第12話 電話

 同僚達の持つ社用携帯に僕宛ての電話がかかってくることが目立つ、それが一人であったなら単に先方が電話番号を間違えたのだと思うが、部署内のほぼ全員の端末に間違い電話があり、しかも取引先から果ては小学校時代の同級生まで相手はてんでばらばら、なのに開口一番、僕の名前を言ってくるという、取り次ぎを受けて出れば話は噛み合うし、悪戯電話というわけではなさそうで一層不可解である、ある日を境にそれらの間違い電話は全て先輩の社用端末にかかってくるようになった、先輩は頻繁に鳴る着信音にいやな顔ひとつせずとても丁寧な応対をしていた、僕に電話を回すことはしない、しかし毎度近くにいた自分は知っている、落ち着いた口調の合間に、どすの利いた声で二度と電話をかけてくるなと脅していたことを、そして、それから間もなく奇妙な間違い電話はぱったり止んだ、先輩が見せてきた履歴は非通知からの着信で埋め尽くされていた。

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