第23話 褒美④
「謀られたか……。」
九頭龍はタカオニのルールで弁財天に触れることが出来なかったが、弁財天の足元の汚れに着目し洗うことでさりげなくタッチしていた。心眼で見ても下心などなく、本当に善意のみにしか映らなかった。
逆に謀られた事もあるが、それ以上に自身に女の魅力が無かったと思わせる行動が余計に琴線に触れた。
「わらわの足がそんなに魅力が無かったのか!おんのれぇーーー!」
弁財天は戦いの神、芸術の神、財形の神。美しい作法、華麗な勝利、誰もが惹き付けられる美しい音楽。1度の敗北も無かったのだ。しかし九頭龍の策にハマってしまい、怒髪が天をつく。
美しい黒髪が逆立ち、白いオーラが全身から立ち上る。地面を足で蹴りあげると一気に社務所までの距離を縮め、手を払うと社務所の扉が勝手に開いた。
「謀ったな!九頭龍ぅぅぅ!!」
社務所の和室で後ろ姿で座る九頭龍。
「イソップ寓話にはうさぎと亀という話がございます……。」
九頭龍は後ろ向きのまま、何か作業をしており振り向く素振りはない。時おり、キュ、キュと何かを書くような音がする。
「なんの話をしている?」
「兎は亀を侮り、敗北しました……。」
「!?」
なんの話かわからない弁財天。
「だからなんの話じゃ!?」
クックッと静かに九頭龍は笑う。
「うさぎの敗北は傲慢にございます。」
「わらわが敗北したと!?」
弁財天が九頭龍に掴みかかろうとジャンプする。九頭龍がそれを手で制止して下を指さす。
「タカオニでございます。」
「くっ!!」
「そして俺は二度とここから降りませぬぞ。」
ワナワナと怒りに震える弁財天。本当に悔しそうである。何か打開策はないものか?思考を巡らせる。
「おお、そろそろ履物の用意が出来ました。どうぞこれをお履きになってくださりませ。」
黒いサンダルを並べるが、そこには可愛いく書かれたうさぎが居眠りをしているイラストのサンダルである。
「ささ、タオルもございますよ。私が拭きましょうか?」
ビシッとガラスの割れる音がする。怒りに震える弁財天はなぜか唐突に笑いだした。
「はっはっはっ!素晴らしい!なんと可愛いサンダルじゃ!そなたが書いたのか!可愛いのう!褒美をやろう。ちこう寄れ。」
九頭龍が身構える。
「おっと!その手は喰いませんぞ!?」
「何を怖がる?怖がる必要などない。」
九頭龍が後ずさりする。瞬間、九頭龍は首に手を回され、弁財天の胸の中に抱き寄せられる。
柔らかい胸の感触が顔に当たる。
「うぶっ!ルール違反です!ルール違反でふ!」
「甘いな!10秒ルールじゃ!しかし褒美を取らせてやる。どうじゃ?わらわは?おなごとしての魅力は?」
弁財天の顔を見ると青筋の血管が浮き出ているが万遍の笑みである。
「な、なんの話にございますか!?」
「乙女の心を踏みじりおってからに!」
骨の軋む音がする。九頭龍の首の骨がミシミシと音を立てる。一見、女性の谷間に顔を埋め幸せなのだろうが、九頭龍は苦しくてたまらない。
「死ぬ!死ぬ!死にまする!うーっ!」
「わらわ相手によく粘った。さぁ!わらわを美しいと褒めよ!褒めて伸びるタイプだぞ!」
「褒めるまでに死にまする!腕をお離しくださいませ!」
「離さぬぞ。ほれ!いい子!いい子!」
片腕で九頭龍の頭を撫でるが、ミシミシと音を立てる。
「ぐわぁぁぁ!頭蓋が砕ける!なんという剛力!女の子の力じゃない!」
「女の魅力が足りんとな!?褒美が足りぬようですまなかったの!」
片腕で更に谷間に埋められ窒息寸前に追い込まれる。
「好きです!あ、愛してます!!身分が違うのはわかっています!図々しいとは承知の上です!」
「ふぇ?!」
咄嗟に首に絡まる腕の力が弱まる。
