第12話 生存の道 ―Survival―

夜が明けて、俺たちは倒れた仲間たちを土に返した。

道具もまともにない中、素手で掘った浅い墓。

それでも、精一杯の礼を尽くすことはできた。


「ユウト...お前は俺の命の恩人だ」


遺体を埋め終わった後、アルが静かに呟いた。

その指は巻きたばこを持ったまま、まだ震えが止まらず、火もつけられないでいる。


「あの状況で逃げなかったお前は、間違いなく英雄だ。だが同時に、とんでもないバカでもある」


自嘲気味に笑うアルの目には、まだ涙が滲んでいた。

その姿に、今までにない強い親近感を覚える。


「それに...」


アルは少し間を置き、覚悟を決めたように続けた。


「お前、魔物の肉を食べてるだろ?あの麻痺煙を防いだのは、毒耐性があったからじゃないのか?」


その言葉に、思わず息を呑む。心臓が高鈍りを打つ。バレていたのか——。


「まあ、驚くなよ。俺も追われる身だ。人の秘密ぐらい、見破れるようになってる」


やっと火を点けた巻きたばこの煙が、朝もやに溶けていく。


「俺も光耀神教会からにらまれてる身としては、お前の秘密は守らせてもらうよ」


アルは煙を吐きながら、東の空を見上げた。


「それに、これからは俺も否が応でも魔物を食べることになるだろうな」


「え?」


「考えてみろよ。今、俺たちの持ち物は水筒に残った僅かな水と、着の身着のままだ。お前のメイスと、俺のナイフ。これだけしかない」


現実が、重く胸に響く。


「ここから先、街まで歩いて7日。食料も、地図も、まともな装備もない。生き延びるには、魔物を狩って食うしかないんだよ」


「アルさん...」


「俺はお前のその力を頼りにする。そのかわり、俺は生き残りの術を教えてやる。これまでの人生で培ってきた、追われる者の知恵をな」


アルは立ち上がり、東を指差した。


「街道は避けるぞ。獣道を行く。山賊の追跡もあるだろうし、目立つのは命取りだ」


俺も立ち上がり、頷く。


「生き延びるんだ、ユウト。お前はまだ若い。俺みたいなジジイと違って、未来がある」


「さあ、行こうか。魔物狩りの旅にでも」


アルが苦笑いしながら歩き出す。その背中を見つめながら、俺は決意を固めた。

必ず、二人で生き残ってみせる。


太陽が昇る方角に向かって、俺たちの長い旅が始まろうとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る