第20話 記憶
「サトシ様、人間の船が襲われています。
すぐにそのもとへ船を向かわせたいと思います。」
「わかった。すぐに向かって。」
海から甲板にあがった下半身魚姿のマーマンが報告してくれたため、すぐに船の進路を変え、スピードを上げた。
「あれか。僕が行くから船を隣まで寄せて。
僕がいいって言うまで手を出さないでね。」
「サトシ様、気を付けてくださいね。」
「うん、ありがとう。」
僕は横につけられた船の甲板に飛び乗った。
「助けに来ました。大丈夫ですか。」
「ありがとう、助かる。
こいつら切っても切っても起き上がってくるんだ。
ひぃいい。」
その目線の先にはかつては人だったであろう腐肉のついたゾンビがどこからか湧き出てきていた。
僕はそのゾンビたちの手足を切り落として海に落としていった。
ゾンビたちは船の下の階から来ているようで僕もその発生源のほうへと進んでいった。
船の一番下の薄暗い荷物室に、その存在がいた。ローブを纏い、手には杖を持っている。ローブの隙間からは赤く光る目を持つ骸骨が覗いていた。
床には魔法陣が光っていてそこからアンデッドモンスターが湧いてきていた。
「小僧、邪魔だ。」
ローブを纏ったスケルトンが黒い槍を放った。
僕は槍をかわしながら横に移動し、スケルトンの側面に回り込んだ。
(テイム)
彼はスケルトンの骨腕に触れ、念を込めた。すると床の魔法陣からの光が消え、これ以上アンデッドが現れることはなかった。
「お前はなんのためにこの船を襲ったんだ。」
「長年、このローブの作成に命をかけてきました。
命を終える時、このローブと共に大地に眠るはずでした。
しかし、このローブは掘り起こされ、ここに持ち込まいわくつきれました。」
「わ、私もそのローブを買っただけで、そんないわくつきな物とは知らなかったんだ!」
「こう言っているし、許してあげてよ。」
「主の言うことには従う。」
「ああ、ありがとう。私の名前はアンドレ、カルビアで商売をしています。本当に助けられました。
冒険者の方ですか?」
「まぁ、そうですね。」
「もしカルビアで住宅をお探しなら、ぜひ私にお手伝いさせてください。私は建築と販売を専門にしております。
サトウ様の教会や銭湯の建築も、私が手掛けさせていただいたんですよ。」
「えっ、サトウ様?サトウ様は今どうされているんですか?」
「私も完成した後はお会いしていないんです。」
少しおなかの出たアンドレの船と離れ、マーマンを5匹ほどわからないように護衛させ、僕たちは船で再びカルビアに向かうことにした。
「サトシ様……この骸骨はいったい……?」
「私は骸骨ではない。ボーンネクロマンサーだ。名前はまだない。」
「長くて言いにくいから、ネクロでいい?」
「おお、まさかお名前いただけるとは光栄です。」
「ネクロの使っていた魔法陣は魔法なの?」
「はい、それは死霊魔法で、契約した死霊を呼び出す魔法です。死んだ肉体に触れ、魔力を注ぐことで契約が成立します。しかし、失敗する可能性もあります。私もまだ死霊魔法を完全には理解していません。」
「死霊魔法か。
ネクロ、少し試したいことあるんだけど、いいかな?」
「はい、何でしょう。」
僕はネクロの胸元に手を置いてその魔法を唱えた。
“【復元魔法】を発動”
光がネクロの胸から広がり、かつて骨であった部分に肉の繊維が急速に形成され始めた。やがて毛髪、眼球、爪、そして体の細部に至るまで、完全な人間の姿へと変わっていった。
「こっ、これは……かつての私の姿になったのですか……
再びこの姿に戻れるとは、サトシ様ありがとうございます!」
ネクロは40代の細身で、長いブロンドの髪を持つナイスミドルに変わった。この復元魔法は海の魔物を手なずけた際に得たものた。
「この復元魔法は生者を治す治癒の効果はないけど、物を復元することができるから、ひょっとして直せるんじゃないかと思ったんだ。
うまくいってよかったね。」
「サトシ様、この復元魔法はすごいですぞ。死霊魔法との相性がとてもいい。死者の肉は腐敗し、最終的に骨だけになってしまいます。」
「人の体は食料や水、空気から栄養を取ってその体を維持していくんだけど、生きていないネクロにはそれができない。今の体を維持していく方法を模索してよ。」
「はっ、必ずや。」
そう言うと、ネクロは体を動かしたり走ったりしてその体の具合を確かめ始めた。
「サトシ様、カルビアが見えてきました。」
「サトウという人物に今回は会えるだろうか。」
「きっと会えますよ。」
僕は再びカルビアの街に入り、最初に銭湯に向かうことにした。
「サトウさんのことを知りたいんだけど、知っている人はいる?」
「サトウ様は最近いらしておりません。教会を訪ねてみてください。」
