アイシャ~愛する者・愛される者~

桃丞優綰

大昔の話

導入 魔女の家1

《深い深い森の中

 暗い暗い森の中

 魔女がそこで暮らしてる

 その森に魔法をかけ

 迷う人を捕まえて

 人を食べて生活している

 広い広い森の中

 迷いの森の暗い中

 魔女は醜い顔してる

 フードを被って顔隠す

 顔を見た者食べてしまう

 魔女は自由に飛び回り

 私達を監視する

 いつの間にやら現れて

 あっという間に消えていく

 見るな触れるな関わるな

 心地良く生きていくのなら

 魔女は人を待っている》


 満天の星空の下、うごめく闇の塊が、うねうねうねって森を行く。その様はまるで大蛇で、背中には炎を点らせ、辺りを照らしながら進んでく。目の前にある障害物は、容赦なく焼き捨てた。

 行く先はそう、魔女の家。

 恐ろしいはずの魔女の森。大蛇は声を発して心を鼓舞する。


「魔女狩りだー」

「燃やせー」

「逃がすなー」


 大蛇には大義名分があった。王より発せられた魔女狩り令。王の最後の遺言だった。魔女の家を取り囲み、いままさに火を点けようとするとき、一人の青年が家から出てくる。


「待って下さい」


 青年がそう叫ぶ。青年は大蛇をよく知っていた。大蛇もまた青年をよく知っていた。名を確かヘンテルという。


「邪魔立てするつもりか」


 大蛇の頭がそう言った。


「いえ、しません。しませんが一つ、聞いて欲しい話があるんです」


 ヘンテルは落ち着いたようにそう言った。


「話。どんな話かは知らないが、その間に逃がすつもりだろう。ヘンテル、君が魔女と仲が良いのは知っている。だが君は魔女ではないから殺さない。しかし魔女を庇うのであれば少し痛い目に遭うかもしれないぞ」


 大蛇の頭はそう言って、ヘンテルを睨んだ。


「ヘンテル、いいからこっちに来なさい」


 頭の隣にいるヘンテルの母親がそう言った。


「逃げたりしません。魔女は、そもそも逃げるつもりは無いようです。それにこんなにちゃんと取り囲まれたら、逃げたくてももう逃げられませんよ」


 大蛇は確かにその通りだなと思う。大蛇の身体は一つの隙間も無く家を囲んでいるのです。逃げようにも逃げられることはありません。


「わかった。しかしどんな話をするというのだ。我々を説得しようとしても無駄だぞ。これは王命だ。逆らえば逆に我々の身が危ない」


 大蛇の頭はそう言った。


「わかってます。ちょっとした昔話がしたいのです。誰しも処刑される時は最後の言葉を言えるでしょう。それだと思って下さい。ご存じの通り、僕は魔女のおばさんと仲が良い。これを彼女に捧げる手向けとさせて下さい」


 ヘンテルはそう言って頭を下げた。大蛇は唸る。


「そこまで言うならもう何も言うまい。気が済むまで話すが良い」


 大蛇はそう言って、身体を休めた。ヘンテルは立ったままでしたが、構わずに話を始めました。


『僕がこの家に訪れたのは十二歳の時でした。当時の僕は好奇心旺盛だったのを覚えています。そして偏屈で負けず嫌いでもありました。そう、それはちょっとした喧嘩がきっかけだったのです。その日は友達三人で魔女がいるかいないかを議論していました。爆破いない派でしたが、議論では勝てなかった僕は、一人で魔女の森、この森へと入ることになったのです。いくら魔女はいないと言っていたとしても。一人で歩く魔女の森は怖かったです。いつの間にやら僕は走り出して、気付いたときには道がわからなくなっていました。寂しくて怖くて泣きじゃくっていた僕を助けてくれたのが魔女でした。フードを被った老婆で、酷く声が潰れていました。それかとてもおどろおどろしくて寒気がしたのを覚えてます。四つん這いになっていた僕は、そこからさらにひっくり返って叫んでいました。すると魔女が言いました』

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