第74話 狂気の二人旅


それから、もう一日気まずい馬車旅を経て俺はアンゼロに帰ってきた。

あ~つまんなかった!もう乗り合い馬車は懲りたな。相乗りする人で楽しさが左右されるし、ガチャ要素が強すぎる。次は徒歩での旅もアリかもしれん。



北門で馬車を降りる。久しぶりだな、この景色。

相乗りしていた男たちは、ここからさらに南下する道程のようでそのまま馬車に乗って去っていく。もう会うことは無いだろうな。さらば。



俺はテクテクと町を歩き始める。時刻は夜前、門が閉まるギリギリの時間で町に入れたのはラッキーだった。とりあえず、ブルースの宿かな。彼の顏も見たいし、もしかしたらユウヤとマリコに会えるかもしれん。嫌な馬車旅だっただけに、皆に会うのが俄然楽しみになってきたぞ!





・・・





ブルースに到着すると、俺の目立つ姿を見たブルースがパッと顔を輝かせ出迎えてくれた。



「オイ!ネイサンお前、帰ってきたのか!」



「ああ、色々とやるべき事をやってきたよ。メシはまだあるかい?」



「ハハ、話よりまずメシかよ。だが、食い意地の張ってるヤツはキライじゃないぜ。特に俺のメシを食いたがってる野郎はな!」



ブルースは温かいスープと、黒パン。そして一杯の酒でもてなしてくれた。



「酒はサービス!ユウヤづてに干物のお土産を貰ったからな!」



ニカッ!と笑うブルース。そうそう、こうやって笑う男だった。



「聞いたぜ。悪名高きヘイゼルを殺って、町の女を随分助けたってよ。俺はそれを聞いた時、不思議と驚かなかったんだ。お前ならきっと、そういう人助けに首を突っ込みそうだなってな。とにかく、お疲れさん!」



俺はニッコリ笑顔でブルースとグータッチをキメる。

やっぱ、この町は良い。心のグチャグチャした嫌な部分がほぐれていく感覚だ。俺はそのまま、ブルースに海での冒険について話をした。ブルースは意外と聞き上手で、一緒に酒を飲みながら楽しく会話をしたのだった。



その後、気持ちよくベッドに入る俺。

スヤスヤとすぐに寝息を立てる俺の枕元に、一柱の神が無言で立っていたことに俺は気付くよしも無かった・・・。






・・・






朝。少し寝坊気味に起きた俺は、ブルースのメシの合図でゆっくりと起きる。質の良い睡眠だった。馬車旅の疲れはウソのように消え去っている。



階下に降りて朝メシを貰うと、ブルースから嬉しいお知らせがあった。



「ユウヤとマリコから伝言だ。アイツらウチに泊まっててな。お前が戻って来たと教えたら、今日の晩メシは絶対一緒に食おう!って言ってたぜ」



「そうか!サンキュー、ブルース!」



俺は晩メシの時間を楽しみにしながらも、レベッカからの「おつかい」に着手することに。美味しく朝メシをたいらげて、移民局へと向かった。




露店で買ったいつものコングルの実を齧りながら、数分。すぐに目的地に到着する。ここに来るのは輪をかけて久しぶりだな。扉を開けると、あの老婆が俺を待っていた。



「おや、ゴレムスの坊やじゃないか。噂は聞いてるよ、良くやったねえ」



「やあカーラさん。どうやら俺も有名になっちまったらしいね」



「そうさ。坊や達の行いに、みんな感謝したってことだよ。それで?今日はお茶を飲みにでも来てくれたのかい?」



「それもイイんだが、今日はちょっとしたサプライズで来たのさ」



俺はレベッカから預かった荷物と手紙を渡す。

手紙を読んだカーラさんの顔はだんだんと喜びに染まり、小さく涙が流れた。



「ズズッ・・・はあ、すまないね。歳を取ると涙腺が弱くなっちまって。あの子がねえ、こんな年齢にもなって誕生日を祝ってくれるなんて・・・」




「レベッカにはイートヴォーで世話になったんだ。一方的に、だけどね。あの子の元気な笑顔は周りを明るくする。俺が航海に出る前も、あの子に気合を入れてもらったのさ。いい孫を持ったな、カーラさん」



「はは、そうかい。あの子は元気かい・・・良かったよお。時にあんた、アタシのベッカに手え出すんじゃないよ?」



「ライバルが多すぎて、ハナからそんなコト考えちゃいないよ。それより、プレゼントを開けてみたらどうだい?」



そうね。と言いながら包みを開くカーラさん。中にはイートヴォーの食品と、一枚の絵が入っていた。その絵には、美しい神とそれにかしずく一人の老婆が描かれている。神聖さと、慈愛に溢れたその絵を見て俺も驚いた。名画だね、こりゃ。あの白ギャルが描いてくれたのかしら。



「こりゃあきっと、あんたとプリマス様だよな。額縁に飾ってやらないともったいない、素晴らしい絵だあ」



「ああ・・・あの子にプリマス様の加護があらんことを。今日は最高の日になった。生涯忘れない、最高の一日にね・・・」



おっと、俺まで泣きそうになっちまう。俺がプリマス様だったら、この家族には特大の恩寵を授けることだろうよ。人間って、良いモンだなあプリマス様。



その後、カーラさんはお茶を出してくれた。しばらくベッカのことを中心に会話を楽しむ。あの子の幼少時代のこと。今は亡き両親のこと。移民局を引退したらイートヴォーで一緒に暮らすなんてことも話してくれた。




「あ、そういえばカーラさんに聞きたいことがあったんだ」



会話も尽きかけたころ、俺はふと思い出した。今まで聞きそびれていたコトを聞くチャンスだ。



「俺たち転生者が現れる、古びた寺院があるだろ?あそこにある像って・・・やっぱプリマス様なのかい?」



「プッ・・・あはは!いいや、違うよ坊や。プリマス様の像は教会にある。まだ見た事ないかい?」



ああ、そういや俺は神の信徒でありながらまだ教会に行ったことすら無いな。



「あれはね、あんたが知ってるかはわからないが・・・混沌の神、ヨーグ様と言われているよ」



な、何ィ!?嘘だろ?あの像はこう、清楚系の美人で・・・俺が見た少女の姿のヨーグちゃんとは似ても似つかなかったが・・・。




その時、ふと神の気配がした。え?まさか、まさかなのか。

カーラさんがいる前で来ちゃうのか?神様!?




俺が慌ててキョロキョロしだすと、カーラさんは不思議そうな顔をする。



「ん?何を慌ててるんだい?」



その時、カーラさんの顔から・・・

もう一つの顔がニュッ!!と飛び出した!




「サプラ~~~~~~~~~~イズ!!!ケイオ~~~~~~~ス!!!!」



「うおおおおおおおおお!!!!??」



俺は椅子から転げ落ちる。

ヨーグちゃんだ。ついにヨーグちゃんからの神託が来たのである。



「ひえ!ちょっと坊や、どうしたって言うんだい!」



「す、すまんカーラさん!ちょっとあの、神託が来てるんだ!今ここで!ヨーグちゃんから!!」



「なんだって!?」



カーラさんは俺を見つめ、何か小さく呟いた。「”看破かんぱ”」と聞こえたきがする。スキルを発動したのか?”見通す眼”のような何かだろうか?




「ど、どうやら本当のようだね!アタシは奥に行ってるから、神様の話を聞きな!」




ドタドタと奥に引っ込むカーラさん。何故かバタバタとそれに付いて行くヨーグちゃん。なんちゃって♪という顔ですぐに戻って来る。小ボケが!拾いきれない!




「これで、アチシとネイチャム・・・二人っきりなのねん・・・?」



「イーーーーーヤーーーーー!!!!襲わないで!!」



「まだ早い♪ソレまだ早い♪」




ゲラゲラゲラ・・・!!一人で爆笑するヨーグちゃん。これは、シラフだと着いて行けねえ!そう確信した俺は、仕方なくスキルに身を任せることにした・・・。




「イケるかな・・・・”恐怖遮断”」




ギュン!!



狂気には狂気を!ハイテンションには脳内麻薬を!俺はアドレナリンで脳みそをハッピーにすることで、ヨーグちゃんと対等に会話することにキメたんだゆ!!



ドゥクドゥクドゥクドゥク!

幻聴でビートが聞こえてくる。パーティタイムだ!!!



「エイ!エイ!カモンナ!ヨーグちゃんさ時に最近どう?あなたに会いたい月金土!溢れるリスペクツ!ドンドコドォン!会いに来てくれてありがとう!!」




ッキュワ!キュキュッキュ!キュワ!

ボイパでグルーヴを出し、次はお前のターンとばかりにヨーグちゃんを指さす俺。

ヨーグちゃんはいつの間にかダンスを踊っている。華麗なターンをキメてから見えないマイクを握り、ズバン!とポーズを取った。




「チャンポロゲソッパいとおかし!信者を神社で皆殺しい!ポウ!底が見えないケイオスにい!ハマってゲロって死ん死んし~~~~ん☆☆☆!!」




デエン!!俺らは二人でポージングし、ハイタッチしてゲラゲラ笑い合った。ヨーグちゃんラップもできんのウケる。一番好き。マジで。




「ヨーグたそ、決めました!ネイチャムに依頼をしてもらいマッスル!!」




何故かグラビアアイドルのようなポーズを取りながら腰をクネクネさせるヨーグちゃん。カワユスな。



「”混沌の扉”・・・カオス・ゲートで旅をするんだゆ!なんか、そうねん!?・・・3コぐらい!?」




「先生!!”混沌の扉”、イズ、何????」




「ナイス質問ねん!!ケイオスポイ~~ンツ!!」




オラオラオラァ!!ヨーグちゃんが俺の両目、人中、アゴに素早く指を指してくる。

全部人体の急所だ!スゴ~~い!!!なんで???