教会は前にも行ったんだけどな。
銭湯のすぐ近くで人のにぎわう教会へと再び足を踏み入れた。
「君は……ルチアなのか……?」
「サトシ……」
「随分と前のことだったか、あの時はすまなかった。
君はこの教会のシスターだったのか。」
「はい。以前のことはもう気にしておりませんので、お気になさらずに。」
「サトウさんのことはここで聞けと言われて来たんだ。
実は僕はサトウさんと関わっていたらしいんだけど、その時の記憶を無くしてしまっているようで何があったか知りたいんだ。」
「そう……サトウ様は……」
ルチアがそう言った後、目に涙を溜めながら小さく「ついてきて」とつぶやいた。
彼女は静かに教会を出て森の中を歩き始めた。先ほどまでの明るい表情はなく、真剣な面持ちに変わっていた。
歩いていけば1日かかるというので、待機していたグリーンリザードを呼び寄せ、ルチアを乗せて走り出すことにした。
ルチアは静かにその進む方向を指で知らせてくれた。
「ここです。」
ルチアがぼそっと教えてくれた場所で、グリーンリザードを降りて歩き始める。
森の中では、何人かが木材を使って建物を建てているのが見える。
まるで新しい村を作っているかのようだ。
さらに歩を進めると、直径約3メートルの大木の下で、エルフたちがその木に寄りかかって横たわっている姿が見えた。
「随分と懐かしい男が来たものね。覚えているかしら。」
「イデンの教会の魔法使い……どうしてここに……」
「私の名前はリナ、あなたのことはサトウ様から聞いているわ。
ここに来たらすべてを話してほしいと言われているの。」
そう言って、リナは僕のこと、サトウさんのことをしずかに話し始めた。
サトウさんの魔力がコリーナのテイムをキャンセルしたこと。
コリーナのテンプテーションで僕が操られていたこと。
サトウさんがこれまで救った女の人のこと。
銭湯や教会、アリカンテのこと。
サトウさんが魔王ヴァネッサによって魔力を乱されてこの大木になってしまったこと。
リナは静かに僕に教えてくれた。
そうか、コリーナが僕に……。
「リナ、情報を教えてくれてありがとう。
そして、教会で僕を止めてくれてありがとう。
あのままだったら、僕はイデンを滅ぼしていただろう。」
「そう、よかったわ。」
リナと別れた後、再び建設中の建物の横を通り過ぎる。その時、サトウさんを守るための集落を作っているのだと理解する。
サトウさんの大木の周りの森をリザードで駆け巡りながら、魔物を次々とテイムし、サトウさんとその周辺の集落を守るように命じていく。
大量の魔物にその指示をして、予約していた宿に戻った。
「サトシ様、おかえりなさい。心配しましたわ。」
宿のドアを開けるとイドとヴァランテーヌが僕をぎゅっと抱き寄せてくれた。
「ただいま。サトウさんに会ってきたよ。」
僕は二人に抱きしめられ、優しくベッドの上で慰められて意識を手放した。
次の日、もう一度銭湯を訪ねた。
「あら、昨日の方ですね。サトウ様にはお会いできましたか。」
「あぁ、ありがとう。おかげで会うことができたよ。
ところで、ここの責任者のアリーチェという方に会うことはできるかな。」
「サトウ様にお会いできてよかったですね。
お呼びしますね。」
彼女がそう言った後、目を閉じて集中を始めた。
しばらく経つと、眼鏡をかけた、仕事ができるという雰囲気を漂わせる女性が僕の前に現れた。
「私がアリーチェです。
あなたはサトシね。
今日はどうしたの?」
「はい、サトウさんのことでお話したいことがありまして。」
「奥で聞くわ。」
僕はそう言われると奥の個室に案内された。
「まず一つ目は僕が預かっている金塊ですが、アリーチェさんにお渡しした方がいいと思っています。
サトウさんに近しい方と伺っていますので。」
「そう、わかったわ。
私が預かり、サトウ様のために役立てます。
一つ目ということはまだあるのかしら。」
「はい、実はイデンで、ここにあるような銭湯を作りたいと思っているのですが、僕はイデンに入れない事情がありまして、手助け願いないでしょうか。」
「入れないということは後ろめたいことがあるということ。
それなのに、敢えてイデンで?」
「僕の個人的な償いです。」
僕はイテンでの事件について簡単に説明した。
「わかりました。
少し人をあたってみます。
明日また同じ時間にきてください。」
――――――――――――――――
記憶を失ったあたりのストーリーは
「無限の魔力で無双する異世界ハーレム生活」
https://kakuyomu.jp/works/16818093088046541324
をご覧ください。
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