第73話 幕間


ポジック達と別れた俺は、この街でやり残した事が無いかと考える。まだ次の神様の依頼も不明だし、やる事が無いならアンゼロに帰るかモリス達のいるサンフューラにでも行こうかと考えていた。



あ、一つだけあるじゃないか。イベントを回収し忘れるトコだったぜ!

俺は目的地に向けて歩き始める。




・・・




「あ~~~~~!!帰ってキタじゃ~~~~ん!!おかえり!」




そう。俺はギルドのギャルに会いに来ていた。

ギャルは心のオアシス。オアシスはギャル。意味が分からない?知ったこっちゃねえよ!ブン殴んぞ!!



「ただいま。海賊共、ボコボコにしてきたぜ」



「まあじ?エラ~~イ!!首取った?大将首?スパン!ってさ」



「ソコなんだよ、部下はほとんど全殺し。だが大将のビシャークは取り逃がしちまった。でもよ、ヤツからマーフォークの村は守ったぜ」



「そっか・・・でも偉いじゃん!てかビシャークって結構大モノじゃない?”収集家コレクター”ビシャークでしょ?魔道具の所有量がスッゴくて、どんなに追い詰めても魔道具で逃げちゃうから、懸賞金が上がり続けてるっていう」



「へえ、あの野郎二つ名がついてんのか。俺もまんまと逃げられちまったが・・・もし次に会ったらフン縛ってやるぜ!」



「やっちゃって~マジで。そしたらまた海に行くの?死に急ぎすぎじゃね?」



「いや、しばらくはおかかな。この街も出て、アンゼロかサンフューラに行こうと思ってる」



「え、マジ!ちょっと待っててくんない!?」



ドタバタと裏へ駆けていくベッカ。すぐに戻ってくると、大きな包みと一枚の手紙を持って来た。



「もしね!も~しアンゼロに行くんだったらなんだけど!アタイのおばあちゃんちに荷物届けて欲しいの!ここ何日か街道にモンスターが出てさあ、郵便屋が止まっちゃってるのね?そんでこの機にバカンスします!とか言って休んでんの!!だから、ヨロシクできん?ムリ・・・?」



きゅるんと瞳を潤ませて、モジモジとお願いするギャル。ズルいぜ。こんなん断れるわきゃねえだろ。



「そんな顏されちゃあ、断れねえな。何度も言うが俺はチョロいんだ。行き先はアンゼロで決定だな」



「ヤッタ!!ありがとうネイサン~!おばあちゃんはカーラって言って、移民局に行けば会えるハズなんだけど・・・」



「なんだって?あのカーラさんかよ!世界は狭いなあ、あのプリマス様が大好きな人だよな?」



「ウッソ、知ってんの!?あ・・・そっか転生者だから。なーほどね。え、仲良い?ウチのおばあちゃん。良いヒトじゃね?」



「ああ、ベッカと同じで客に対して親切な人だったよ。二重に断れなくなっちまった。じゃあ荷物、任せてくれ」



「あ、ちょい待ち!個人依頼にしちゃうわ!ちゃんとお金払うかんね!」



「そうだな、記録に残さないと。じゃあ、ここは1シルバーで請け負おう」



「やっす!お人良しすぎん?・・・いいの?冗談?」



「美人には優しくする主義なのさ。そのほうが、俺としても気分が良いんだ」



「アハ、変なの。・・・でもありがとね!う~ん、じゃあご褒美あげちゃおっかな~?」



クイクイ、と指で俺を呼び寄せるベッカ。

言う通り近づくと、頬にキスをしてくれた。最高じゃん。

周囲のレベッカのファン達の視線が痛い。殺されないだろうか?



「アハハ!肌かったいね!じゃあ気を付けて!おばあちゃんにヨロシク~!」



俺は後ろ手に手を振ると、またも「孤児のための募金箱」にズシャ!っとカネを入れてギルドを去った。






・・・






俺は冒険家資格を提示し、乗り合い馬車に乗った。冒険家の同伴の元ならば、まだ馬車は出ているらしい。何人かの冒険家が詰められたムサ苦しい車内で、ボーっと考える。



ここから二日か。こいつはまた、ヒマだぜ。

ステータスでも確認すっかあ。



「”オープン・ツリー”」



レベルは・・・上がってないんか!そっか~、結構海賊を殺ったハズなんだがな。まあ仕方ない、レベルが上がるにつれ必要経験値量が上がったりするんかなあ。ゲームみたいに。



でも来ました。伸びてるね、”守り人”のツリーが!しかもこれは知ってるスキルだ。

威圧プレッシャー”。ウィルが使えるって言ってた、敵をイラつかせてタゲを取るスキルだ。これは納得だな。海賊との戦いではタンクムーブもしたし、マーフォークを守るという名目で戦っていたんだ。これで誰かを守るという動きがし易くなる。



