マケノビガク
石鬼輪たつ🦒
第1話 マケノビガク
12月。
積雪するまで
全国高校
ベスト8までの試合は昼食休憩前に終えた。
チームメイトで弁当をカッ食らう時間は、人生のランチタイムで一番と思えるくらい楽しいものだった。
準々決勝でマッチングしたのは、予選決勝候補と目される
準決勝も似たような
俺たちが強くなったせいなのは確かだ。しかし
すでに俺とチームメイトの
「おい、決勝……全国3位のあいつ、中堅だけど、
試合前の
俺は、大丈夫だと気軽に返答した。
ところが大将の気がかりはなくならないようすだ。
――試合開始から、たったの5分後。
「一本、それまでっ!」
その
次鋒が負けた。すでに先鋒も一本負けを
これで、バツが2つ。
中堅、すなわち俺の後ろにはまだ2人いるが、後がない状況だ。
そして
決め手は俺の甘い
礼儀よくおじぎしてから
「いやー、悪い。やはり想像を超えて強かっ――」
「お前、ふざけんなよっ!」
すると、大将・開斗が怒声とともに、俺に
「絶対、1回目の投げの時点であきらめただろ。勝つことを! 何すっきりして終わってんだよ。お前のせいで、オレたち『全国』行けなくなっちまっただろ!」
大将は思うがままという不満を俺にぶちまけた。俺は否定せず、返事をのむ。
試合中にもかかわらず仲間割れをしたチームに、審判が「静かにしなさい!」と
俺たちの
「……負けるってのは、全力でぶつかってお
その宣言を最後に、俺は大将と柔道をすることはおろか、部活でも私生活でも口をきくことはなかった。
俺のせいなのは分かっている。
俺が負けたから――ではない。俺が「負けようとした」からだ。
県予選のあの一戦。対戦相手が全国3位の実力者と聞いていたから、試合中に
やつの
俺はみじめにもそれらに
だから一度の鮮やかな敗北を目指して立ち回り、やり
俺にとって、柔道は勝ち負けに
心技体による駆け引きと、
この柔道観――きざに言えば「
それでも俺の柔道人生は、つねにこの美学の
しかし、「誰も、今後お前とは絶対に組まない」か。
大将の
俺も、組むべきではないと思う。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「
生意気さが俺のみぞおちを
「ああ。ちょっと、
「へえ。で、勝ったん?」
「いや……勝ってたら、今こんなに落ちぶれてない」
当時の県予選敗退から、俺の柔道にかける情熱はうしなわれ、進路についても絵に描いたような転落劇をたどっていた。
大学のスポーツ推薦枠から外れて、しょうもない短大に通いながらバイトで遊びの金を稼ぐだけして、あとは自宅で引きこもり。短大卒業後も引きこもり。
気がつけば、華やかな20代の1年間を使い
「それがどういう経緯か、スポ少の
俺の手は無意識に、目の前のポニーテールの少女に向き、その頭をぐしぐしと撫でつける。
「ちょっと、キモい! 急に撫でんでよ。他の学校の子にからかわれるでしょ」
「ただの景気づけだって」
てきとうな言い訳をして、少女をなだめる。
今日の12月も、ぽつぽつと水っぽい雪が降り始める。
じょじょに本降りとなって来たので、俺は少女を含むスポーツ少年団の児童たちを武道館内に
数年ぶりに訪れた館内は
「……ちょっと、緊張してきた」
ポニーテールの少女が横でつぶやく。
普段は勝ち気なようすだが、いざという時にはちゃんと緊張することができるんだなと、俺は少し安心感を覚える。
「大丈夫。教えただろ、『勝ち負けにこだわるな、全力でぶつかれ』って。そうすればみんな、勝ったら一緒に喜んでくれるし、負けても絶対バカにしない」
「うん……知っちょうし」
「ならよし!
俺は少女に
少女は心なしか
地元の小学生柔道家にとって、一番
俺は出場校の指導員として参加する。監督ではない。サポーターのようなものだ。
つまり、選手たちを直接指導することはできなかった(美学とかいうヘンな思想に触れずに済んだと思えば、まあいいのだろう)。
ただ、彼女たちとの出会いから今日までの数か月間、俺は練習にたずさわってきた。
少しでも彼女たちが楽しく柔道に接し、そして素晴らしい柔道家になれるようにと思って。
その成果が、ほんのちょっと――よぎる程度でいい。試合の中で感じられたなら、俺と柔道との距離も、気持ち
マケノビガク 石鬼輪たつ🦒 @IshioniWatatsu
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