第10話 なんか見つけたっぽい


仮決めした状態の喧嘩術、その技を発動することができてしまった。


終わった…これは…


再検討じゃねえか…


〈スキル〉が使用出来た事より何より、それを上回る確認作業のダルさに心打ちひしがれていた。


こんなもん、2周目なんてしたくな…い…


い、いやいやダメだダメだダメだ!


俺はもう2回目の人生を、より良いものにするって心に決めたんだ。転生できるって言われた時から、トラックに無様に轢かれる映像をタップした時から…!



「クァ〜〜〜ッ!!!ホウ!!ホホウ!!」


奇声を上げ、〈ケンカキック〉を連発する。

俺は生前、意思薄弱な男だった。堪え性の無い、何をやっても続かないダメ人間。


不安症のクセに、一定のカロリーを消費すると途端に考えることを放棄する癖もある。無勉強で、浪費家で…ええい、もうたくさんだ。


しゃぶり尽くすんだろ、このキャラクリを。やってやる。やってやっぞ!!



え〜、という訳でスキル一覧の検討2周目ということなんですけど。張り切って参りましょう。つ、辛え~。


まずはせっかくなんでこの喧嘩術について。

検証することは以下だ。


①1月分の喧嘩術の指南について

②〈ケンカキック〉について

③〈スラム〉について

④〈ポケットサンド〉について


スキル詳細文によると1月分の喧嘩術指南の経験を得る、とある。

想像では1月分の喧嘩術指南のビジョンのようなものが、一挙放送されるみたいに脳内に見えるのか?なんて思ったが、どうやらそのセンは無いようだ。記憶には今のところ何の変化も無い。


だとしたら、その「経験」とは何だ?俺のどこに身についたんだ?分からない、実戦の場で急に覚醒するとか・・・?いやいやそんな不確実な。


俺には喧嘩の基本の「き」も無いんだ。それでは困る。

構え方だってほら、分から・・・ん?


スッ


慣れた動きで俺はボクサーのような構えを取っていた。

足幅を開き半身に構え、両手を眼前に上げてゆったりと構える、俺。


習ったみてえじゃん。まるで。


もしかしてこれ、この経験は「問い合わせ型」なのかもしれない。これをできるかやってみよう、とか言葉の意味を頭に質問する形で投げかける。みたいな。


答えが経験の中に存在すれば、それが吐き出される。そんな仕組みなのではないだろうか。


なるほど了解、やってみよう。

脳内の師範よ、荒くれ者のリーダーよ・・・え~っとまずは拳の握り方を教えてクレメンス・・・っと。


ギュッ


おお。ゲンコツ、という呼び方が相応しいようなガチッとした拳が作られた。指の隙間が少しも無い、一つの塊になった拳。喧嘩の経験の浅い俺にはこれだけでも暴力の匂いを感じることができた。


では、人の殴り方を教えてくれ。何種類かお願いします・・・っと。


ブンッ

シュッ

ブオン

ビュオッ

ズン

ヒュッ


うおお止まらん止まらん笑。落ち着け俺の体よ。

こういう質問の仕方をすると止まらなくなるのね。了解、了解っと・・・


では今のパンチの意味を一個ずつ教えてくれ。

フムフム、頭に情報が溢れてくる。え~、フックみたいなのは「アゴをぶっ壊すパンチ」ね・・・ストレートみたいなのは「鼻血吹かすパンチ」ですか・・・なるほど、荒くれ者のリーダーっぽい教え方やね・・・



こうやって俺は思いつく限り、脳内の師範に質問を続けた。間合いのはかり方、戦意喪失させる方法、掴み技、技の抜け方、急所の狙い方、エトセトラ・・・エトセトラ・・・





体を動かしながら、様々な質問をした暁に俺は脳内師範にこんな質問をしてみた。

喧嘩の極意って、なんなんすか。


頭に師範の言葉が流れ込んでくる。


「とにかく相手をぶっ壊して、二度と歯向かえなくする」

「つーか、滅茶苦茶にブッ殺すってことだな」


これ、らしい・・・押忍、師範・・・



「経験」についての意味は分かった。質問の方法を変えれば、それこそ無限に時間が使えそうだったのでこれぐらいにしておこう。正直言ってこの作業は少し楽しい。自分の中に眠る教えの数々をサルベージしていく感覚は体験したことのない快感を俺にもたらした。


では検証項目②、〈ケンカキック〉について。

これは今でも発動ができる技だ。なんかハイキックっていうのか?結構上段に向けて勝手に足が吸い寄せられるような「補正」がかかる蹴り方だ。


発動はできるものの、実際に師範が打っている技を見たい・・・そう考えると脳内師範が反応し、映像が浮かび上がってきた。ビジョン、見えるやん!!


ゴスッ


師範が誰かの顔面を蹴り倒している。どっこいしょ!と言わんばかりの乱暴さで、足の裏を相手の顔面に向けて踏み抜くように。


俺が知っているハイキックっていうのは足刀蹴り?みたいな・・・ザ・武術みたいな「型」の綺麗なモノだったが、師範のそれは前蹴りを無理やり顔面まで持っていって踏み抜くみたいな。蹴った後は残心的なモノもなくクルっとこちらに体を返してニカッと笑っている。


大味すぎるぜ、師範。だが、それがいい。

きっと〈スキル〉に数えられているのだし、蹴る力に補正が掛かっていたりするのだろう。心なしか発動中は体幹も安定するような気もする。



次に検証項目③、〈スラム〉について。

これはいわゆる掴み技ということらしい。なので今ここで〈ケンカキック〉のように発動させることができないようだ。


脳内に師範が誰かを〈スラム〉で滅茶苦茶引きずり倒している姿が浮かんできた・・・ああ、そういう動きなんですね、師範・・・。相手に掴みかかり、片手は胴に回し、もう片方の手は顔面を押さえつけながら地面に叩きつける。野蛮が過ぎますって師範。最高っす。


最後に④、〈ポケットサンド〉について。

これもこの場での発動ができなかった。脳内映像ではまたもや師範が何者かに技を仕掛けている。よく見ると毎回バックの背景が違うし、街で適当な輩に技を掛けているんじゃないか?この人は・・・


師範が握り拳を開くと、手中に仕込んでいたであろう砂が宙に舞った。その後、敵も師範にブン殴られて宙を舞ったのだった。なるほど、目くらましの術ってところか。


セコい技だが、映像の中の師範はニコニコしながら言う。


「オウ、なんでも使え。向かってくるヤツだってエモノ持ってんだ」


まさしく、地に伏せた敵の手中には短剣が握られていた。師範の言う通りだ。セコいとか卑怯とか、そういうレベルで戦う場所ではないのだ。異世界は。


映像の終わりに、師範がボソッと言う。


「まあこれは、使えるヤツと使えねえヤツがいんだけどな」


ふーん。そうなのか。

ん?砂取ってきてポケットに忍ばせておけばいいんだろ?誰でもできそうなもんだけどな。


まあ、事実俺も発動できない訳なんだが。

いやいやこれは、この部屋に砂が無いからだろう。〈スラム〉の発動条件に相手が必要なように、単純に砂という素材が足りないから発動ができない。


そういう意味ではないのか?


何か腑に落ちない。俺は先ほどの脳内映像をまた再生する。


このスキルになんの難しさがあるというんだ?やはり子供にだって出来そうな技だ。

つーか〈ポケットサンド〉なんて名前なのに、ポケットに手を突っ込んだりしないんだな。なんてことを考えていたその時、閃きが訪れる。



これ、もしや土石術・・・魔法なんじゃなかろうか?


手のひらから、砂を生み出してるんじゃないか?















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