第44話 悪龍は強敵!

「『極限の破壊シンプルブレイク』―――――!」


 ベーゼルが打撃技強化魔法だげきわざきょうかまほうを使い、悪龍イービルドラゴンふところに潜り込み、悪龍イービルドラゴンの腹をぶん殴った。


 打撃技強化魔法は殴る、蹴る。といった打撃技に属性を付与し、その属性と単純な力で戦う技。

 主に、武道を極めるものが使う魔法だ。


 魔法と武道はあまり関わりがないようで、実際は深く、かつ親密に関わりあっているのだ。


 体力と呼ばれるものは、いわば魔力の器だ。

 つまり、体力が多ければ多いほど、使える魔力の量は上がる。

 魔法使いが有酸素運動を頻繁に行うのはこのためだ。


 体力が増えるというのは、逆説的に言えば、魔力が増えているのと同義だ。

 走れば体力を使うように、魔法も使えば魔力を消費する。

 

 魔力の器と運動できる限度の体力は共有しあっているため、魔法を使えば体力は減るし、走ったり運動をしても、体力を使う。


 すべての体の根幹は体力と言っても過言ではない。といった認識で間違いない。


 だからこそ、武道の達人は並みならぬ魔力の持ち主なのだ。

 そんな達人が打撃技強化魔法を使うとどうなるのか。


 一般的な打撃の数百倍の威力を出すことが可能なのだ。

 実際、打撃技強化魔法を使う武道の達人がほとんどだ。


 だが、ある者のなかには、武道を超越し、打撃技強化魔法を行使すると、この世界の核まで穴をあけるほどの威力を持たせることができる。


 それが魔法なのだ。


 そしてベーゼルは私と同じかそれ以上の時を歩んでいる。

 彼女の魔力量は絶大だ。


 私も彼女も無限と言っていいほどの時間がある。


 少しの時間。

 およそ五万年余りを武道に費やした彼女の力は絶大だ。


 前述したように、この世界の核まで穴をあけるなんて彼女は容易にできるだろう。


 そう、それほどまでに邪神の力は絶大だ。


 絶大。

 だというのに……。


 悪龍イービルドラゴンには風穴があくどころか、黒く光るうろこが数枚剥がれ落ちた程度の被害しかない。


 召喚龍でこの圧倒的力の差。

 これを即興で作っあの大悪魔はいったい……。


 私は、この圧倒的な力の差におののきと絶望を隠さずにはいられなかった。


「アッハッハッハ!魔王の絶望。実に愉快だなぁ!」


 悪魔には悪感情を感知する触覚でもついているのだろうか。

 大悪魔は私のおののきと絶望の感情を察したみたいだった。


 絶望したのは事実だけど、そんなに愉快に笑われると腹が立ってくる。


 私はどうも悪魔が苦手なようだ。


 そして、圧倒的に分が悪い。


 私がどうにかできるのか。


 まあでも、何もせずに逃げるだなんて、魔王として情けない。


 できるだけのことはやってみる。


 それでも、駄目だったら逃げる。


 必ずしも、逃げるが悪じゃない。

 逃げるが恥じゃない。


 死ぬのが格好いいわけない。


 どれだけ美しく死のうが、必死にもがいて情けなくしがみついて勝ち取った生のほうがよっぽど価値がある。

 と、私は考えている。


 最善を、全力を尽くして闘う。

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