第62話 避難

さて。現状ダンジョンマスターが大量にいる西側の森とは反対側の東門から仕掛けられた状況。めざとい奴は当然侵攻を開始して西門から攻めて来る。初回ほど協力し合ってはないし、初回で痛い目を見た奴や様子見している奴も多いが、侵攻に参加しているダンジョンマスターは初回ほどの出し惜しみをしていない。


というかコボルトのダンジョンマスターもコボルトの大軍を攻撃に参加させているっぽいな。鵺からの報告だとコボルトだけでも大体1000に近い数が迫っているとか。その後ろからも、大量のモンスターが見えるらしい。


「火を止めるのじゃ!放火魔はここで確実に倒すのじゃ!」

『潜伏解除するかの?』

『絶対ヤダ。この状況ひっくり返すような力を見せたくない。

んー、これこの街保たないだろうから逃げ出す人々の援助でもしようか』

「リーシャちゃんは気をしっかり!

南門から逃げるぞ!」

「逃げるのかの⁉︎

いや、もうそこまで火の手が迫っておるなら戦うのは無理じゃな」


テトラ王国は大陸の北東部に存在しており、この街の西には人口希薄エリアが広がるが北と南はそれなりの規模の街がある。東に行けば王都だけどそっちも侵攻されているっぽいし、一先ず南に逃げる選択肢を選択。


……いやこれ一般人に鎮火は無理だよ。井戸から組み上げるなんて間に合わないし、圧倒的に水量が足りない。ポンプの一つでもあれば情勢は変わったかもしれないけど現状複数個所で火災が起きているし。


あと、上空から剣が降ってくる可能性に常に怯えながら戦わないといけないのが大きい。あの剣を落とした一手は上手かったなぁ。あれのせいでたとえ後続がなくても常に上空は警戒しないといけなくなったし。


鎮火は無理と冒険者ギルドのトップや警備の人たちのトップも判断したのか、北門と南門に分かれて脱出しろとの指示が出る。拡声器のようなもので街全体にそのことが伝わると、我先にと逃げ出す街の住人たち。いや中々に訓練されている住人達だな。半狂乱のパニックに陥っている人が少ない。


逃げるのは決定事項となったので、テンカに殿を勝ち取れと念話で指示。するとテンカが殿を希望する事を避難指示している人に伝える。交渉はちょっと一悶着あったけど、最終的には冒険者ギルドのギルド長が頭を下げて依頼して来たので引き受ける。こちらとしてはお手軽に名声を稼げるのでありがたい限り。


『……一から成り上がるつもりかの?』

『それも面白いかなって。

あとannex_allほどつまらないものはないから潜伏解除は無しで』

『了解なのじゃ』


この後に避難民達がどうなっていくかは分からないが、ここから上手くいけば自分も勢力を作っていけるかもしれない。極力目立つ為にも、救助活動や避難誘導は積極的に行う。その最中に、モンスターが襲って来たら対処するという流れで街の3割ほどが全焼した頃にはある程度南門からの避難は成功していた。北門はどうなったか鵺に確認すると、殿が早々に潰れたために大量の被害者が出たとかなんとか。


たぶん焼け死んだ人も多いだろうし、ウルフのダンジョンマスターは大いに儲けただろう。……一般人視点でダンジョンマスターと敵対した印象としては、マジで災害としか言えないな。


「これからどうしましょう……?」

「一先ずは南にある街のどこかに避難民達の一部を誘導しながら自分達も避難する、じゃな」

「そういえばこの街の南の方にはガーネット家の所領であるパイロープがあるよね?そこを頼れないかな?」

「……これだけの数の人を受け入れられるかは分かりませんが、行ってみましょう」


避難民の数はかなり多く、すでに一部は勝手に王都方向へ逃げていたり、王都の南にある街を目指しているけど、それなりの数の人達は現在進行形で途方に暮れている。


そこでリーシャちゃんの実家を頼る方向に舵を切ることに。ガーネット家の所領は大きめの鉱山とその麓にあるパイロープという街だけという、伯爵としては小さめの所領なんだけどそれなりに規模はあるし豊からしい。


……あ、これ自分が一から成り上がるとかテンカに言っちゃったからテンカとゆかりで相談してそっちに振り切れたっぽい。ガーネット家の前当主、つまりはリーシャちゃんの父親が若くして死んだのは正直怪しいし、避難民の民意誘導とかして乗っ取るつもりでは?まあ面白そうだから放置しよう。自分としては力を隠したまま、演技したままどこまで通用するかやってみたい気持ちもあるし。


『そう言えばガーネット家の当主の座って、本来ならリーシャちゃんが継ぐべきだよな?』

『前当主が死んだ時にはまだリーシャは修道院入ってないからね。……前の周の異世界事情は解析し切れてないけど、ガーネット家に怪しい所が多いのは確かだね』

『……暗殺?』

『可能性は大いにあるよ。そもそも33歳で死ぬのは異世界と言えども若すぎる』


リーシャちゃんの出身地であるパイロープ方面に逃げると決めた人達は合計で3000人ほど。逃げ遅れていて自分達に助けられた人達も多く、この方面に配属された警備の人や軍関係者にリーダーシップのある人が少なかったため、遠慮なくテンカが指揮を取るけど様になっている。


戦える人は、150人もいない。……ダンジョンマスター達に見つかれば格好の餌だし、露見しないように鵺達には近付いて来るダンジョンのモンスター達をひっそり狩るよう指示を出しておこう。

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