はい、王子様。一応、隠遁したここのオーナーも女性ですが、ひどく顔が崩れており、年もそれなりに取っております」
王子は少し考える。確かに聞く限り会うだけ無駄である。王子は他のところを当たろうとそう思った。
「お待ち下さい。その靴、良く見せてくれませんか」
と、王子が馬車に乗ろうとした矢先。そう叫ぶ女性が現れた。モーリーだ。
「あなたはどなたですか。まだガラスの靴を履いたことがないのかな」
王子が乗り込む足を戻して丁寧に接する。
「履いたこともありませんが、それより何より大事な事実があります」
モーリーが訴えるように言った。
「重要な事実」
王子が疑問符を浮かべる。
「ともかく、そのガラスの靴を良く見せてください」
王子はモーリーがあまりにも必死なので、ガラスの靴を手渡した。モーリーはそれをよく見る。
「やはりそうです。王子様。この靴は私が作りました」
王子は目を見開いた。
「あなたが……。所有者は誰なのですか。お答え頂けますか」
「はい、この酒屋のオーナーです。オーナーに頼まれて作りました」
王子はそれを聞くとすぐに酒屋に戻り、オーナーのいる場所へと向かった。
「失礼します」
王子が中に入ると、そこに彼女はいた。いや、あった。
「これは」
裸体で描かれた美しい女性の絵がそこにあった。裸ではあるが、確かにあの時あったシンデレラの姿がそこにあった。
「この女性をお探しかな。王子様」
と、横に見るに耐えないほど顔の崩れた女性がいた。
「はい。探しております。どこにいるのです。この女性は」
王子は逸る気持ちもほどほどに抑えて言う。
「アイシャと言います。セロイド家の娘です。上流市民ですよ」
「シンデレラではないのですか」
「ああ、理由があってね。そう言うように仕込んどいたのさ」
王子は従者にすぐに目配せして、名簿を探させる。
「あなたは何者なのです。アイシャとの関係は」
「腐れ縁だよ。あんまり気にしなさんな。それよりも向かわなくていいのかい。何ならセロイド家まで道案内してあげるよ」
王子は従者を確認するが、まだ時間がかかりそうだった。
「そうですね。では案内してくださいますか」
「ええ、もちろんですとも」
こうして王子はオーナーを連れてセロイド家へと向かった。
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