第一章 1
ラプンツェル ラプンツェル お母さんのために隣の畑に行くよ
そこは魔女の畑 それを知らずにラプンツェル パセリを採ってしまうよ
パセリ姫≪ラプンツェル≫、魔女に捕まって塔に閉じ込められた
ラプンツェル 窓の外から長い長い金の髪を垂らして 王子がそれを上るよ
挿し絵の描かれた童話の本をぱたりと閉じて、オルキデアは言った。
「嘘ばーっかり」
そして、窓辺に寄る。
「私はラプンツェルのように金髪ではありませんし、王子様はやってこないし、それに、おばあさまはこの魔女みたいに悪いひとじゃありませんもの」
確かにオルキデアの髪は長い。しかし、塔の下に垂らすほどではない。
庭でさらわれたあの日から、オルキデアは森のなかの塔で暮らしている。自分をさらった老女はこまめに料理を作り、裁縫をして彼女の服を縫い、毎日新しい本を持って訪ねてきた。
「部屋のなかにいるだけじゃ運動不足だ。馬にでもお乗り」
そう言って、塔の外にも出してくれた。馬に乗る方法がわかると、森を一人で探索した。 どこまで行っても森は深く、樹々は黒く生い茂り、そこから外には出られそうにもなかった。
成長するにつれて、本の内容もまた難しくなっていった。読み書きを教わった。鏡を見て、自分の瞳の色が本に出てくるようなものとはちょっと違うということを知った。
おばあさまは毎日必ずやってきて、オルキデアの食べたいと言ったものを壺のなかから出してくれた。昔は調理してくれていたというのに、年を取ってそれも億劫になったようであった。
浴室に行くと、いつも温かい湯が用意されている。これも、おばあさまの術の一つなんだろうと頭のどこかで思う。
森の外に出られないこと以外は、なに一つ不自由のない暮らしをしていた。
毎日、父と母のことを思い出す。元気でやっているだろうか、私を忘れていないだろうか、いつの日か再会したら、私のことがわかるだろうか。
そんなことを思い、今日も床につく。
退屈で、本を読む以外にすることのない日々。読書に飽きたら、馬に乗るくらいしかすることはない。行っても行っても樹ばかりある風景、誰にも会わない深い森、きっとここはおばあさまの術がかかっていて、容易には外に出られないようになっているのだろうと思う。
なぜ、自分はあの日さらわれたのか。
それを、おばあさまは話してくれない。一度聞いたことがあったが、老女はひっひっひと笑ってこたえただけであった。
そうして、オルキデアは十八になろうとしていた。
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