二 世界で最も強い毒7
一年後、三人の参加者はトーラの家へと集まった。集まった順にトーラとの面会が許され、そこで毒を献上する流れだ。集まった順番はメルト、ラッキー、カーキだ。つまりまずはメルトからである。
「まず最初に、今回はご参加頂きありがとうございます。あんなにいたというのに、たった三人の参加者とは。新参者であるとはいえ、ノーシス家はそこら辺の上流市民よりも土地も財も十分あるというのに。情けないことです。まあ、そんな話は良いでしょう。メルトさん。貴方から面接を行います。どうぞ、こちらへ」
トーラはまず三人に挨拶をしたあと、メルトを呼び出す。メルトはトーラとともに奥の部屋へと入っていった。
「メルトさん、改めましてご参加ありがとうございます。あなたのことは調べさせてもらってます。上流市民になる夢を持っているとか」
トーラが恭しく話す。
「ええ、まあそうですが・・・・・・。トーラ殿。それ以上に俺は貴女に惚れています。貴女を強く欲しいと思っている。貴女はきっと私と似ている。親近感があるのです。どうか、側に居させてくれませんか」
メルトは想いの丈をぶつけた。
「あら、案外と純情なお方なのですね。騙しのメルトという二つ名からは伺い知れない一面ですね。それともその言葉たちは私を騙すためのものなのかしら」
トーラはからかうようにそう言った。
「とんでもねぇ。俺が貴女に惚れてるのは本当だ。出なけりゃ、今回の毒薬もここまでは集めなかった。毒薬が俺が貴女に本気だという証拠さ」
「ほぅ、そうですか。ではその毒薬を見せてください」
「ああ、見て驚かないでくれよ」
メルトはパンパンと手を叩いて従者を呼んだ。すると、黒い布に被された一山がラックに載って出てくる。トーラが布を退けると、その目は大きく開かれ、そして詰問するようにメルトへと言葉を浴びせかけた。
「どういうことです。これはただの風邪薬ではないですか」
中身はトーラもよく使う風邪薬だった。一錠でも効果のある効能の高いやつだ。
「おっしゃる通り、これはただの風邪薬でございます。しかし、そう見えるゆえに、これは大変危険な毒ともなりうるのです」
メルトは落ち着き払ってそう言った。どこか歪な感情が溢れ出している。
「なるほど、わかりました。聞きましょう」
トーラはメルトの落ち着き払った態度を見て、その言葉を聞くことにした。
「はい、こちらは確かに風邪薬です。つまり、風邪を治すための薬です。しかし大量に服薬すれば、実は死に至る毒薬でもあるのです。良薬も用法を間違えれば毒薬となる。それが正にこの風邪薬というわけです。特にこれは傍から見ればただの薬です。つまり、大量に飲んだら死ぬと言うことを知らぬ者からはなんの警戒もされません。警戒されない、出来ない毒ほど怖いものはないでしょう。故にこれが世界で最も強い毒となりうるのです」
メルトは誇らしげに説明した。不利は承知だ。しかし自分の出した答えに自信もあった。
「なるほど。そういうことですか。しかし、大量にと言いますが、一度にどれほど飲めば死ぬものなのですか」
トーラは納得し、用法を聞いた。
「片手山ほど飲めば死ぬでしょうな。しかし、この薬の怖いところは、継続して毎日飲むだけでも効果を発揮するところにあります。毎日飲むことで人間が本来持つ抵抗力を奪い、その人を病弱にすることも出来ます」
「ほぅ、人を病弱にすることが出来る、ですか」
メルトは冷静に効能を聞くトーラはやっぱり歪な存在だと思った。自分の見立てに間違いはないようだ。メルトはなんとしても側にいたいと思う。
「言いたいことはわかりました。とりあえず、一度控室にお戻りください」
「トーラ殿、俺はどうやら心底貴女を好いているらしい。どうぞ、俺をお選び下さい。後悔はさせません」
メルトは真剣な目を向けトーラにそう言った。元より不利なのだ。多少泥臭くてもアプローチはしっかり行いたい。
「お気持ちはわかりました。ともかく今は控室へ。他の二人のことも知りたいので」
そう促されるので、メルトは大人しく控室へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます