第8話

――王都へと向かう街道かいどう――


 四人は、王都へ向け、馬を走らせていた。

 ローラは、体の小さなアイリスを前に乗せ、オルテガは、ロクサーヌを後ろに乗せる形で双方そうほう、馬を急がせていた。


 馬のひづめの音が軽やかに響いている。


 そんな最中さなか、ロクサーヌは、オルテガにしがみつく手に力を込めた。オルテガの背中に柔らかい感触が伝わって来る。

「すみません、ロクサーヌさん。これだけ急いでいると怖いですよね。ですが、それももう少しの辛抱しんぼうです。この森の一本道を抜けるとひらけた場所に出ます。そうすればもう、王都は、目の前です。ですから――」

「違うのです」

 ロクサーヌは、オルテガの話をさえぎると、さらに体を密着させ彼の耳元に口を寄せ話し始めた。


「オルテガ様は、私の事をどうお思いですか?」

「ん? どうとは?」

「気に入って頂けていますか?」

「それは、どういう意味です?」

 オルテガは、彼女の言葉の意味がせずに、まゆをひそめた。

「アイリス様を……。アイリス様を必ずまもって下さい」

「それは、勿論もちろんです。そういう依頼でこの仕事を受けた訳ですから――」

「それだけでは、不十分です。仕事としてではなく、アイリス様の忠臣ちゅうしんのように命をけてまもって頂きたいのです」

「…………」

勿論もちろん貴方あなたに命をけろと言うのです。私もそれ相応そうおうの対価を支払います。私に払える物等、この身一みひとつしかありません。奴隷紋どれいもん……でしたっけ? 逃げないようにそれをきざんで頂いても構いません。私を好きにして頂いた後、飽きたら娼館に売り払って頂いても構いません。ですから――」

貴女あなたは、自分で何を言っているのか分かっているのですか?」

 オルテガは、冷たく返した。

「冗談でこんな事は言えません。私は、アイリス様に救われました。こんな片端かたわの女を見捨てなかったのは、あの御方おかただけです。こんな女、あの時に救われていなかったら、色々な人間に搾取さくしゅされ、今頃は、王都の堀の下で肉片になっていた事でしょう。私は、その恩を返したいのです。今、この時。アイリス様を救う事こそが、私が今まで生きて来た理由ではないかと――これは運命ではないのかと、そう思えてならないのです」

「馬鹿な事を……。貴女はもう少し自分の為に人生を送る事を考えた方が良い」

「で、答えはどうなのです?」

「ギルドの薄給はっきゅうだけでも、貴女含あなたふくめ、まもって見せますよ」

「それを聞いて安心しました」

 ロクサーヌは、そう言うと元の姿勢に戻った。


「はぁ~。女ってやつは……」

 彼女は、オルテガが途中で職務を放棄ほうきする事を危惧きぐしていた。それゆえ人参ニンジンをぶら下げ束縛そくばくしようとしたのだ――オルテガは、ロクサーヌが強引に着いて来た理由をさっし、大きなため息を吐いた。


 ふと横を見ると、並走していたローラが、ものすごい表情でこちらをにらんでいる。

 オルテガは、思わず視線をらした。

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