耐久値を視認出来る冒険者の話

もくもく

第1話 耐久値鑑定

 アトラスディア、この世界では十五歳になると神様から恩恵ギフトが与えられる。

 この世界に転生し、俺が神様から授かったスキルは《耐久値鑑定》と言うスキルだった。


 鑑定と付いてはいるが、一昔前にチートスキルとして流行った《鑑定》スキルとは違う。

 出来るのは食べ物や衣服などの物質の耐久値、それと生物のHPや体内が大まかに視える事くらい。

 間違ってもステータスなんて上等な物を見ることは出来ない。


 教会からも周囲の人間からもバカにされ、それまで友達だと想ってた奴らもその日を境に離れていった。


 幸い、治す事は出来ないが医者よりも安い金額で耐久値の下がった臓器などを顧客に伝えると言う仕事で日銭を稼ぐ事は出来た。


 だが、そんな俺の行動がこの街の医者達には気に食わなかったのだろう。俺は彼らが雇った強盗紛いの連中から暴行を受け、何度も殺されかけた。


 このまま続けていたらいつか殺される。

 俺は貯めこんだ全財産を持って武器屋で片手剣と短剣を買い、馴染みの店で保存食を買い込むと、無制限に荷物を収納出来る《アイテムバッグ》に全ての荷物を放り込み、その足で街を出た。


 それから三年後。

 俺は《ベルフェイム》と言う街で相も変わらず医者の真似事なんかをして日銭を稼いでいた。

 とある日、そんな俺に声を掛けて来たのは領主の息子を名乗る男だった。


「君のその力、珍しいな。どうだろう、その力で僕の両親を見てはくれないだろうか?」

「アンタは……」

「最近、父様と母様の体調が優れなくてね……。医者に見せても原因不明と言われ、八方塞がりなんだ。もう君に頼るしか道は残されてないんだ!」

「そこまで……わかった、俺で良ければ力になるよ」


 困っている人を放って置くのは気が引けるし、領主が相手なら報酬も期待が出来る。

 上手く行けば今の宿屋暮らしから抜け出せるかも知れない。


 案内されたのは領主邸から少し離れた場所にある今にも壊れそうな物置小屋だった。

 不審に思って理由を尋ねると平民が領主邸に入って行く所を誰かに見られるのは色々とマズいらしく、領主達とは物置小屋の中にある地下へと続く階段を降りた先で落ち合う事になっているらしい。


 室内は暗く、一メートル先も見えない状態だった。明かりは前を歩く領主の息子が持つ小さなランタンが一つのみ。


 階段を降りた先には異臭が漂っていた。

 中央に通路があり、左右には多くの牢屋。

 空間のあちらこちらには血痕が付着しており、牢の中には人間や獣人達が閉じ込められ、ひどく衰弱していた。


「こ、ここは……!?」

「ここは僕の娯楽施設さ。それで君は今日の僕の獲物。ここまで説明すれば、騙されてノコノコと私に着いて来たバカな君の頭でも理解できたかな?」


 領主の息子がそう口にした次の瞬間、背後に何かの気配を感じた。

 慌てて振り向くと、そこには大人の男が剣を振り上げた状態で立っていた。

 俺は咄嗟に領主の息子の方へと逃げ、自身の腰に差してある鞘から剣を抜いて構えた。


「はは、父様の私兵の中で最も強いドルグスを相手に剣を構えるなんて勇ましいな! ドルグス、少し遊んでやれよ!」


 ドルグスと呼ばれた男がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 男の実力がどの程度か分からないが、領主の私兵と言う事は剣の腕は間違いなく俺よりも上。


 戦力として役に立つかは分からないが、数も二体一でコチラが不利。長引けば状況は悪くなるばかりだろう。


「ヤツの持ってる剣、あれは……」


 男の持つ剣はロクな手入れもされておらず、ボロボロ。

 刀身は所々が錆び、刃が掛けてノコギリのようにギザギザになっている所もあった。


「この剣が気になるか? これはな、敢えて剣の切れ味を悪くしているんだ。存分に獲物を痛め付ける為にな」

「随分と悪趣味だな」

「簡単に獲物が死んだらつまらないだろう? さて、アックス様をお待たせるのも申し訳ない。そろそろお前には絶望を味わって貰おうかッ!」


 男は剣を地面に引き摺らせながらコチラに迫って来た。その度に僅かに減っていく剣の耐久値。

 男が俺の目の前まで来た時、その数値は一桁にまで減少していた。


「おらぁ!」


 振り下ろされた剣の最も脆くなった箇所に俺は無我夢中で自分の剣をぶつけた。

 次の瞬間、男の持つ剣が柄と刀身の二つに折れた。

 俺は目を見開き、固まっている男の腹に剣を思い切り突き刺した。


 突き刺さった剣先から伝うように流れ落ちる真っ赤な血。剣を引き抜くと更に多くの血液が傷口から流れ、男が地面にうつ伏せに倒れた。

 ぴくりとも動かない。スキルでHPを確認すると、男のHPは0だった。


「ド、ドルグス! おい、早く起きてコイツを殺せ! おい、聞いてるのか!?」


 命の危険を感じたのだろう、領主の息子が分かりやすく慌てふためく。

 対する俺も正当防衛とは言え、初めて人を殺した罪悪感と恐怖で身体が動かなかった。


「う、うわぁぁぁ!」


 悲鳴を挙げ、先にその場から逃げ出したのはアックスだった。

 その姿を見て俺は自分の置かれた状況を理解した。ここで彼を逃がせば大変な事になる。

 そう本能で理解し、咄嗟に俺は彼を追い掛けた。そして──。


「はぁ、はぁ……もう大丈夫だ! 今から牢の鍵を開ける。皆、悪いが牢の鍵を開けた後も少しだけこの場で待機していてくれ!」


 数十分後。鍵束を牢に閉じ込められている彼らに向かって叫ぶと、俺は鍵穴に鍵を差し込んだ。

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