第19話 脱獄

 どれだけ月日が経ったのかわからないが、今日も引きずられて外に出された。



 数日前から寒い日が続いていると思っていたがチラチラと雪が空から降ってきてた。

 当然ながら、ほとんど裸状態のため、寒く、震えで歯がカチカチとなる。


 空から降り散る無数の白い塊を見ながら今日もこれから行われることを思う。



 そうしているとマントを深くかぶった3人がこちらに駆け寄ってきて拷問官に液体をかけた。



「なに……」


 拷問官は声を発しようとしてその場に昏倒してしまった。

 護衛していた衛兵4人とマントの者は息を合わせて俺の拘束をそのままに袋に入れられた。


 いつもと違う境遇に胸が高鳴る。

 この地獄から逃げられるのか。

 だが、自分みたいな罪深い人間か逃げてもいいのだろうか。


 袋の中でごちゃごちゃになった後、暗く閉じられた空間から光が差し込んできた。



「サトシ様、助けるのが遅くなり申し訳ございません。」



 そう言って袋を開けてくれたのは我先にと顔を寄せてくるイドとヴァランテーヌだった。

 そうか、エルフたちにはテイムをかけていたわけではなかったな。



「サトシ様が拷問を受けていたことを知ったのが遅くて……長い間ひどい目にあっておられたのですね。」


「イド、僕は罪深い人間だ。私の罪を償うのに必要なことだったんだ。イドが思いつめることは何もないよ。すべて僕の責任なのだから。」


「ヴァランテーヌもサトシ様のことをずっと心配しておりました。こんな街、すぐに出てレイエスに戻りましょう。」


「ヴァランテーヌもありがとう。僕のせいで3000人以上の罪もない人達を殺してしまったんだ。罪を償わないといけない。」



「サトシ様、一旦レイエスに戻ります。このままではここにいるエルフ全員捕縛される可能性があります。」


「そうだね。任せるよ。」



 僕がそう言うと、イドとヴァランテーヌに体を支えられて箱の中に入れられた。

 箱の中で揺らされてどこかに移動させられる。

 箱の中にいてもイドとヴァランテーヌは箱の外から声をかけてくれた。


「サトシ様、サトシ様に作っていただいたエルフ薬製造所は今も稼働しております。サトシ様が見られたときにはまだエルフも少なかったと思いますが今では製造所の部屋に収まらない数のエルフもおり、街で下宿する者が製造に働きに来ています。」


「ヴァランテーヌ、いかにもあなたの手柄みたいにいうけれど、あなたの功績だけじゃないわよ。サトシ様、エルフポーションは今でも需要があって、すぐに売り切れてしまいます。」



