第25話 望み

 2月12日

 今日は愛しのエリカの19歳の誕生日だ。

 付き合って初めての誕生日⋯⋯


 俺の誕生日には、エリカは俺の願いを叶えてくれた。

 だから今度は俺がエリカの願いを叶える番だ。

 すでに、エリカの希望はリサーチ済。

 俺は自分の部屋を出て、エリカの元へ向かった。

  


 エリカは外でのデートを希望した。

 まずは、食べ歩きをしたいと言うので、俺たちは中華街に来ていた。


 エリカはネイビーのワンピースに黒のコートを着ている。

 そして、首元には俺がプレゼントしたネックレスを付けてくれている。

 食べ歩き向きの服装ではないが、これは夜の予定のためだ。



「すごい! 派手派手ね!」


 中華街の入口にある門は赤を基調として、金、青、緑など鮮やかな装飾が施されている。

 街の中央にある広場も、赤や黄色の提灯で飾り付けされており、とにかく派手だ。

 広場には干支の銅像があり、その中からそれぞれ自分のものを見つけて一緒に写真を撮った。


 その後は有名な肉まん屋さんに並び、近くの壁にもたれながら食べた。

 

 少し足を伸ばせば港町やショッピングセンターなど色々あるが、暖かい時期にまた行きたいとエリカは言った。



 その後は足湯カフェに行った。

 テーブル席は、掘りごたつの様な構造だが、足元にはお湯が循環しており、足湯に入りながら、健康茶などのドリンクを飲むことができる。

 窓の外にはちょっとした和風の庭園が見えた。

 最初はカフェにある本を、それぞれ読みながらゆっくり過ごした。

 

 しばらくしてエリカはゲームを見つけて来た。

 ただひたすらおもちゃの箸でおもちゃの豆を掴んで、別の容器に移す速さを競うだけのものなのだが、これがなかなか白熱した。


「やったー! また私の勝ち〜!」

「頼む。もう一回!」

「何度でもかかって来なさい!」


 俺は初めてエリカにここまで歯が立たなかったかもしれない。

 それから何度も勝負を挑んだが、結局俺は一度もエリカに勝つことが出来なかった。



 夜はレストランに行った。

 誕生日専用のコースで、窓から夜景が見える席の予約が取れた。

 

「すごい! この景色を見ながら食べられるなんて!」


 エリカは気に入ってくれたようだ。

 コース料理はどれも本当に美味しかった。


「家庭料理なら数え切れないほど作ってきたけど、やっぱりこうやってお客さんに出す料理は全然違うわね。いったい何年修行すればこんな風になれるのかしら」


 次の春から調理師の専門学校に行くエリカは、料理を楽しみながらも熱心に研究しているようだった。


「味も美味しいし、見た目もきれいよね。なんだかワクワクして来た」


 エリカは嬉しそうに笑った。

 俺はエリカが自分の夢を見つけられたことが嬉しかった。


 エリカの話によると、進路を考える際、最初は自分が人より優れているものは何かと考えたらしい。

 同年代の女の子が学校で勉強したり、部活や遊びに打ち込んでいる間、ずっと悪魔像のために何度も料理を作っていたエリカ⋯⋯

 料理なら自分の強味にできると考えたが、得意なこととやりたいことは違うかもしれないと悩んでいたそうだ。


 そんなとき、誕生日にエリカの手料理を嬉しそうに食べている俺を見て、料理の道に進みたいと思ったと⋯⋯そう教えてくれた。

 俺がエリカの夢を決定づける要因になっていたと聞いて、心底嬉しかった。



 誕生日プレゼントはレストランで渡した。

 エリカはデート自体がプレゼントでいいと言ったが、俺があげたかった。

 プレゼントは腕時計だ。

 白い文字盤に、水色に近いグレーの細めのベルトのシンプルなものにした。

 もちろんアラーム機能はついていない。

 もうあんなにいくつもアラームをかける必要はないから。


 エリカは腕に時計をつけると、こちらに見せながらそれはそれは嬉しそうに笑った。




 その後、エリカは二人きりになれる場所に行きたいと言った。

 ホテルに入った俺たちはベッドに腰かけながら、今日のデートで撮った写真を見せ合っていた。



「⋯⋯⋯⋯ねぇ、イチャイチャしてくれないの?」


 俺の肩にもたれながらスマホの画面を覗き込んでいたエリカが、耳元で甘えるように言った。

 

「もちろん。エリカが望むなら」


 俺はエリカの身体をそっとベッドに横たえて、自分も隣に寝転がった。


「どうして欲しい?」


 エリカの頭を撫でながら聞いた。

 

「⋯⋯私の好きなところを言って欲しい」


 エリカは遠慮がちに言った。


「全部挙げたら夜が明けるかもしれないな。まずは性格から行くか。優しいところ、明るいところ、素直なところ、頑張り屋さんなところ、元気なところ⋯⋯」


 エリカは顔を真っ赤にして黙り込んでいた。

 それを見た俺はいたずら心が湧いてきた。


「一旦、見た目に移るか。まずは目が可愛いな」


 そう言ってエリカの目の下を撫でる。


「あと、白い肌がきれいだな。それから、髪もきれいだ」


 頬を撫でてから、髪を撫でると⋯⋯


「もういい! もういいから!」


 エリカは拳で俺の肩を優しく殴った。


「もう降参か? 俺はまだまだ言い足りないんだが」

「もういいの! 次! いつもみたいにして」

「いつもみたいって何のことだ?」

「そんなの言えない」


 エリカは恥じらいながら目を逸らした。


「今日は全部エリカの望むようにするって約束だろ? 全部叶えるから」


「⋯⋯じゃあ優しくキスして」


 エリカはまたもや控えめに言った。

 俺はからかうように目尻にキスをした。


「そうじゃない!」

「ちゃんと言ってくれなきゃわからないな」

「もう! 悪魔!」


 エリカはさらに赤くなり、怒ってしまった。


 確かにエリカの言う通りかもしれない。

 以前までの俺は、こんな風に少女マンガに出て来そうなキザな男のセリフを言うようなタイプではなかったはずだ。

 そして目の前の彼女を、こんなにも赤面させることができるなんて想像も出来ない。

 それもこれも前世の性格に引っ張られているのだろうか。

 それとも、エリカが俺をそうさせているのだろうか。



「もう! レンに任せる」


 エリカは両手で顔を隠している。


「俺に任せていいのか? いつも散々な言われようなんだが」


 俺が確認すると⋯⋯


「いいの! 変態悪魔コースで!」


 エリカは顔を隠したまま言った。

 その言葉に思わず吹き出しそうになる。

 とんでもない名前をつけられたものだ。


「わかった」


 顔を隠しているエリカの手をそっと外し指を絡め、唇を塞いだ。

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