第24話 ルイーザ



 朝起きたら、イドとルイーザが部屋の隅でこっそりと何やら企んでいた。



「サ、サトシ様お早うございます!」



 イドが私が目覚めたことに気付いたようだ。



「サトシ様、この教会には勇者の使う装備品が多数揃えられています。

 今後のために譲ってもらいましょう。」


「気が進まないけれども、勇者である以上、これでいいのかな?」



 ルイーザはオスカルの姿に戻り、僕らと一緒に部屋を出た。



「おっ、お早うございます。朝食できております。」



 メイドはオスカルに警戒心を抱いているようで、何度もこちらをちらりと見ながら歩いている。

 一方、オスカルはメイドのことは気にせず、ただイドの体をいじってばかりいる。

 朝食中もイドを隣に座らせ、二人は時折僕の方を確認しているようだ。

 何がしたいんだろう……



「サトシ様、イドはサトシ様にヤキモチを焼いてほしいんですよ。」



 コッソリとヴァランテーヌが僕の耳元で教えてくれた。

 そうだったのか……昨日オスカルと引き離したのが嬉しかったらしい。



「イド、こっちへ来てくれないか。」


「はい。」



 イドはオスカルの手を手早く払い除けて、僕の膝の上に腰を下ろした。



「サトシ様、オスカルがひどいですわ。」


「うっ、うん、そうだね。」



 イドは僕に体を擦り付けながら困った顔をして、その後も性的嫌がらせを受ける様子をイドは僕に見せつけてきた。

 イドとオスカルの様子をチラ見するカロルに教会の宝物庫を案内してもらう。



「ここから持ち出す場合は私にお声掛けください。

 中には呪われた物もありますので。」


「呪われると、どうなるんですか?」


「魔力が無くなる代わりに聖属性を得られる物や、生命力を吸われる代わりに空間属性が得られるものなどがあります。」


「使い方難しそうですね。」


「サトシ様、すごいですよ!ヒヒイロカネの剣です!」


「この指輪、収納が50m四方もありますよ!」


 収納の指輪の相場は30m四方でも1億シーロ(100億円相当)で、それ以上は聞いたことがない。



「全てが僕たちのためだけにあるわけじゃないから、必要なものだけね。」


「そっ、そうですね。少し興奮してしまいました。」



 様々な魔道具がある中、僕はヒヒイロカネの武器など、数点を選んで持っていくことにした。

 ヒヒイロカネの大剣はノアへ、エルダートレントの魔法弓をイドとヴァランテーヌに渡した。



「サトシ様、ありがとうございます。大事に使わせていただきます。」



 イドとノアは弓にすりすりと頬ずりしている。



 その後、カロルと分かれてシャームの街を見て回ることにした。






 SIDE ルイーザ



 私はどこから来たのか、どうしてここにいるのかわからないが、私はこのオスカルという男の中に入っている。


 私はヴァンパイアだった。


 人間とうものには食料という感覚しか持ち合わせていなかったが私の主人のサトシ様だけは別だ。


 サトシ様を見ていると冷ややかな私の体が熱くなるのを感じる。

 この感覚はなんだろうか。


 サトシ様の従者のイドから耳打ちをされた。



「サトシ様のために、オスカルになりきる必要があります。私が犠牲になるので私をサトシ様の前で辱めなさい。きっとサトシ様はお喜びになります。」


 私はその言葉通り、イドをサトシ様の前で胸や尻を撫でまわしたり、体を舐めたりした。

 イドの言う通り、サトシ様は私がイドを辱める態度が気になるらしく、チラチラを私のことを見てくれる。

 嬉しい。


 このオスカルという人間は人間の中では階級が高いらしい。

 そのため、私がサトシ様のためにできることをやろうと思う。


 サトシ様は魔王について興味があるようなので私も魔王について独自に調べていこうと決意した。

 私はサトシ様がシャームの宿に戻ったのち、再び教会に戻った。



「カロル、魔王ヴァネッサについて調査隊を編成しなさい。魔王は必ず人間に害となす存在となるでしょう。また、調査隊の報告から、どう討伐するかを研究し、その討伐組織を作りなさい。」


「オッ、オスカル様……かしこまりました。」



 しばらくすると、カロルが9人の人間を引き連れて私の部屋を訪れた。



「オスカル様、調査隊は3人単位として3チーム編成し、教会内で隠密行動に長ける者、戦闘に長ける者、魔法に長ける者を集めました。」


「わかった。魔王には絶対に悟られるな。捕まった場合は自害しろ。カロル、この者たちには望む装備品を支給しろ。」


「はっ、かしこまりました。」


「強者に辿り着いたら、私に報告しろ。」



 カロル達に指示した後、教会内の資料を再度見直すために資料部屋に向かうことにした。私が廊下を歩いていると先ほどまで廊下の掃除をしていたシスターが廊下の端に身を隠した。



