俺の国って絶対に詰んでるでしょ? ☆カクヨムコン10【長編】応募作品☆
そうじ職人
Episode.001 俺の国って一体どこに救いがある?
「チュン、チュンチュン、チュン、チュチュチュチュチュ……」
高級な白い絹糸で編み上げられたレース越しに、長閑な日差しが瞼の上を優しく揺らぎ、どこからともなく小鳥のさえずり?が耳元に木霊する。
「もう朝か……」
薄く目蓋を開きながら、漆黒の瞳がなぜか枕元に注がれる。
「お目覚めに成られましたかな?ラウール様」
そこにはグレーの髪に、執事服をパリッと着こなしている初老の男性が、恭しくお辞儀をしていた。
「おはよう。セバスチャン……」
俺は執事に声を掛けた。
「ラウール様。私めの名前は生まれ以って、シャラクでございますが?」
「じゃあ、おやすみ。シャラク」
俺は執事に声を掛けると再び、意識が深淵へと沈み込んでいく。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「チュン、チュンチュン、チュン、チュチュチュチュチュ……」
(俺の耳元に朝の訪れを知らせる、小鳥のさえずる声が……って!)
「また一段と腕を上げたもんだなぁ!」
俺は怒りと共に、本日もシッカリと不機嫌な朝を迎えた。
執事は薄手のガウンを手渡しながら、得意気に説明し始めた。
「この鳥はヤマシジュウカラの亜種で、北の魔法王国の山深き山林にのみ生息するという…」
「別に小鳥の特徴なんて聞いてないから!」
俺は薄手のガウンに袖を通しながら、シッカリと釘を刺した。
遥か南方の通商連合では、ツッコミともいう。
お約束らしいので……ここら辺りで簡単に自己紹介すると、俺の名前はラウールと言う。
今年で19歳だ……以上。
すかさず執事のシャラクが、口を挟んできた。
「ラウール様のお名前だけは、先程から連呼しておりますぞ。本名を『ラウール・ドゥ・ロレーヌ』と仰る、若きロレーヌ国王よ」
(こんのーぉ!また勝手に心を読みやがったな。この老いぼれ執事め!)
すかさずシャラクが、口を挟んできた。
「ロレーヌ国には優秀な読心魔法の達人にして、ニヒルでダンディーな執事のシャラクが、長年仕えている」
「どこがダンディーだ!只のジジィじゃないか。俺がせっかく“初老の”って少しだけ良い感じに、モノローグで伝えたばかりなのに!」
……という事で、自己紹介はジジィが不在の折りに、改めて行いたいと思う。
「そうは言っても、ラウール様。読心魔法は相手の思考を読み取る魔法。繊細な魔法制御と燃費の悪い膨大な
「アッパラパーって……朝っぱらから俺に対して、危険な魔法を使ってんじゃねーよ!というか今日、初めて聞いたぞ?」
急にモジモジしながら、シャラクは言った。
「だって……いきなりこんな話をしたら、執事になんか雇って貰えなかったら大変じゃもん」
「ツンデレかよ!ってより、俺の年齢の三倍は長く生きて居ながら、何故今更言うかなぁ?」
俺は執事としての手腕も確かだが、元どこぞの国の宮廷魔導士だったことを思い出した。
(アッパラパーって……ひょっとして、本当にどこぞの国でやらかしたのか?)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
暫らくすると、静かに扉をノックする音が聞こえた。
俺は目線でシャラクを扉口に向かわせると、外に聞こえるように応えた。
「おはよう、クリスティーナ。入ってくれ」
その言葉に合わせて、シャラクが扉を開いた。
「おはようございます。旦那様」
外出用の聖職服の上から聖女のローブで身を包んだ、婚約者のクリスティーナが静かに入室してきた。
「クリスティーナ。今日もこんな時間から外出かい?」
クリスティーナは、シルクの様に滑らかで腰まで届く金髪を、
顔立ちは元々童顔ではあるが、こうして聖女然としていると、美しく青く透き通るような瞳から、カリスマと気品漂う美しさが引き立てられる。
すると聖職者のみが行える、聖印を切って答えた。
「わたしは聖女ですから、朝のミサから教会に居なければなりませんわ」
彼女の使う聖魔法は、特別なのだそうだ。
今の聖印だけでも、多大な幸運をもたらすそうである。
しかし彼女が、毎日祝福の聖印を与えてくれているにも拘らず、ロレーヌ国の国情は好転する気配さえない。
(クリスティーナが居なかったら、とっくに亡国の憂き目に遭っていたに違いないな)
「俺は、このロレーヌ国をまともな国に再建してみせるぞ!」
ついつい抑えがたい衝動が、言葉になって盛大に漏れ出てしまった。
「健全な財政国の王に、俺はなる!」
「そんなこと改めて宣言なさらなくっても、皆存じ上げておりますわ」
クリスティーナは軽く口元に手を当てて、クスクスと笑って言った。
「ところでクリスティーナって、婚約者としてお城に入って二年経つんだっけ?」
クリスティーナは、優し気な微笑みを讃えて答えた。
「もう間もなく三年目になりますわ」
「ところで流石に、そろそろ挙式の日取りを決めたりしなきゃあダメじゃないかな?」
クリスティーナは、コロコロと笑い掛けた。
「旦那様ってば、冗談ばっかり。聖女が結婚できる訳がございませんわ」
「あはははは……そうだよね、知ってたよ。ところでクリスティーナは、婚約者って意味知ってる?」
「もちろんですわ。将来を誓い合った仲を言うのですわ」
(絶対に分かってない!)
