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 「康一に確かめないと。」

 亜美花さんは、きっぱりとそう言った。毅然とした表情はいつもの彼女のもので、俺はその顔を見ると安心した。非日常な出来事に遭遇して浮き足立っていた精神が、地に足をつける感じがした。

 「そうします。兄貴に会ってきます。」

 亜美花さんと一緒なら、行けると思った。ひとりなら到底無理だけれど、兄貴の前から逃げ出してしまうけれど、亜美花さんがいてくれるなら。けれど亜美花さんは、考えるような間の後、首を横に振った。

 「康介くんは行かないほうが良いと思う。」

 「え? なんでですか?」

 「言ったでしょ。康一の一番は康介くんだって。本当に康一が売春して男養ってたとしたら、絶対に康介くんには知られたくないはず。知られたと思ったら、逃げるだけならいいけど、死んじゃうかもしれない。」

 死んじゃうかもしれない? 俺は、そのまた現実離れした台詞に、少し笑いそうになったけれど、亜美花さんは真剣な目をしていた。冗談でもなければ、話を大きくしているわけでもなく、彼女は真面目にその台詞を発しているのだ。

 「じゃあ、俺、どうしたら……、」

 自然と小さくなる声。自信がなかった。自分がなにをしていいのか、なにをしていけないのか、判断が付かなかった。そんな俺に、亜美花さんはくっきりと笑いかけてくれた。励ますみたいに。

 「康介くんは、そのヒモとかいう男の方にもう一回会ってみてよ。……できる?」

 俺は、兄貴のヒモだと言った男の、飄々とした喋り口と、暗い色をした瞳を思い出した。そして、いけます、と頷いた。多分俺は、心の奥では兄貴を信用しているのだと思う。兄貴がヒモであれ恋人であれ、なんらかの関係を結んだ相手だ。そこまで不味い相手ではないだろう。それは、亜美花さんも同じようだった。

 「康一、売春って、どこでしてるの?」

 「観音通りだって、言ってました。」

 「……そう。」

 亜美花さんの含みのあるものの言い方で、俺は彼女が観音通りの噂を聞いたことがあるのだと分かった。あそこは、危ない。女子供が近寄っていい場所ではない。そんな噂は、亜美花さんの耳にも届いているのだろう。

 「……康一は、ずいぶん遠くに行ったのね。」

 ぽつん、と亜美花さんが呟いた。俺は、なにも言えなくて、ただ頷くしかなかった。

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