「私がそんなに嫌か。」


「いっ、いえ……そんなことは……」


「まぁいい、私にはこの人間世界のことをもっと知らねばならない。お前、私についてこい。」


「かしこまりました……」



 そのシスターは私から3mほど距離を置きながら後をついてきた。

 資料部屋に到着すると、そこには本が入れられた棚がずらっと並んでいた。



「この中で魔王に関する資料を調べたい。見つけたら持ってきてくれ。」


「はい、わかりました。」



 私は主に歴史、魔物のことを記した書類を片っ端から読むことにした。



「お前は何という名前なんだ。」


「はい、エーヴと言います。」


「そうか、エーヴ、腹が減ったから何か持ってきてくれ。」


「はい、かしこまりました。」




「オスカル様……寝てしまわれたのですね。」



 私はいつの間にか寝てしまったようだ。人間の体は面倒だ。食べ物を食べないと腹が減り、睡眠をとらないとだんだん弱っていく。



「オスカル様、昨日は遅くまでお疲れさまでした。お体お拭きしますね。」



 そう言ってエーヴは私の服を脱がせていき、手拭いで私の体を拭いていった。



「体を拭かれると気持ちいいな。」


「そうですか。それはよかったです。すぐ朝食お持ちしますね。」



 エーヴが持ってきたのは野菜のスープにパン、卵、ハムと呼ばれるものだった。




「今日の朝食は私作ったんですよ。」


「そうか。この体には食事が必要なようだからこれからも頼む。」


「はい、がんばります。」




 次から私のお腹が減るころになるとエーヴが何か食事を作って持ってきて、いつの間にか寝てしまった朝には布団が掛けられていた。



 5回目の朝を迎えた時



「そろそろ、この資料室の本は読み終わったな。」


「行ってしまわれるのですか。」


「そうだな。他に本がある場所があるか?」


「はい、領主の館にも多くの本があると聞いたことがあります。

 あの……行かれるのであれば、私も連れて行っていただけないでしょうか。」


「当り前じゃないか。」


「ありがとうございます!お供させていただきます。」



 さっきまで暗い顔をしていたエーヴが急に楽しそうな表情になった。




 エーヴと教会を出て領主の館へと向かった。



「お前が勇者か、随分とこの街でやりたい放題らしいじゃねぇか。

 お前を倒したら俺が勇者ってことなんだよな。」



 道の真ん中に、全身鎧をまとった大柄な中年男性が立ちはだかっていた。



「オスカル様は、魔王討伐のために皆を代表して闘っているのですよ。あなたなんか……」


「なんだ、シスターなんぞ、どけっ」


「きゃっ」


 そういうと男はオスカルの前に体を割り込ませたエーヴを手で横に払いのけた。

 私はすぐさま、その男の手を小手ごと掴んだ。



「いててててて!放せ!放せって言ってるだろう!」



 金属製の小手がきしむ音を立てながら潰れていき、その小手は男の腕をしっかりと締め付けた。



「やめてくれ!悪かった!悪かったから!」



 手を放すと自分の腕を抱えて走り去っていった。




「エーヴ大丈夫か?」


「はい、オスカル様ありがとうございます……オスカル様のことをあんな風に言うなんて許せない……」



「言わせておけばいい。行くぞ。」



 エーヴは私の横に並び、歩き始めた。


 私はここで思い出した。

 私はオスカルを演じなければいけない。

 私はエーヴの体を抱き寄せて、その体を撫で回しながら歩くことにした。



「お……オスカル様、こんな沢山の人がいる前では……」



 エーヴは嫌がる様子もなく体をクネクネとさせている。



「勇者様、嫌がっているでありませんか。やめてください。」



 すると今度は20歳くらいの青年が私の前に立ち塞がった。

 私は構わずエーヴの唇に唇を重ねてエーヴの体をその青年に見せつけるように服の中に手を差し入れた。



「きゃっ」



 エーヴが体をビクッと震わせて小さな声を発した。



「この!」



 青年は殴りかかってきたが、動きは随分と遅く雑だった。足を引っ掛けて青年を転ばせたが、彼は諦める様子を見せなかった。仕方がないので、亜空間収納からロープを取り出して彼を縛ることにした。


 エーヴは声を押し殺して、私に身を委ねながら体を触られるのに耐えて歩き続けた。



「勇者オスカル殿、本日はいかがなされた。」


「勇者局のエーヴです。あっ……オスカル様だめです……オスカル様のご意向で、魔王に関する書物を閲覧に来ました。」


「承知した。この者に案内させよう。」



 そう言った後、体格の良いフルアーマーの案内人が私たちの前を歩き始めた。

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