推しキャラにそっくりな女神様に召喚されて、16歳に若返って最強の使徒として異世界で布教することになりました
モロモロ
第1話 運命の夜 ―Devotion―
「やっぱり『星空のメロディア』は、魔法少女アニメの歴史を変えた作品だよな...」
深夜2時。俺は今日も『漆黒のレゾナンス』劇場版を再生しながら、原点となった作品のことを考えていた。
確かに、主人公の月野メロディは王道的な魔法少女だった。純真で、時々ドジで、でも芯の強い少女。姫川カノンはクールビューティで、完璧主義な性格も相まって人気を博した。普通の魔法少女アニメなら、この二人のコンビだけで十分だった。
でも、『星空のメロディア』が特別だったのは、音無リズムの存在があったからだ。
「誰も、あの展開は予想できなかった...」
三人での活動が始まってすぐ、リズムはファンから絶大な支持を集めた。明るく活発で、メロディとカノンの間を取り持つムードメーカー。完璧なチームメイトだった。
だからこそ、あの衝撃は大きかった。
「魔法少女を卒業する年齢...か」
18歳。その制度自体が、物語の重要な伏線だった。でも誰も気付かなかった。リズムの笑顔の下に隠された苦悩に。社会からの風当たり、将来への不安、そして妹への想い...。
「闇落ちなんて言葉で片付けられない、リアルな選択だったんだ」
Xを開くと、固定ツイートが目に入る。
『#リズム様劇場版続編希望
テンポノワールの物語は、まだ終わっていない』
6年前、俺はこのキャラクターに出会って人生が変わった。原作放送終了から3年。去年の劇場版『テンポノワール -Eternity of Darkness-』まで、ずっと追い続けてきた。
「メロディもカノンも素晴らしいキャラクターだけど...やっぱり、リズムは別格だ」
部屋を見渡せば、そこはリズムの聖域と化していた。等身大タペストリーには、漆黒のドレスに身を包んだテンポノワールの姿。メロディたちと戦う彼女の複製原画。そして、妹の奏音との別れのシーンを切り取ったフィギュア。
「ブログの更新、やるか...」
キーボードを打つ手が止まる。モニターには劇場版のワンシーン。かつての仲間たちの前で、リズムが静かに告げる。
『本当の強さとは何か、私は知ってしまった。それは─』
「完璧な魔法少女なんて、幻想に過ぎない」
俺は呟く。リズムが教えてくれた真実。制度に縛られない、本当の救いの形。
「続編、作ってくれよ...」
その時、不思議な光が部屋に差し込んできた。
「あら、あなたの想い...とても深いのね」
振り向いた先には─
漆黒のドレス。リズムと瓜二つの容姿。
「私は女神、ノクトゥルナ」
その声に、思わず息を呑む。リズムそっくりな姿。でも、どこか深い悲しみを秘めた瞳。
「女神...ですか?」
「ええ。魔食教(まじきょう)の神よ」
魔食教――初めて聞く言葉だった。でも、彼女の表情が一瞬曇るのが見えた。
「かつては東方諸侯連盟を中心に、私を信仰する者たちがいたわ。魔物の力を求める者、既存の価値観に縛られない強さを望む者たち...」
ノクトゥルナは窓際に佇み、夜空を見上げた。その横顔は、劇場版でリズムが見せた表情と重なる。
「でも今では...私の信者はほとんどいない。セイントリア神聖帝国の光耀神教会が、私の信者たちを"邪教徒"と呼んで迫害し始めてから...」
その声に込められた痛みが、胸に刺さる。
「本当の邪神は、人々の魂を喰らい、世界に混沌をもたらそうとしている。でも私は...ただ、力を求める者たちに道を示しているだけなのに」
「力を...示す?」
「ええ。魔物を狩り、その肉を糧とすることで得られる力。神聖帝国は私のことを"邪神"と蔑み、私の教えを"邪教"と呼ぶけれど...私は誰も強制していない。ただ、力を求める者に、その方法を教えているだけ」
その言葉は、どこかリズムの台詞と重なった。
───『私は誰も強制しない。ただ、本当の救いを求める者の前に、その道を示すだけ』
「今では、私の名を口にすることすら禁忌とされ、わずかな信者たちも密かに祈りを捧げるだけ...こんなの、間違ってるわ」
ノクトゥルナの声が僅かに震える。
「光耀神は病を治し、豊穣神は作物を育てる。素晴らしい。でも、私だって...私だって人々を救いたいだけなのに」
その瞬間、俺には分かった。目の前の女神が、なぜリズムとこれほど似ているのか。
世間の理解を得られない孤独。
既存の価値観との軋轢。
それでも、自分の信じる道を歩もうとする強さ。
「俺は...わかります」
ノクトゥルナが振り向く。
「アニメの中で、リズムは言っていました。表面的な正義じゃない、本当の救いがあるって。それは、きっとノクトゥルナ様の想いと同じだと思います」
「あなた...」
「邪神だろうが何だろうが、そんなの関係ない。大切なのは、その心なんです」
「6年...本当に長い間、私の偶像を崇拝し続けてくれたのね」
ノクトゥルナは、部屋に飾られたリズムのグッズを一つ一つ見つめながら言った。
「偶像...ああ、テンポノワールのことですか?」
「ええ。アニメという形で、私の姿が偶然あなたの世界に投影された。そして、あなたは6年もの間、深い信仰を捧げ続けた」
彼女の瞳が、どこか懐かしむように潤む。
「今の異世界で、私にはほとんど信者がいないの。かつての栄光は失われ、私を信仰する者たちは迫害され...」
「でも、だからこそチャンスなんです」
俺の言葉に、ノクトゥルナは少し意外そうな表情を浮かべた。
「布教って、ゼロからのスタートの方が却って良いんですよ。既存の価値観に縛られずに、本来の魅力を伝えられる」
「...まるで、アニメの布教活動みたいな考え方ね」
「はい。だって同じですよね。本当の素晴らしさを知ってもらうまでの過程は」
思わず熱が込もる。今までの布教経験が、自然と言葉になっていく。
「ふふ...」
ノクトゥルナが柔らかく微笑む。
「あなたを私の使徒にしたい。しかも、ただの一般信者としてではなく、最上位の使徒として」
「最上位の...」
「ええ。私との直接交信も可能よ。私の加護も、最大限の恩寵も与えられる。今この時期だからこそ、できる待遇」
その言葉に、一瞬の躊躇いがよぎる。でも...
部屋を見回す。殺風景なワンルーム。机の上には未払いの請求書。携帯には実家からの着信履歴もない。
「この世界に...俺を引き止めるものなんて、もうないです」
むしろ、行くべき場所が、やっと見つかった気がした。
「テンポノワール...いえ、ノクトゥルナ様。俺に布教させてください。絶対に、あなたの名誉を取り戻してみせます」
「その決意...しっかりと受け取ったわ」
漆黒の光が、部屋を包み込んでいく。
「では、契約を交わしましょう。私の最上位使徒として─」
その瞬間、俺の体が16歳の少年へと若返っていくのを感じた。35年分の人生経験と、6年間の布教経験を胸に─
「行きましょう、私の使徒よ」
新しい世界への扉が開かれる。それは、ただのオタクだった俺の、第二の人生の始まりだった。
部屋に残されたリズムのポスターが、まるで俺たちを見送るように、静かに揺れていた─。
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