空色杯16(500文字以上の部)

mirailive05

スカイウォークアドベンチャー(創作賛歌編)

「やっちまった……」


 ここは標高120メートル、世界一のつり橋の橋梁だ。その真下に作られたスカイウォークの展望室のさらに下に、青平立冬あおひらりっとは閉じ込められていた。


「学校なんか、サボらなきゃよかったぜ……」


 彼女に振られた翌日。


 学校休んで原二バイク飛ばして、絶景でもと登ってみたら、恐怖主義非合法組織の皆さんが爆弾を仕掛けているところに運悪くこんにちは。どおりで開業前に門が開いていたはずだ。


 なんにも知らずに現場をガッツリ見学してしまい、ばっちり顔も見られたところで、問答無用で発砲された。


「なんでこんなところにテロリストが!?」


 と思ってみたところでアフターカーニバル。運のないやつはどこにでもいるものだ。


 天のおかげか作者のおかげで銃弾には当たらずに、いろいろ漏らしそうになりながら、非常梯子やら階段やらなにやら色々降りたり渡ったりくぐったりして何とか身を隠したのが今ここ。もっと要領よくできないかねえ。


「あーなんて日だこん畜生、それとさっきから言いたいこと言いやがって、やい作者」


(なんだ?)


「うお、返事したぞ!?」


(せっかく返事してやったんだから質問どうぞ。なんだ?)


「なんだじゃねーよ、どうにかしろこの状況」


(どうにかしろと言われても)


「どーにでもなるだろう、作者なんだから!」


(チッチッチ、あまいな。これだからにわかは)


「俄とかブーメランの自覚あるのか、作者として?」


(やかましい!)


「キレられる立場かよ」


(ごほんごほん。作者だからって、小説を好きに書けると思ったら大間違いだ)


「なんで、あんたが書いてんだろう?」


(いいか、小説ってのはめんどくさい生き物なんだよ。それ自体で勝手気ままに動きたがる。気が乗らないからデートキャンセルするお前の元カノのようなもんだ)


「かわいいけど、性格が壊滅的に破綻しているのと同じくらい最悪じゃねーか」


(……その言い方いくらなんでもひどくないか?)


「おれはいいんだよ当事者なんだから。でもあんたはダメ、彼女の悪口言うんじゃねえ、あれでも色々と良いところが……」


(すぐには思い浮かばないようだが)


「うるさい、顔が好きなんだよ、すべて許す!」


(お前の好みも大概だな)


「人のこと言えるか、お前が考えた設定だろうが!」


(おい、いつまでも駄弁だべっていていいのか、凶悪なテロリストがお前を探しているぞ?)


「凶悪じゃないテロリストがどこにいるんだよ。そんなことより逃走ルートくらい教えやがれ、それくらいできんだろうが!」


(まあそれくらいなら、出来ないこともないかもしれないこともない)


「やけに歯切れがわりーな」


(設定が崩れんだよ、それをやると)


「設定なんていくらでも崩せ、おれの命がかかってんだぞ!」


(その割にはスマホいじって余裕じゃないか)


「ちょっと公安に連絡してみた」


(ほう、で反応は?)


「高校生がイタメールするなだと」


(ゲラゲラゲラ)


「笑ってる場合か、お前のせいだろうが!」


(いいのか大声出して、おおよそ凶悪なテロリストが気が付いたようだぞ)


「クソ、この作者改め疫病神野郎っ」


 立冬は展望室の下から這い出すと、反対側のスカイウォークに飛び出し駆け出した。


(なあこの小説、確か彼女に振られた高校生が、海を眺めながら傷心を吐露するっていう話のはずなんだが)


「ほー、初耳だ。どこにそんなエモい要素があるんだ?」


 傷心を理解しないテロリストがバンバン撃ってくる。


(ホリゾンブルーがどうとかのお題を活かすはずだったんだが)


「知るか、立冬もクソもねーやい!」


 やばい、向こうからもテロリストが現れた。両側から挟み撃ちされてしまった。


 ちらりと下を見る。


 ふきっさらしの足元はるか下には、立冬間もなく荒れ狂った海が、ホリゾンブルーの顔色で、おいでおいでと手招きしている。


 立冬が柏手・十字切り・合掌一通りやって、サラームをやりかけたところでタイムアップ。


「(3,2,1!)」


 一瞬重力がなくなると、次いで自由落下の加速度を体感した。


 衝撃と海水の冷たさを感じる暇もなく、立冬の意識はブラックアウトした。




(おーい、生きてるかー)


 その声で気が付いた立冬はガバリと起きた、きょろきょろ見回す。どうやら病院のベッドの上らしい。


「生きてるわっ、お前が書いてんだろ!」


(だーかーらー、作者にもどうにもならんことがって……まあいいや)


「いいのかよっ」


 運がよかったのか作者のおかげか、溺れる前に救助されたようだ。


(そんなことより、公安はきちっと仕事してくれたようだぞ、珍しいことに)


「爆弾は起爆されなかったのか、良かった。それにしてもやけに情報が速くて正確じゃないか」


(作者だからな)


「自由には書けないとか言ってなかったか?」


(……それよりお見舞いしに待合室まできてるの、お前の元カノじゃないのか?)


「ごま……それを先に言えって」


 立冬はマッハの勢いで病院のベッドから駆け出した。


(散々痛い目にあったのに、そんなに元カノがいいのかねえ……?)


 まあ彼女にしろ小説にしろ、善女より悪女の方がハマるものなのは否めない。


(あくまで一般論だが、そこにいる書き手諸兄。心当たりがないとは言わせないぞ)


 神は天にいまし、すべて世はこともなし 。


 作者とキャラクターのバディ関係は、これからも続く。


 終

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