バッドエンドが予定された悪役貴族に転生したので、抗ってみた

消灯

狂い始める帳尻

プロローグ 悪役貴族になってみた

 「──!起きてください!ゼフィ様!」


 視界いっぱいに、美少女の顔が映る。

 控えめな目鼻立ちに、活発そうに桃色に光る大きな瞳。

 浮世離れした美貌だ。


 しかし、最も目を引くのは、そのどれでもなく、彼女の頭に生えた犬のような桃色の耳だ。

 同じく桃色の髪と見事に一体化していて、本物のようにしか思えない。


 俺は、心に中で混乱を抱えていた。

 今、なにが起こっているかを思い出そうとしても、頭に浮かぶのはまるで霧のような断片的な記憶だけ。だが、一つだけ確かなことがあった。


 それは、この世界がゲームの世界であること。


 「……なるほど、これが転生か」


 口の中で呟く。

 情報が整理されていき、一先ず目の前の美少女に集中できるくらいには冷静になる。


「なっなんて不用心なことを! バートリ様のことをお忘れですか!? もし聞かれてたらと思うと……っ」 


 美少女は、体を震わせる。

 自分で言っておきながら、それに怯えるという奇行を恥ずかしげもなくやって遂げる。

 どうやら、彼女は残念系美少女のようだ。


 それで、この残念系美少女は……。


 「ぐっ……が……!?」


 さらに記憶を探ろうとしたら、急な頭痛に襲わた。

 そのあまりの痛みに、頭部を押さえる。

 頭が割れるような痛みだ。まるで、感覚神経が絞られているかのような、鋭く、それと同時に鈍くもある。

 これまで経験したこともないような、常軌を逸した痛みだ。

 あまりの痛みに転がり回りそうになり、しかしその痛みに身動きがとれなくなる異例の事態となっている。


 そんな苦しみを感じると同時に、脳裏に映像が流れてくる。

 自分の映像、この家で十二年間暮らしてきた映像、そして──俺が殺される時の映像。


 「ぜ、ゼフィ様!? どうされたのですか!? お、お待ちください、今すぐ聖職者をお呼びします!」


 俺が苦しむのを見て、慌てて人を呼びに行こうとする残念美少女。

 俺は、それを急いで止める。


 「っ待て!」

 「し、しかしゼフィ様!」

 「……大丈夫だ……治まって、きた」

 「ですが、念のため呼んだ方がいいのでは!?」

 「……俺が大丈夫だと言っている」

 「……はい」


 化石のごとく風化し、埋もれた、骨組みだけになったような記憶を、懸命に掘り起こす。


 俺の名前はゼフィリアン • ドラグニア • アクシア。貴族。爵位は公爵で、ちやほやされて育ってきたため、行動はかなり滅茶苦茶だった。五つで大きな扉を開き、人格が歪んでしまい、婚約者と仲が悪くなる。六つで性に目覚め、若いメイドにエッチないたずらをしまくる。七つで行為を覚え、片っ端から身近な女に手を出す、etc……。