「ワープする扉でしゅ!!行き先はスーパーランダムう!!最近使われてなくって・・・ヨグたん悲しみプカし・・・だからいっちょ!流行らせて欲しいのねん!!」




「クポォ!!了解したンゴね!!しかしヨグ氏??扉はいずこ??」




「クソボケナッツだしん!モマイ、さっきオババと言うてたやろがい!アティシの像!あの前で祈るんでゴワスよ~~~!!」




「把握」




「祈りの言葉を復唱セイ!!出てこい出てこいケイオス・ゲーツ♪」



「出てこい出てこいケイオス・ゲーツ♪」



「カワユスゲロッパヨーグちゃん♪」



「カワユスゲロッパヨーグちゃん♪」



「んで最後に自分の手首を切るんだゆ」



「流行るかい!!!祈りだけにセイ~~~~!!」



「ゲラゲラゲラ!!ケイオスジョークたい!!!ではな!また来るバイ!」





こうして俺の次の旅が決まってしまった。

カオスゲートでのランダム旅行。”恐怖遮断”が切れて冷静になって考えてみると、マジでヤバい内容で笑ってしまう。クソ危険なニオイがプンプンするぜ。どうしよ?



「カーラさん、終わったぜ」



恐る恐る顔を出すカーラさん。なんか、ちょっと目がキラキラしてるな。



「坊や、アンタ神様と仲が良いんだねえ!話の内容こそ聞こえなかったけど、えらくニコニコしながら話してるみたいだった。それで、どんな神託だったんだい?」



俺はカオスゲートのことをカーラさんに話す。すると、みるみるうちに心配そうな顔になるカーラさん。



「そいつは・・・危険な巡礼になるだろうねえ。せっかく知り合ったんだ。アンタの旅の安全を願ってるよ。それにしても、あの像にそんなチカラがあったなんてねえ」



「全くだ。というコトなんで、明日には旅に出ようかと思う。達者で暮らしてくれ、カーラさん。長生きしてくれよな」



「はは、言われなくてもしぶとく生きるよ。旅の終わりに、またいつか・・・この町に帰ってきなよ」



俺の肩に手を置いてくれるカーラさん。そうだな、その時には・・・既にプリマス様を解放できているといいな。



俺にとっての異世界のばあちゃん。彼女の人生に幸あらんことを。

そう天に祈りながら、俺は移民局を後にする。






・・・





俺は夜まで、新たな冒険の準備をしていた。

日持ちのしそうな食料品を買ったり、冒険に必要そうなモノを考えて露店を回りまくる。この機に、異世界人っぽい洋服も買ってみた。いつまでもTシャツじゃなんだからな。地球の服はカバンの底に大切にしまっておく。



あとは・・・本屋にも行ってみた。

店主のおじいさんは優しい人で、立ち読みもある程度許してくれた。本を求めて来る人自体が少ないため、ヒマでしょうがないんだとか。本棚には料理書、小説、植物図鑑などのラインナップがあったが、中でも俺の興味を引いたのは旅行記だった。様々な著者がおり、別の地域、別の国での出来事をつらつらと書き連ねてある。



店主によると、モンスターがいるせいで旅行自体が困難なこの世界において、冒険家が書いた旅行記は外の世界を知る数少ない手段の内の一つなんだとか。中にはフィクションが織り交ぜられてることもあるというが、その真偽を確かめることも容易ではないため、一種の娯楽として楽しむモノでもあるらしい。



俺は数冊の旅行記や料理本を”記憶力向上”で速読し、それだけだと申し訳ないので一冊の童話集を買うことにした。単純に気になったのもあるが、読み終わったらそこらの子供にでもあげればいいしな。久しぶりに本を買ってくれた客に、おじいさんは喜んでくれた。本自体は高級で、15シルバーもしたのだが・・・。まあ金はまだある。



なんだかんだで軽くなってしまったサイフを手に、俺は早めに宿に帰った。

夜になれば、ユウヤとマリコに会える。もしかしたら、友達のレイラにも。しばらくヒマを潰そう。そこで俺はスラムの子供、ジンとテムの姿を見つける。



「うわ、ニーチャン久しぶり!」


「あ、ヘビのニーチャン!」



パタパタと駆け寄って来る姿が可愛らしい。元気みたいだな。よかったぜ。



「おう、ガキども。約束したのに、ヘビの仕事回してあげれなくてゴメンな。俺は港町に行ってたんだ」



「いいよ、別に。だってユウヤが代わりに声かけてくれたモン」



「そうだよ。この前、ヘビの仕事やらせてくれたんだ!」



おいおいマジかよ!俺は嬉しくてたまらなくなる。ユウヤとマリコ、もうハングドボアにリベンジしたのか。そして、やり遂げた!人ごとながら、俺はニッコリしてしまう。



「ハハ、そうかそうか。そうだ、俺はまた遠くに行っちまう。今日の晩メシに使いな

。小遣いをやるよ」



俺はそれぞれに1シルバーづつ寄こしてやった。え!いいの?と言いながら喜び笑う子供たち。本当はもっとあげたいトコロだが、余計に持っててもトラブルの元になるだろうからな。



そうこうしていると、会いたかった顔に出会う。



「「ネイサン!!」」



「ユウヤ!マリコ!!」



別れてから少ししか経っていないのに、俺たちは数年越しに出会えたかのように再会を喜んだ・・・。




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