恋愛の最中=君だよね?

NiceWell

第1話


「おはよう」

「おはよう千影」

「ほんと、未礼は名前を呼ぶの好きね」

「僕はね、名前っていうのは、その人の声になると思ってるんだ」

「名前が声?」

「ああ、ほらね、例えば、千影って名前には余韻があるんだよね」

「あんたねーそれは、もういいわ」

「何?」

「恥ずかしいのね、相変わらず」

「ううん、そうかもしれない、でも、確かに千影は何かを持っているように思えるんだ、僕の深層まで触れる何かをね」

「あんたね、言ってって恥ずかしくならないの」

「どうして?」

「私たちってのはね、そもそも男女の仲なの、想像つかない?」

「そうか、僕は名前を呼ぶとき、それは君に寄りたいって事か」

「そうよ、それともう一つ」

「何、?」

「考えてみなさい」

「ん〜、ああ、わかった、きっと名前っていつまで経っても変わらない愛称なんだ」

「あんたねー惜しい」

「惜しい?」

「そうね、例えば私が今あんたの名前読んであげるから何思えるか感じてみなさい」

「OK!」

「んじゃ、未礼、未礼、みれい」

「ん?」

「あんたね、最初にその反応はなんなのよ」

「ん?まーなんかあったかいような、気恥ずかしいような」

「そうね、そうよ、それが正体、私とあなたの仲のね」

「なるほど、この暖かさが、君なんだ、じゃ僕は、君に呼ばれるためにこの心を今まで作ってきたんだね」

「あんたの心にあるのは、それはいつかの声、そしてその先に必ず誰かがいるわ」

「だれかって?」

「あんたねー、私の声を聞いて、何か感じたんでしょ」

「そうだよ、なんか、その声がすっぽりと収まったんだよ、不思議なくらいにちょうどよく、でもどこかじんわりとした」

「それはね、多分、愛よ」

「そうなんだ」

「そうよ、それだけ?」

「愛っていうのは、その一瞬に感じるだけなの、それとも心とともにまた変えなきゃいけないの?」

「そうね、心はね、あなたの形をしてる様で、あなたの未来を期待してるものなの」

「心が未来を期待する?」

「そうよ、いつだってあなたは誰かと生きてここまできたでしょ」

「そうだけど、でもある時僕は、君を失いそうなほどひどい空白を感じたんだ」

「それはね、きっと喪失よ」

「喪失?」

「そうね、あなたは出会うことで色を重ねたの、その時、あなたも新しい愛の形を知ったのよ」

「愛が新しくなるのか、じゃあ、その愛に君が居なくなって見えたの?」

「そうね、でもそれは、あなたも違うと思ってるでしょ」

「だから喪失なんだね」

「そうよ」

「あなたは愛に形を決めたのよ」

「じゃあ、この喪失は、君さえいれば叶うの?」

「そうね、でも、あなたはまた変わるのでしょ、世界と共に」

「その時はまた、君は僕の元から遠ざかるの?」

「そうね、でも、また近づける時でもあるの」

「じゃあ愛はいつも同じではなくて、世界と共に変わって、その都度、僕は君を探しに行けばいいだね」

「そうね、でもあなたは誰を愛してるの」

「君だよ、だって君が教えてくれたんじゃないか、その在処を」

「在処ってのはね、誰もの居場所みたいなものなの」

「僕の居場所が君だけどそれは愛ではない、だけど喪失を感じるの」

「そうね、例えば、愛はそんな簡単にはわからないの、例え居場所であったとしても、そこに愛はあって、でも無いとも言えるの」

「どうして?だって君は名前を呼んで、僕はそこにいて、その時確かにじんわりした、でも同時に喪失を感じたんだよ、この喪失は愛を感じて出た、君への思いじゃないの」

「あんたねー、ようく聞きなさい、」

「はい」

「例えば、喪失と愛を並べて考えてる時って、それはもう恋愛なのよ」

「そうか、ほんとだ」

「だからあなたは恋愛仲なの」

「恋愛仲?初めて聞いたよ、なんかそれって不思議と居場所より愛を感じる」

「そうね、好きよ」

「僕もそれが聞きたかった、なんだか安心するんだね。愛って言うのは」

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