第34話 俺の仕事が始まる

「お~い!ベーゼル~!」


 距離を感じさせない、明るいルナの声が響く。


 ルナがごまに見える程度には離れているのに、距離を感じさせないほど響く声ってどういうことだよ。


 どうやら、ベーゼルの魔力休憩は終わりらしい。


 いっても、一時間程度しか話してないぞ?そんなんで、充分に魔力を回復できるのか?


「あと~!ついでにクロス~!」


 あ、俺もついでで呼ばれた。

 いや「ついでに」ってなんだよ。


 俺、今から仕事するんだぞ?


 まあいいか。

 ……なんか俺、日を追うごとにめんどくさくなってね?


 まあでも、心の中で思ってるだけだからね。問題ないね。


 そんなどうでもいいことを考えながら俺は、ルナがいる方向へと足を進める。



「で、俺は何をしたらいいんだ?」


「えーっとね。そこに積んである木材を「万物製造ポゼッションメイキング」でうまいこと加工して、家みたいにして~」


 うーん。無茶振り。

 俺にそんなことできない。


 なんか、あれだろ?設計士の方々が頑張って間取りとか、形とか考えているんだろ?しかも、そういう、設計士になるのって資格とか必要じゃん。

 俺にはできっこないや。


 ルナは俺の思惑が分かったのか。


「あ~。大丈夫。そういうのはメイちゃんに任せたらいいから。はい、これ設計図」


 と、一枚の紙きれを渡してくる。


 なに?メイさん家の設計できるの?有能!


 と、ルナに渡された紙きれを見ると、間取りとか、家の大きさとか、そんなのが描かれていた。


 そんなことより、気になるのが、この紙に書かれているインク?鉛筆?何で書かれたのか分かんない。


 なんなんだろう。

 なんか、炭みたいな……。


 なんだっけ、小学生の時に(俺の中で)流行った、木の先を火かなんかで少し燃やしたら、文字が書けるみたいなの。

 あれに一番近い感じ。


 この世界に、インクとか鉛筆とかがないのか、この国にないだけなのか。


 まあ、後者じゃないかな。


 なんか外の世界と関係絶ってそうだしね。


 にしても、よくこんな無茶振りができたな。


 ……。とりあえず働くやってみる、か。


 えーっと。まず、木材加工とかからやっていくか。


 ここを万物製造ポゼッションメイキングでくぼみを作って……。

 あ、これあれだわ。

 あの、神社とかで使う、くぎを一本も使わずに建築できるやつだ。


 学校で少し習ったけど、これあれだよな。

 寸分の狂いも許されない奴だよな。


 経費削減ってことはわかるんだけど、俺に重荷を課しすぎじゃない?


 木材ダメにしたらごめんって感じで、俺は作業に取り掛かる。



 ―― 数時間後 ――


 いや、無理だわ。これ。


 明らかに、俺ができる範囲のことじゃない。


 俺の能力はいわば、想像と集中このどちらかが欠けていたら発動できない。


 くぼみの想像が1mmでもずれると、材料と材料を結合する際、その失敗は顕著になる。


 想像の失敗で、集中力は削がれ、もうどうしようもない状態が今だ。


 絶対に釘を使った方が早いので、おとなしく釘を使ってください。


 本当に。


 これ、俺ができることじゃない。


 適材適所を考えて配置してください!

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