スピカレイ

@Haruna1256

第1話

「じゃあ、行ってきますね。お母様、お父様。メイド長さん、他の子メイドにもよろしくお願いします。」

別れの言葉を告げている割には周りには誰もいない、独り言のようだった。

ドアノブに手をかけ静かに15年間過ごした屋敷を出ていった。


私はアローネ・スピカ。私の祖先は、星が見れないほど酷い嵐が続いた時に風を起こし、雲を晴らした。代々風属性の家系に生まれた。この国では、生まれた子供はどんなに貧乏でも魔法の属性診断を5歳の時に行う。私も、それをおこなったのだが、私は音属性だった。それからは、『出来損ないのアローネ』と呼ばれた。


「ここが、これから住む場所ですか?」

暫く歩いて、都に着いた。都の大きな赤い屋根のアパートの前に立っている。ここにこれから住むのだ。もう誰も、出来損ないと言わない。

「···············あれ?だれ?」

「え?私、ですか?」

「他に誰がいるの?···············あ、僕ルーシー。ルーシー・レイ。·····女の子だよ。」

「私、アローネ・スピカです。今日からここに住む者です。」

「··········あ、もしかして305号室の人ぉ?」

「は、はい!」

「じゃあ、相部屋相手だね。·····よろしく。」


ルーシーと名乗った銀髪の子は、私の相部屋相手らしい。確かに、私は相部屋でも構わないというのを条件に不動産屋に絞り込んでもらった。だとしても、ほんの少しストレスだ。どこかやり取りが遅い。常に眠そうだ。

「あ。··········お部屋に案内するね?」

「ありがとうございます。」

「あ、あ·····何ちゃんだっけ。」

「アローネです。」

「アローネ·····長いからアネちゃんね。」

「(ルーシーと同じ文字数なんだけどな。)」

「アネちゃんは·····。北側のスペースが空いてるよぉ。」

「わざわざありがとうございます。あなたは何属性の魔法使いなんですか?」

「属性·····?あ、水属性なんだぁ。でも········魔法“なんて”使わないけどね。」

「え···············?」

それ以降、会話は続かなかった。私の住む場所では魔法が全てだった。魔法がルールだった。なのに·····!なのになのになのになのに!


無言で数の少ない荷物をしまいながら、明日からの生活を考えていた。アルバイトは明後日からだとか、最悪3日は食べなくても生きてけるだとか。そんなことを考えていたら、ギャフ、という声といい匂いが近づいてきた。

「アネちゃん·····ご飯、プレゼント?」

「なぜ、疑問形なんですか?」

彼女は、手に少し大きなマグカップのようなものを持っていた。

「ポトフ、だよ。少し欠けたマグカップで、ごめんね?美味しい·····はずだから。食べてみて?」

「ありがとうございます。」

「これからよろしくね。アネちゃん。」

「·····はい。」

渡されたポトフは、少し具材が硬かったけれど、冷たくはなかった。体はろくに温まらなったけれど。

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