休日の朝
水星虫
第1話
「なんでっ!どうしてなのよっ!」
エプロンにつく赤いシミ。崩れ落ちる彼女。手には刃物。
「もういいんだ。疲れたね、やめにしよっか……」
立ち尽くす僕。朱に染まる腹。
いったいいつ選択を間違えたのだろう。
僕たちは最近仕事が忙しく、顔を合わせる時間も減り、会話も少なかった。
料理することも少なくなり、買って済ますことが多くなった。
そういえば、僕は適当で、包丁やお皿に水がついたまま仕舞ってしまうからよく怒られてたっけ。
この前の金曜日、やっと2人とも休める三連休。
料理が苦手で当番はいつも僕だったのに、その日彼女は土曜日の朝は手料理を振る舞うと約束してくれたんだ。
そうだ、僕はそこで間違えたのだ。
もっと彼女を見て、言葉を伝えて、支えてあげるべきだったのだ。
そして、一番大事なことを忘れなければよかったのだ。
包丁は錆びてて切れ味が落ちてるよって。
そのことを怠った結果が今の僕だ。
間抜けにもトマトが腹に飛び散っている。
彼女はおそらくバゲットサンドを作りたかったのだろう。レタスをちぎってバゲットに挟み、そこに買っておいたローストビーフも載せる。
しかし、その包丁ではトマトの輪切りはできない。
料理下手であるが故に、彼女には臨機応変という言葉がなかった。
混乱した彼女はトマトを切れずに飛び散らす事しかできなかった。
だから、僕は声をかけたんだ。
もう、おわりにしよっかって。
「でも、朝ごはんが……」
困惑する彼女に僕は告げる。
いいよ、作ってくれようとした気持ちがまず何より嬉しいし、トマトがなくてもバゲットサンドは食べれる。
食べ終わったらホームセンターで砥ぎ機でも探そっかって。
休日はまだ始まったばかりだ。
休日の朝 水星虫 @suisei_musi
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