1章 18話

「あのさ……。勘違いしてない?」


「してないよ」


「いや、してるよ」


「……してた、かも。風間君みたいに素敵な人に、彼女がいないわけなかったのにね……」


 現在進行形で勘違いしてるよ。それも、いくつも。

 まず、俺が素敵な人ってところ。可もなく不可もなくを具現化した俺の、どこが素敵なのか教えてほしい。自分でも分からないから、切実に。


 そして、もう一つ。


「俺、本当に彼女いないけど? その勘違いで、最近は笑顔が曇ってるの?」


「……よく見てくれてるね」


「誰でも分かるよ」


「痛いってのは、自分でも分かってる。……ごめん、立ち直るから。気にしないで」


 あの格好よかった姿は、どこへ消えたのか。

 人間らしいところもあるって意味では、満点のままなんだけど……。

 目の節穴さとか、思い込みの激しさとかは……彼女が同じ人間かもって感じさせてくれる。

 親しみを持てるって程、気安くはなれないけど。


「俺なんかの何が……。まぁ都合のいい人が減ったからなんだろうけど。その勘違いで君の笑顔が曇るのは、嫌だ」


「都合のいい人なんて、思ってないよ」


「それなら、余計に思い直してくれ。俺は――君の突き抜ける空のように輝く笑みがいい」


「……ぇ」


 あ、やばい。変なことを言った。

 ああ……。気障なセリフなんて、イケメンが言わない限りは気持ち悪いだけなのに!

 ついつい、彼女の笑顔が本来の笑みじゃないのが嫌で口走った!


「……そんなことを言ったら、美穂さんに悪いよ」


「……美穂?」


「うん。彼女さんがいるのに、他の子を落としちゃダメだよ?」


 ストンと、腑に落ちた。

 なるほど。状況だけ見たら、勘違いもするか。

 それなら――。


「――ねぇ。この間は俺が付き合ったんだからさ、今日は俺に放課後、時間くれない? 掃除終わった後に、さ」


「……え?」


「上尾市内で、ちょっと見てほしい……。来てほしいところがあるんだよ」


「でも……。美穂さんに、悪い」


 彼女は、目を右往左往させて悩んでる。


「その美穂に関すること。大丈夫、怒られ……は、するかもしれないけど。でも、絶対に大丈夫」


「また、優しい嘘?」


「嘘じゃないっての」


「……うん、分かった。信じる」


 同意は得られた。俺たちはササッと掃除を終わらせ、一緒に帰宅する。

 学校の生徒の姿が見えなくなるまで、周囲から向けられる視線が痛かった――。


「――あの、どこ行くの?」


「もうちょっとだから、ついてきて」


 俺たちは電車に乗り、上尾市内だが高校の最寄りとは別の駅へ来ていた。


 駅から十数分、歩き――。


「――着いたよ」


「ここ……学童保育?」


「そう、美穂! 来たぞ!」


「え、え!? 美穂さんって、年上の職員さん!? お仕事中に良いの!?」


 う~ん。もう、この時点でなぁ。「年上好きだったなんて、知らなかった」とか呟いてるし……。

 俺が入口で声をかけると、すぐに美穂が駆け出てきた。


「凛空、遅い。……心配した」


「ごめんごめん。急に掃除当番入ったって、メッセージしただろ?」


「それでも、いつもより遅かった。……この頃、そんなのばっかで不安になる」


「ははっ。ごめんって」


 美穂は俺の顔を見るなり、ハグをしてきた。

 いつものことだけど、甘え上手で可愛い。


「…………」


 河村さんは、絶句してた。大きい目をパチクリさせて、俺と美穂を見比べてる。


「凛空、この女……誰?」


「俺のクラスメイト。河村彩楓さん。この女とか言わない」


「へぇ……。ただのクラスメイトと、ここに来たの?」


「怒るなっての」


 頭を撫でてやると、頬を膨らませながら、そっぽを向いた。

 まぁ、やっぱり怒るよな。予想はしてた。


「風間君……」


「……これで分かった? 河村さん」


「うん。……一緒に自首しよう? 私も付き添うから」


「待って。それはおかしい。君はまた勘違いをしてる」


 涙目で思い詰めたような……。

 そんな表情で、彼女は俺と美穂を引き剥がそうと腕を引っ張ってる。


「さすがに、小学生はダメだって」



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます! 本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。 楽しかった、続きが気になる!  という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです! 読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!

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