 それでも周りに咎められないのは、初めに戻り、一重に俺が公爵令息だからだ。

 といったところか。


 そして、次に、この残念美少女のこと。


 この娘はモモという名前で、俺が森に魔法を試しに行った時に拾った。

 見た目がよく、俺によく懐いていたためか、気分をよくした俺は、ペットとしてモモを欲した。

 公爵子息の我儘を却下するのは、かなり難しい。当然、それは叶った。

 まあ、法律的は、獣人はペットにできないし、ただで置いておくのも難しいため、ペットといっても、その実メイドのようなものだが。


 「あの、そんなに見つめられると……っ」


 羞恥に頬を赤らめる美少女。

 素晴らしい絶景だ。

 ……その美少女が、残念でなければ。


 気を取り直して、バートリのことだ。

 バートリは俺の父親の婦人だ。俺の義母にあたる、第二婦人。

 だが、バートリは俺の失脚を計画していると見える。俺の実の母である第一婦人はバートリに殺されたらしい。毒殺だったが、証拠がなく、捕まえることができなかった。

 バートリは、予想通りキスト教徒で、発見した異教徒は損得関係なしに全力をもって殺す狂信者だ。だから、別の宗教に深く関係のある転生という言葉はまずかったのだろう。


 「モモ」

 「は、はいっ!なんでしょうっ」

 「今は何月だ?」 


 前任ゼフィリアンは、日付すら覚えていなかったようだ。


 「?三月ですが……急にどうしたのですか?」


 背中に、冷たいものが流れる。

 その答えは、ゼフィリアン • D • アクシアという

の設定にある。


 先ほど、二つの記憶を照らし合わせてみて気付いたのだが、恐らく俺がゼフィリアンとして転生したこの世界は、ゲームの世界だ。


 そう主張する根拠を提示すると、ゼフィリアンとはは、“光の勇者伝説”、略称“ヒカユセ”というRPGゲームの悪役貴族の名だ。ただし、中盤の真ん中ら辺という、超微妙な時期にさらっと死ぬモブ。

 明細は一旦割愛するが、このキャラはどのルートでも死ぬ。しかも、学園でだ。

 犬死に、謀にて使い潰し、エンディングでなぜか『ゼフィリアンは死んだ』と言われる、など、とにかく殺されまくる。

 傀儡ルート(俺命名)という唯一死なないルートでも、精神的に死ぬ。

 ついでに言えば、ゼフィリアンのファンだった俺の精神も毎回崩壊する。


 そして、学園は十五歳の九月に始まる……っ!


 つまり、この質問は残り時間の確認というわけだ。


 さて、このままでは寿命があと二年半弱ほどしかないことがわかった。

 この、ほぼモブキャラとして死ぬ悪役の運命は、俺の手の中にある。そう感じる一方で、過去の行動に対する後悔も湧き上がる。

 死ぬはずの運命にある、つまりは死亡が予定されたゼフィリアンの未来を覆さねばならない。それが、今の俺の唯一の使命だ。


 そのためには、力がいる。


 結論、鍛練。


 というわけで。


 「モモ」

 「は、はい!?」

 「今日のスケジュールは全てキャンセルだ」

 「はいっ!……はい?」

 「いいな?」

 「あの、でも今日はちょっとあの方が……」

 「いいな?」

 「……はい」


 よし。


 計画をたてよう。

 簡単に優先順位を整理する。


 一、魔法を練習。

 魔法にはややこしいグループ分けがされている。まあ、ややこしいと言っても俺くらいになるとむしろかっこよくてワクワクするファクターになり得(ry


 ……おっと、脱線してしまったようだ。


 つまり、魔法には四つの区切りがあり、下から一般級ロイテ超人級ユーバーメンシェン英雄級ヘルデン神話級ミューテンとなっている。

 一般級は生活に必要不可欠な、いわば生活魔法のようなもので、攻撃魔法や回復魔法などは超人級からだ。英雄級が人類の最高といわれていて、神話級は存在が疑われるレベルで強力かつ珍しい。

 そして、超人級からは、それぞれ第一階位から第十階位までに分類される。


 二、剣の練習。

 別に剣にこだわるつもりもないので、変わる可能性はある。それでもわざわざ挙げておいたのは、原作でゼフィリアンが使っていたからだ。

 これにも魔法と似たようなグループ分けがあるが、それは今はいい。


 三、勉強。

 学園では、ゼフィリアンが勉強ができないのを条件に発生するゼフィリアン死亡イベントもある。だるいが、これも必要だ。

 まあ、ゼフィリアンは絶対記憶などの才能まで備えているので、ちょろいだろう。


 四、イベントフラグをへし折る。

 これに関しては、分かっていても、できるかど

うかわからないので、あまり労力と期待をかけてはいけないだろう。



 さあ、まずは、魔法の練習だ。

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