第2話
ララクが【ダブランファミリー】を追放されてから、約一年後。
彼は今も冒険者を続けていた。
現在ララクは18歳を越えているのだが、見た目は幼い少年のようだった。サラッとしたマッシュルームヘアーのような金髪と、大きな黒い瞳が幼齢を感じさせる。
身長は160㎝もなく、本人は少しそれを気にしている。
彼は現在、世界をまたにかける旅をしていた。世界中の全てをこの身で体験したいと、ララクは物心ついた時からずっと願っていた。
そして今、彼が散策している場所は、乾いた空気が漂う荒野だった。
荒地は、広がる不毛の大地が目の前に横たわっていた。乾燥しきった地面には無数の亀裂が走り、そこから時折、細かな砂塵が舞い上がる。見渡す限り、緑の気配はほとんどなく、ただまばらに生えた草が風に揺れているだけだった。
風が吹き抜けるたびに、砂がざらつく音が耳に届く。遠くには、孤立した巨大な岩や、枯れ果てた木々が点在している。
空はどこまでも青く広がり、太陽が高く輝いている。その光は大地を焼き付け、地表は熱を帯びて波打っているようだった。
「暑いですね」
ララクはボソッとそういったが、特に汗などは掻いていなく、涼しそうな顔をしていた。少し熱を感じていることは間違いないだろうが、その程度は常人とは少し違う。
「あっちぃ。あんたさ、体を冷やすスキルとかないの?」
ララクの隣にいる女性が、額に書いた大粒の汗を腕でふき取る。へそ出し装備をした赤髪のこの女性は、冒険者でありララクの現在の仲間である。
背中には煌めく水晶で出来た戦闘用の棒を携えている。
「すいませんゼマさん、あるにはあるんですけど、使うと体が凍っちゃうと思います」
彼女の名前はゼマ・ウィンビー。ララクは、彼女に向かってペコっと軽く頭を下げた。
ゼマの年齢は20代前半であり、ララクの姉ぐらいの歳だった。血の繋がりはないが、ゼマはたまにララクを弟のように扱うことがある。「気軽に甘えていいよ」とよく言うが、いまだララクはその甘え方を理解できていなかった。
そんな絶妙な関係性の2人は、同じ冒険者パーティーとして活動し、国境を超える旅をしている。
なにもない荒野でポツンと歩いている2人だったが、彼らに迫りくる敵意があった。ひびの入った大地を、強靭な足腰で駆け抜ける6体ほどの獣が、隊列を組んで彼らの背後を爆走していた。
「……モンスター、ですね」
ララクは冷静さを保ちながら、静かに振り返る。彼はモンスターとの遭遇を、嬉しくもあり面倒でもあると感じていた。彼は世界を愛しているとともに、そこに住まう様々なモンスターにも興味がある。けれど、戦闘を行わなければいけない、という手間もあるので、真っすぐには喜べなかった。
「わーお、あれって、狼?」
ララクと違って、仲間のゼマは喜びの声を上げた。左の口角を上げてちらっと歯を見せて、これから起こるであろう戦闘を楽しみにしているようだった。
「いえ、あれはおそらく、ハイエナ種だと思います」
2人に迫りくる6つの黒い影。陽炎の中でゆらゆらと揺れるそのモンスターたちは、次第にその姿をはっきりと披露する。
その体はがっしりとした筋肉で覆われ、力強い四肢で大地を踏みしめるたびに砂埃が舞い上がる。体毛は荒々しく、灰色がかった茶色の斑点模様がその威圧感をさらに引き立てている。彼らの背中は丸く湾曲し、短い尾が絶え間なく動き続けていた。
「ギッギギッギ」
ハイエナたちはまるで、笑うように肩を上下に動かしながら喉を鳴らす。この奇怪な様子から、彼らは「
「ふーん、まぁ、なんでもいいや。叩きのめせればさ」
ゼマは物騒な言い回しをしながら、
「確か、このデスラフターはあまり食べるところがないですから、追い払うだけにしましょう」
ララクは軽く肩を回し、短くその場でスタっとジャンプをする。彼は無益な死を望まない。仕事のため、食事のため、以外はできるだけモンスターの殺害はしないようにしている。
「それじゃあ、ゼマさん。手短にやりましょう」
「了解、リーダー」
ゼマは現在、ララクが作ったパーティーに所属している。つまり、ゼマはララクの部下的ポジションということになる。
パーティー名は「ハンドレッド」。
いくつものパーティーを追放されて、ララクはついに100回という不名誉な数字を記録した。
しかし、そのおかげで彼はとてつもない力を身に着けた。
それが【追放エナジー】というスキルである。
【追放エナジー】
獲得条件……パーティー契約を100回解除される。故意に自分から解除されにいった場合はノーカウント(通算100回)。
効果……パーティー契約を解除してきた相手、並びにそのパーティーメンバーのスキルを獲得できる。
同じスキルがある場合、その数だけ効果が上昇する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます