黄昏勇者の災難 ~受付嬢に騙される。そして、再び王都に殴り込む。~

善江隆仁

第0話 ~プロローグ~

――王都・オルテガの屋敷――


 オルテガは、憮然ぶぜんとした表情で、自身の屋敷の玉座に座っていた。


「誠に申し上げ辛いのですが、我々全員、本日をもって辞めさせて頂きたく存じます」

 使用人達を代表して、執事の男が伝える。

「落ちぶれた途端にそれか」

 オルテガは、厭味いやみったらしく言った。

勿論もちろん、私達もオルテガ様に非があったとは考えておりませんが、我々のような者達が、王族の方々を敵に回して生きていけるはずが――」

「分かった、分かった。好きにしろ」

 オルテガは、シッシといった手の素振りを見せ、使用人達を下がらせる。

「残念な事です」

 使用人達は、一礼すると、そそくさと出て行った。


わたくしも婚約を解消して出て行かせて貰いますわ。今なら、お父様も認めて下さるでしょう」

 今度は、オルテガの婚約者フィアンセが口を開く。


 オルテガと彼女は、彼女の父親が決めた、言わば政略結婚の予定で、本人同士の仲は上手くいっていなかった――というよりは、オルテガが一方的に嫌われていた。

 それは、自身の運命を勝手に決められた彼女の腹いせだったのかもしれない。


「使用人達は、貴方の事を悪くは言っておりませんでしたけど、王子を殴るとか、どうかしてますの? とても正気とは、思えませんわ。しかも、相手は年端としはも行かぬ少年。狂ってますわ」

「フン。子供だからこそ、大人が説教してやらなくてはならんのだ」

「だとしてもですわ。それに、それで地位を失ってしまっては、元も子もありませんわ。まぁ、わたくしには、どうでも良い話ですけど――。とはいえ、わたくしは、ラッキーでしたわ。直前でこんな事が起こるなんて。危うく二回りも年の離れたおじさんと結婚させられるところでしたわ」

「フン」

 オルテガは、そっぽを向いて不貞腐ふてくされている。


「では、ご機嫌きげんよう」

 彼女は、スカートのすそを持ち上げ軽く挨拶あいさつすると、専属のメイドを従え屋敷を出て行った。


 暫くの沈黙。


 そして、オルテガは、むくりと立ち上がった。


「お前ら全員、必ず見返してやるからなっ!」


 オルテガの声が、むなしく部屋に響き渡る……。

 こうして、彼は屋敷に一人、取り残される事となった。


 これは私達の住む世界とは別の世界。剣と魔法が支配する世界での物語……。

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