本を見てニコニコしていると、隣に座っている男がクックックと嫌らしく笑った。



「いや、失礼。お前がその、あまりにも初心者臭くてな」



あ?なんだコイツ。殺されてえのかよ。




クスクス・・・。


ん?なんだコイツら。周りの客も仲間かよ。



「そうかい。一応聞いてもいいか?どこがそう見えるんだ?」



「いやなに、お前転生者だろ?ゴレムスで。ってことはホームは近くのアンゼロだ。ちょっと調子づいてイートヴォーへ渡ったけど、沈むのが怖くて帰ってんだろうなと思ってよ。違うか?」



「違うね。他には?」



「スキルが生えていちいち喜んでんのも、ロクな装備もしてねえとこも。何より、格上の俺に絡まれてんのに強がってるとこも初心者のガキくせえ」



「絡んでる自覚はあるんだな。お前のレベルは?」



「お前じゃねえ、”あなた様”は?だ。冒険家ナメてんのか、オイ」



「はいはいお客さん!ケンカは到着後に頼むよ」



御者のおじさんが一応仲裁を入れてくる。

ダルそうなところを見るに、こういういさかいは慣れっこなんだろう。



「チッ・・・お前、今晩俺に付き合えよ。サイフも忘れずにな」



「お前と寝ろってコトか?俺にはそんなシュミねえが、いくら払うつもりなんだよ?え?」



「・・・ってんめえ!!」



「ホラ!馬車止めちゃうよ!やめなさいって!」



俺とクソ野郎はお互い押し黙る。今夜が楽しみだ。コイツの顔面をグチャグチャにしてやる。俺はこういう無神経なバカが大嫌いなんだ。ついでに言うと、周りでニヤついてたカス共もな。





・・・





俺は早く夜になれ、とイライラしつつもやることが無さ過ぎてウトウトし始めていた。ベルたちとの馬車旅は良かったなあ。話し相手がいて、みんな良いヤツで。みんなの夢が見たい。そんなことを思っていると、馬のいななきと共に馬車が急停止した。




「お、お客さんたち!仕事だよ!モンスターだ!!群れだよ!!」




カッ!と目が覚め、一目散に外に出る。

ホントだわ。遠巻きに囲まれてる。アレは・・・イヌ科のモンスターか?オオカミってほどデカくないし、犬ってほど可愛くも無い。弱そうだな。



「ハッ!!何かと思えば犬ッコロかよ!・・・おいゴレムス、お前は馬でも守ってろ。どうせ硬えだけでノロマで、使えねえんだろ?」



「俺はタンクだ。前に行く」



「・・・だ~か~らあ!!口答えすんなあ!!初心者があ!!」



シャラン!と男は片刃の剣を抜き、俺の首元に向ける。

はあ?こいつ・・・マジかよ。完全に気分を害した俺はクルリと背を向け、馬を守りに行く。もう知らねえ。勝手にしな。



「ったく、邪魔くせえったら。行くぞお前ら!さっさと終わらせろ!!」



やはり周りの冒険家は男のパーティーだったようで、連携を取りながらモンスターに向かって行く。コチラの戦意に気付くとモンスターも動き出した。



「お客さん、ちょっと・・・」



ん?御者のおじさんが話しかけてくる。



「アイツら・・・ダメかもしれん。もしもの時は、二人で逃げよう」



「え?それは・・・なんでだい?」



「アイツら、”屍食鬼グール”のことイヌだと思っとった・・・知らんのなら、きっと負ける・・・!」




グール?あの犬が・・・?

男たちの方を見ると、驚愕の光景が広がっていた。



走る犬の姿が、一歩踏み出すごとに変貌していく。まず尻尾が消え、耳が消え、次第に四つ足で駆ける人間の子供のような容姿になっていく。汚く長い黒髪をなびかせて、グールは物凄い俊足で男たちに飛び掛かった!



「うあああああああ!!バケモノおおおおおおおお!!!」



そのおぞましい姿に正気を削られた男たちは、肩に力が入り過ぎたのか初撃をことごとく外してしまう。まずは先頭にいたクソ男が、グール達の集中攻撃の的になった。



がりぃ!!