俺は心の声をそっと胸に秘めて、クリスティーナに言った。
「そろそろ朝のミサの時間だね。行ってらっしゃい」
俺の心の中では、滝の様な涙で溢れかえっていた。
何やら扉口に立つ、執事のシャラクも熱くなった目頭を押さえている様だった。
きっと、読心魔法を使っていたに違いない。
「それでは今日も、聖女の務めを果たして参りますわ」
クリスティーナは聖女らしく優しく微笑みながら、王妃らしく優雅にカーテシーを取り一礼して外出して行った。
「なぁ、俺って結婚出来るのかな……?」
俺は誰に問うでも無く、独り言ちていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
昼を迎える頃になると、又も扉をノックする音がする。
朝とは一味違う、元気いっぱいな調子だ。
俺は執務の筆を止めると、扉口に控えるシャラクに合図を送った。
シャラクが扉を開くと、いつもの様に妹のサーシャが飛び込んで来た。
俺の座る執務机に近づくと、広げられた政務の書類を一瞥しただけで、開口一番に訊いてきた。
「お兄様、あたしの婚約の話って決まりましたか?」
サーシャも今年で16歳だ。
良く亡き母親に似ていると言われている。
銀髪に薄茶色の瞳は網膜内の血管が透けるためオレンジ色に見えて、光によっては赤く映る。
アルピノが持つ特徴であるそうで、黒髪黒瞳の俺とは印象からして、真逆な血筋が現れてしまったように思える。
本当に血が繋がっているのか?と疑いたくなるような、お淑やかさと可愛さを兼ね備えた妹であった。
少なくとも去年までは……。
しかし最近は、ほぼ毎日の様に押しかけてくる。
もはや日課の如くだ。
「昨日から進展なんて望めないぞ。それでも一件だけ縁談の話が来ていたな」
サーシャは前のめりになって、見合い写真に手を伸ばした。
もっとも写真と云っても、魔法使いが特注の魔法陣の描かれた紙に、念写の魔法で薄っすらと輪郭を写し出した物に、専門の絵師によって彩色が施される。
まぁ、結局のところ絵師の腕次第で、姿形は依頼主の要望に合わせて加工されてしまうのだ。
全くの別人とまではいかないものの、大抵のお見合い写真は詐欺の様なものである。
そしてお見合い写真には、直筆のプロフィールが、書き込まれているのが一般的だ。
サーシャは顔写真は一瞥しただけで、プロフィールの方に目を釘付けにしていた。
「通商連合の有力商会って?こんなお店、名前も聞いたことが無いじゃない!しかも三男なんて、仕事の手伝いで苦労する未来しか思い浮かばないわ」
俺もさすがにその点には同意した。
「だから期待するなって言ってるだろ?」
俺の言葉に詰め寄るように、サーシャは文句を並べ立てた。
「お兄様は、このロレーヌ王国の国王なんですのよ。その妹に手肌を荒れ果てるまで、働かせたいのですか?」
俺はサーシャに訊いた。
「じゃあサーシャは、何処に嫁ぎたいんだ?」
ちょっと小首を傾げて、華奢な指先で頬杖を突きながら呟くように答えた。
「やっぱり、イケメンは最低条件ね。背はお兄様くらいあれば十分だけど、もう少し高いくらいがベストね。それから一番大事なのは、裕福な資産家ってことかしら?通商連合ならミツコーシとか?パロッズとかの老舗商会が良いわね。覇権帝国なら皇帝一族以外はパスね。常に戦争してるから武官クラスではいつ敗けて、地方に左遷されるか知れないわ。それと…」
この手の話題では珍しく、サーシャが口籠っていた。
俺は気軽に続きを促した。
「うん……お兄様には悪いんですが、神聖教国もパスさせて頂くわ。あのクリスティーナ
「残るのは魔法王国か。あそこは絶対に無理だろうなぁ」
俺の言葉に、サーシャも素直に頷いていた。
(俺の国って一体どこに救いがある?)
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