雪降る夜も君といたい
桜田実里
第1話 君と過ごす初めての冬
12月の上旬。
朝、玄関の扉を開けると、あたり一面は銀世界だった。
「わ、初雪だ~」
私の住む地域は寒くて毎年12月には雪が降るんだけど、今年もこの季節がやってきたんだなあと思う。
「お、雪降ってるじゃん」
「あっ、
振り向くと、そこには今起きたばかりであろうパジャマ姿の晃成くんの姿があった。
あいさつすると、「はよ」と返してくれる。
「じゃあ行ってくるね」
「えーま、雪に滑ったりするなよ。お前危なっかしいんだから」
晃成くんが冗談交じりに言ってくる。
「うっ、うん。だけど私、足元に気をつけないほど幼くないんだけどなあ……」
「いつもなにもないところで躓くようなやつが何言ってるんだよ」
「ちょっと
リビングのほうから、お母さんの声が聞こえてきた。
そうだ、時間っ!
「じゃあほんとに行ってくるね!」
「ああ、いってらっしゃいよ」
晃成くんに手を振って、私は家を出た。
遅刻……もあるけど、
足元に気をつけながら、私は早足で向かう。
そのとき、まっしろな雪に映える金色を見つけた。
私と同じ学校の制服。それはまぎれもなく、望くんの姿だ。
だけど……あれ?
待ち合わせ場所まではまだまだ距離がある。
も、もしかしてっ。
私は急いで走った。
———と、思ったら。
「わあっ!」
足がすべって、身体が後ろへ傾く。
う————。
痛みを覚悟して目をつむった。
……だけど、いつまで待っても痛みは来ない。
おそるおそる目を開けると、そこには焦った顔の望くんがいた。
「……大丈夫か、映茉」
「わっ、望くんっ!」
もしかして、転びそうになったところをとっさに支えてくれたのかな……?
数秒待ってから状況を理解した私は、慌てて姿勢を立て直す。
晃成くんに気をつけろって言われたそばから、これだよ……。
「ごっ、ごめんなさいっ! ありがとう……」
「映茉じゃなかったら、たぶん間に合わなかった」
その何気ない一言に、私はうっとなる。
そ、それはつまり……。
「……映茉ならたぶん、転ぶだろうなって」
「し、信用がない~」
「……というよりか、心配だから。映茉のこと。今日だって、少し遅かったからなにかあったのかと思ってこっちまで来たわけだし」
からかわれているのかと思いきや突然優しい視線を向けられて、身体の芯から熱がわく。
まだまだなれないなあ……。
「あっ、遅くなったのは、ごめんなさい……」
そう謝りながらふと、望くんの耳が目に入った。
そこにあったのは、ピアスの穴。
望くん、学校のある平日はピアスを外しているんだ。
金髪は生活指導にギリギリ黙認されているみたいけど、ピアスはダメらしい。
そういえば望くんが中学生の時に髪を金髪にしたのは、お母さんに背くため、だそう。
望くんは「映茉が嫌なら黒に戻すけど」なんて言ってくれたけど、私は金髪でも黒髪でも、どんな望くんでも好き。
だから、そのままでいいよって伝えた。
私たちは合図なく同じタイミングで手を差し出し、繋ぐ。
治谷市は今日も寒い。
だけど隣に大切な人がいれば、心から温かくなるんだ。
————望くんと過ごす初めての冬が、始まる。
雪降る夜も君といたい 桜田実里 @sakuradaminori0223
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