グール達は男の鎧の隙間にアタマをひねり入れ、四肢の関節まわりを重点的に攻撃した。ヤツらの武器は、歯である。”屍食鬼グール”というだけあって、ヤツらは人の肉も食ってしまうのだろう。



「うわ!!うわああああああああああ!!!!嫌だ!!!離れろおおおお!!」



男は転倒しそうになりながらも、なんとか立っている。剣を握りしめ、グールを切り殺そうとしている。



「”スラッシュ”!!”スラッシュ”うううううう!!」



闇雲にスキルを放つものの、当たる気配は無い。

あ~、あいつ死んだわ。ウケる笑



「やっぱりダメだ!兄ちゃん、一緒に逃げよう・・・!死体があれば、グールはしばらく大人しくなる!」



ナイス判断だな、おじさん。商売人はそれくらいたくましくなくっちゃな。

だけど俺は、あの男にナメられっぱなしなんだ。そのまま死なれちゃ困るのさ。



「大丈夫さ、おじさん。俺がいる」



俺はダッと駆け出し、今にも食われそうになっている男のパーティーメンバーの元へ駆けつけた。



「”威圧プレッシャー”・・・!!」



ゴッ・・・!



覚えたばかりのスキルを発動する。そのオーラに気付いた男のパーティーが俺をバッと振り返る。と同時にグール達も急ブレーキをかけ、そのまま俺の方へ方向転換。

ギャハア!!とかなんとか言いながら、総勢9匹のグールが俺目掛けて飛んだ来た。



「”落石”」




俺はいつもより魔力を多めに練って、自分の頭上に大きな岩を出現させる。このままでは俺ごと大岩に圧し潰されるが・・・。俺とグールが接触するその瞬間。




「”落石”で、転移」




シュン!




グギャア!?標的の俺がいなくなり、グール達はそれぞれがぶつかり合ってもみくちゃになる。そこへちょうど良く振ってくる大岩。不可避だろうな、これは。





ドグチャア!!!(ギャギ!!)




俺はグールを圧し潰した大岩の上にガチン!と着地する。我ながらスタイリッシュにキメてやったぜ。



アタマが潰れていない瀕死のグールの頭蓋骨をパキャ!と踏み抜き、”落石”に引っかからなかった運の良いヤツも”打岩”でフッ飛ばす。



「あ、ありが、ありがとう・・・」



男のパーティーの女を無視し、未だに齧りつかれているクソ男の方へ近づく。

”威圧”の効果範囲に入ったのだろう、クソ男に群がっていた5匹のグールがこちらに気付き、向かってくる。



俺は相棒のナイフを構え、手前の1匹に”打岩”を打ち込む。脳天にブチ当たった弾丸は、小さな出血痕を残しつつ脳みそを昏倒させたようだ。ピクピクと痙攣している。



俺に辿り着いたグールにはわざと左手を噛みつかせ、ナイフで首をバサッと裂く。

次は足に噛みついたグールをザクリ。バサリ。後は作業みたいなモンだ。



これで終わり。遠目にこちらを眺めていた慎重な数匹のグールは撤退していく。

アタマの良い個体もいるんだな、なんて思いながらクソ男の様子を見に行く。



関節を血まみれにされ、顔面も数か所齧られドクドクと出血している。呆れるほどダセえな、お前。駆けつけたパーティーメンバーに何やら薬をぶっかけられるクソ男。



すると、頬の傷口が閉まり出血がみるみる止まっていく。おい、まさかコレ、ポーションってやつか。しかし齧られた肉は蘇生できていない様子で、男の顔はデコボコになりブ男に拍車がかかってしまっている。初めて見たが、光彩術に比べると性能は悪そうだな。



「ねえ、この人が・・・全部片づけてくれたの。強いよ、この人」



クソ男に女が伝える。ハッとした男は俺の顔を見上げ、驚きを隠せないという表情を作る。キョロキョロと周りを見渡し、状況を理解する男。



「おま、お前が・・・?」



「”あなた様”が、だろ?」



俺はニヤリとしながら男に石ビンタをくれてやる。

治癒したばかりの傷へのダメージに悶絶する男。



「ありがとう、ございました・・・あなた様の、お名前は・・・?」



「言えるじゃねえか。お前に教える名前はねえよ」



俺はスクッと立ち上がり、馬車へ戻る。それに着いてくるパーティーメンバーたち。一歩遅れてやって来るクソ男。俺はサッパリとした笑顔を浮かべていた。はあ、気持ちが良い。



その日の野営はお通夜みたいだった。黙りこくる男のパーティ。なんとか話をしようとするクソ男。俺に露骨に色目を使って来る女にも石ビンタを食らわせ、最悪の空気を演出してしまう。



「兄ちゃん、流石に・・・ヤなヤツだな。強いけど・・・」



「ガハハ!そうかい?おじさん。なんか悪いね!」



俺はヤバい空気も全然気にならなかった。罪と罰だよ、バカ野郎。


悪神様、悪に身を任せるってのはこういうコトかな。コレくらいだったら、時々ならやってもいいぜ。俺。相手がムカつく野郎だったら、俺いけちゃうかもしんねえわ。



そんなコトを考えながら、夜は更けていった・・・。




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