 ずっと二人が話しかけているのを涙を流しながらただ聞いていた。


 馬車から伝わる振動が収まり、動きが止まった。



「サトシ様、船に乗ります。サトシ様の船です。もう少しですよ。」



 箱の振動はほとんどなくなり、おそらく波の揺れを感じるようになった。



「サトシ様、入り江の拠点に到着しました。もう大丈夫です。

 長旅お疲れさまでした。おかえりなさい。」


 木の箱の封印していた釘がはずされて、蓋が開けられた。



 目の前に広がったのはイドとヴァランテーヌとノアが中心になって作ったいつかの入り江だった。


 魔物が運ぶことがなくなったため、海水を利用した風呂も稼働していないが当時の活気あふれる姿がフラッシュバックする。



「「サトシ様……」」



 イドとヴァランテーヌが俺にもたれかかってきたが、僕はその重さをささえることができず、後ろに倒れてしまった。



「「サトシ様!」」



「二人ともすまないね。僕は二人の体を支えることも、その想いを受け止めることんもできなさそうだ。

 僕はただの人殺しだし、君たちの考えるような立派な人間じゃないよ。」


「私はサトシ様が人殺しでも関係ありません。サトシ様がどう思われていても私はあなたに救われました。

 ポーションはレイエスのまちだけではなくて、イデンにも、他の街にも出荷しています。

 私たちの作った薬は多くの人のケガ治療のためにつかわれていますよ。」


「ありがとう……イド、僕はずっと痛みと闘いながら孤独と闘ってきた。

 イド、ヴァランテーヌこれから、表舞台には立てないだろうけど、これからも、僕と一緒にいてくれるかな。」


「「ええ、もちろんです。」」


 イドとヴァランテーヌ以外のエルフの方たちも「私も私も!」と僕に押し寄せてきて痛かったけど枯れたのかと思われた僕の目に大量の涙が溢れた。



    ▽



 僕は一人で歩くことすら出来ないくらい衰弱していたようでろくに歩けず、しばらく入り江の拠点で過ごすことになった。



「サトシ様、今日はかなり歩けるようになりましたね。」


「うん、イドのお陰でだいぶ筋肉が戻った気がするよ。」


「サトシ様、私の料理は効果ありますか?」


「ヴァランテーヌの料理も役に立ってるよ。」



 他のエルフたちは昼間は薬製作所で働いているので、僕ら3人だけだ。


「もう少し動けるようになったら魔物のテイムをまた、したいと思う。

 僕にはやっぱりこれくらいしかできないからね。」


「サトシ様の思うがまま、なさってください。」


「ありがとう。

 これからは魔物を使って人に役立つことをしていきたいと思う。

 素材を売ったり、財宝を売ったり、そのお金で何かできるかもしれない。」


「そうですね。それには早く自由に動けるようにならないといけませんわ。」


「そうだね。もう少し頑張ろうかな。」


「はい、お付き合いしますわ。」



    ▽



 それから一か月が経って、体力も概ね戻ってきた。


「ヴァランテーヌ、今日から森に狩りに行きたいと思うけど、どうかな?」


「わかりました。私もついていきますね。こう見えても私弓属性と火魔法の適正があるんですよ。」



 ヴァランテーヌはそう言って亜空間収納から木製の弓を取り出した。



「その弓は……」


「はい、サトシ様にいただいたトレントの弓ですわ。

 オイルを塗ったりして、しっかり手入れしておりますのでまだまだ使えますよ。」



 使い込まれたトレントの弓を自慢げにヴァランテーヌは見せてくれた。



 その日から森に入りゴブリンを狩ってはテイムさせ、そのゴブリンに新しいゴブリンを狩ってこさせてどんどん数を増やしていった。

 ゴブリンからオーク、ラミア、オーガ、サイクロプスと強い魔物も少しづつテイムできるようになってきた。


 テイムスキルの恩恵でテイムした魔物のステータスが僕の一部となることから僕のステータスもかなり上がってきた。

 魔物達には人を襲わないようにして、困っている人は積極的に助けるように指示した。



「イド、ヴァランテーヌ、あの船はまだ使える?

 もう一度カルビアの街に行きたいんだ。」


「はい、すぐにでも出せるように整備してあります。

 何をされるために向かわれるのですか。」


「僕が記憶を無くした時、何をしていたのか知りたい。その鍵を握るサトウという方のことを、知る必要があるような気がするんだ。

 イドとヴァランテーヌにも是非付いてきて欲しいんだけど、ついてきてくれるかな。」


「ええ、どこへでも着いていきますわ。」



 これまでテイムした海の魔物に船を動かしてもらい、久しぶりに船を動かした。

 この船の初出航がイデンの街に行く時だった。

 あの時はこんなことになるとは思わずに、軽い気持ちで上陸したんだった。


 魔物達に押してもらい真っ青な海を進む。

 下半身が魚の魔物や全身鱗の魔物、シャチのような魔物など、海の魔物は様々だ。

 船が進んでいる間もテイムした魔物が捕らえた魔物を甲板に運んでくるのでその都度テイムをして、さらにその数を増やしていった。


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