「今だ!」
腕の力が弱まるのを見計らって脱出を試みるが咄嗟に両足を腰に回されホールドされた。
「逃がさぬ!今なんと申した?!もう1度!」
「お離しください!死にまする!」
「もう1度いうまで離さぬ!」
首に再度両手を回され体制を崩し押し倒したような形になってしまう。
「も、申し訳ありませぬ!すぐに離れます!」
「もう1度申してみよ!なんと言った!離したら逃げるに決まっておる!」
ミシミシ音がする。首、腰、このままでは剛力により骨が砕け散る。殺される。タカオニで死ぬ。
「お、お許しを!」
九頭龍は空いた両手で弁財天の脇を擽る。こちょこちょと。暴力では訴えられない、九頭龍の最後の策であった。
「ッ!わぁはっはっはっは!くすぐったい!力が入らぬ!」
「お許しを!こんなつもりでは!お許しください!!お許しをー!」
「きゃっはっは!うーっ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「負けてなるものかぁー!くぅー!!」
腕に力が入る度に、脇を脇腹を擽るしか手段がない。膠着状態に陥る。
『何してるの?』
少女の声が脳内に響く。顔を上げると和服を着たおカッパ頭の女の子が見下ろすように立っていた。
九頭龍はキョトンとして女の子を見る。
「せっちゃん!ま、まだ起きておったか?」
弁財天が慌てて立ち上がり着物や、乱れた髪を整えた。
『弁天さま、男の人とエッチなことしてるー。いーけないんだー!あたしに早く寝ろって言ったのはこれかぁー。』
「ち、違う!タカオニじゃ!」
『タカオニって抱き合ってするものじゃないよね?足まで絡ませて、いやらしい!』
「それはこやつが卑怯な手段で……く、九頭龍もなんとか言わぬか!」
「違うんだよ、お嬢ちゃん。つい白熱しちゃってさ。大人も遊びに夢中になるんだよ。」
『イケナイ遊びに?で?イケた?』
「おい!」
「どごでそんな悪い言葉を覚えてくるのじゃ!?」
『うーん神主がたまにそういうの見てるよ!』
「明日、神主には脳天にカミナリを落としてやる!」
九頭龍はポカンとしているが急死に一生を得て感謝の言葉を述べる。
「ありがとうな。助かったよ!せっちゃんっていうのか?」
『せっちゃんだよ。座敷わらしだよー。』
「神社の童よ。普段は神社の結界を張ったり、わらわのお手伝いをしてくれておる。絵馬を運んだり神社の空気をよくしたりなどなど。」
「なるほど。」
『ねぇ!3Pする?』
「どこで覚えるのじゃ!そんなはしたない言葉を!」
「そういうのはダメだけど遊ぶくらいなら出来るよ?遊ぶかい?」
『隠れんぼがいいな!一緒にやろ!』
「それならばわらわも付き合おう。」
3人で神社の境内で隠れんぼをした。
『弁天さま!手を繋いで欲しい!』
「わかった。」
子供と遊ぶ、弁財天を見てほっこりする。星空と月がとても綺麗だ。永遠にこの時間が続けばよいと九頭龍は思う。
「さぁ、夜も遅いし、もう寝るのじゃ。」
『はーい。おやすみなさい。弁天様!』
そう言って座敷わらしのせっちゃんは社務所に消えた。姿が見えなくなった。
「少し本殿で飲まぬか?」
「はい。」
本殿で酒をつがれ、グイッと飲み干す九頭龍。
「そろそろ出てまいれ…修羅のもの。」
辺りの空気が一変し、蝋燭の火が激しく揺らぎ消える。九頭龍の雰囲気が変わる。
「おなごの肌の柔らかいこと。それが天女ともなれば極上でござる。それで?どこのどいつを殺ってくれとおっしゃるんで?」
九頭龍の顔つきが変わり修羅さながらの形相である。そしてニヤリと笑った。
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