G【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~いざなわれし魔の手~

高見南純平

第1話

「ララク、わりぃがお前は内から抜けてもらう。これはもう、おれ様が決定したことだからな」


「……分かり、ました……」


 冒険者ララクは、所属していたパーティーのリーダーから追放宣言を受けた。

 そしてそれに対して、すでに受け入れる姿勢になっていた。


「っふん、反論はねぇのか」


 ララクを追放した冒険者は、巨漢のダブランという大男である。スキンヘッドで、酒樽のような丸みのある腹が服から飛び出ている。


「……ボク、全然皆さんの役に立っていませんでしたし」


 ララクは自分がこのパーティーにおいて足手まといだと自覚していた。だから、追放されても文句を言う気などなかった。


 これに対して、ダブランの仲間が口をはさんでくる。


「その通り! ララクさ、ヒーラーなんだからもっと回復しないと」


 ダブランの横で胸を張って主張しているのは、トッドーリという少年だった。彼は見た目からして普通の少年ではない。何故なら、体が木造だからである。樹木特有の木目が体中に入っている。けれど、髪もあるし顔のパーツは全て人間と一緒。木造人間の彼は、ピノキオ族という希少種族だ。


「トッドの言う通りだ。ヒーラーは回復が仕事。のくせに、お前初級スキルの【ヒーリング】しか覚えねぇじゃねぇか」


 リーダーのダブランが仲間の意見に賛同する。彼の言う通り、ヒーラーは、外敵であるモンスターと戦った際に仲間の傷をいやす役職である。


 なのだが、ララクの能力はそれに値するものではない。


 現在のララクのステータスが以下である。


 名前  ララク・ストリーン

 種族  人間

 レベル 30


 アクションスキル 一覧

【ヒーリング】



 【ヒーリング】はかすり傷程度を治すぐらいしかできない簡易的な回復スキルだ。外に出てモンスターと戦えば重傷を負うこともある。なので、このスキルだけでは当然回復量が足りない。


「使えニャい奴は、いらニャいニャ」


 独特の発音で喋っているのは、もう1人のダブランの仲間である。年齢は木造人間トッドーリと同じぐらいで、まだ子供。

 猫の耳が頭から飛び出ている猫人ねこびとの少女チャミングだ。

「な」が発音しづらいようで「ニャ」と言ってしまう舌足らずな女の子だ。


「まぁ、そういうことだ。おれ様たちは家族だ。ララク、お前だっておれ様は子分だと思ってる。この2人よりはちょっと上で、いい関係になるって。

 けど、弱すぎんだよ。

 ほら、よく言うだろ。可愛い子は崖から突き落とせって。だからな、まぁ、今日でお前とはいったんお別れだ」


 彼らのパーティー名は「ダブランファミリー」。ダブラン、チャミング、トッドーリの3人は全員種族が違うので当然血は繋がっていない。けれど、ダブランが子分2人を拾って家族として過ごしている。


「はぁ~、これで足手まといがいなくなってスッキリする! ララクなんて、もう一生会いたくない……って、っあ」


 木造人間トッドーリがララクに対して暴言を吐いていると、突然彼の鼻が倍に伸びる。もともと鼻が高い種族なので、かなり長く細い鼻となっている。これも木製なので、木から枝が飛び出ているようにも見える。


「トッド、嘘ついたニャ」


「っえ、ぼ、ぼくは嘘なんかついてない……っあ、ああ……」


 トッドーリが弁解しようとすると、再び鼻が伸びる。

 これは彼が持つかなり特殊なスキル【嘘鼻】のせいである。嘘をついたら鼻が伸びる、というピノキオ族の中でもかなり珍しいスキルだ。


「……トッドくん、なんだかんだ君は優しいよ」


 ララクは苦悶の表情を取りながらも、少しだけトッドーリに笑顔を向ける。仲間を抜けてほしい思いは本当だろうが、少しでも自分に情を向けてくれるていることが、今のララクには気休め以上に感じた。


「よっしゃ、ほら契約解除するぞ。腕出せ」


 ダブランはぶくぶくと太った丸太のような腕をララクに向ける。ダブランの手の甲には、青白く光る小さな紋章が刻み込まれている。


 ララクも彼の意図をくみ取ると、自分の小さな手を前に出す。ララクの手にもまた、同じような紋章が現れている。

 これはあらゆる万物に存在すると言われている特殊な紋章であり、レベルアップやスキルの管理などを行っている。


 そしてもう1つ、この紋章同士を使ったギミックがある。


「……えーと、おれ様とララク、ストリーンだっけか。のパーティー契約を解除する」


 ダブランが宣言すると、2人の紋章から一筋の光が現れる。そしてそれらは交わると1つの線となった。その瞬間、青白い光の粒となって光の線は泡のようにはじけ飛んでしまった。


 これがパーティー契約とその解除である。パーティー契約をすることで、モンスターと戦った際などに得られる戦闘の経験値を、パーティーメンバーで共有することができる。その経験値がレベルアップのためのデータとなり、冒険者は進化していく。

 この仕様により、戦闘にほぼ参加していない弱小ヒーラーのララクでも、レベルアップすることが可能であった。


「じゃあな、ララク」


 ダブランは短く別れの挨拶を言うと、振り返ってその場を去っていく。その背中をララクは冒険中に何度も見てきたが、もう見ることがないと思うと、一気に寂しさがこみ上げていた。


「っあ、まってよー。おやぶーんっ!」


 トッドーリは特にララクの事を気にすることなく、ダブランの後を追っていく。きっとまたララクとどこかで会えるだろうと、心の中で余裕があるからかもしれない。


「じゃあね、ララク~。くたばるニャよ~」


 あまり表情を崩すことなく、猫人のチャミングは彼に手を振った。そしてスタスタと小走りで、家族の後を追っていく。


 これでララクは1人ぽつんと街の隅に取り残されてしまった。


「……はぁ、また追放かぁ」


 ララクがダブランの追放宣言にたじろいでいなかったのには、もう1つ理由があった。それは彼がパーティーから追放されるのはこれが初めてではないからだ。


 その回数を、ララクはしっかりと記憶していた。わざわざ数えなくとも、忘れることができないので、覚えざるを得なかったのだ。


(これで、53回目……、はぁ、いつになったら、ボクは強くなれるのだろう)


 そう、彼は常人では考えられない数の追放を経験している。ダブランファミリーは、その一部にしか過ぎない。けれど、その中でダブランは比較的長期間ララクを仲間として加入させていた。


 ララクの現在のレベルは30程度。普通なら中級者レベルである。ヒーラーとして問題なく活動できる範囲内なのだが、その回復する術をララクは持っていなかった。


「……また、探すしかないか」


 ララクは一人前の冒険者になるという夢を捨てきれないでいた。

 だから、もう次の冒険者パーティーに加入しようとしていた。


 彼はこれからも、数多くのパーティーに加入しては追放を繰り返される。


 そしてその数はついに、100回を迎えるのであった。

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