第2話 なんか怒られるっぽい


「お前のぉ、なんで石板さわんねぇんじゃ?」


俺はケモい神様に説教されていた。

どうやらこの部屋に送られた人間はこのタブレットを使い、セルフレジで買い物を済ますかのように1人で転生にまつわる操作を行っていく想定となっていたようだ。


「お前別に若返りのオプ付いてねえんじゃよな?この説明すんのってクソジジイかババアだけじゃぞ?ちったぁ恥ずかしがれな!!」


「ハイ、すみません…」


若返りオプションとかあるんだ…とか思いつつ素直にごめんなさいをしといた。

ケモ様(仮)が言うにはやはりケモ様は神様だそうで、石板の使い方がわからないクソバカをシメる係をなさっているんだとか。


「あの、触ってもし映像のループが止まるとしますよね。それでもしここが地獄で、唯一の娯楽がさっきの映像だとしら、永劫えいごうの時の中でワンタップしたことを後悔するかもと思って僕、触れなくて…わかります?」


「キモ!!っじゃいそれ!!」


俺の不安症はもちろん理解してもらえなかった。キモ!!の2文字である。


「とにかくお前はもう喋るな!石板使ってとっとと出てけ!行け!」


そう言うとケモ様は全体的にモフっているその身を翻し、スッと消えてしまわれた。

おいたわしい、俺のようなクソバカのためにその身を粉にして働いておられるとは…あとお名前聞き忘れたわ。



いやぁ、それではやっていきますか。

恐らくこれからこのタブレットで決めていくのは、自分自身の運命だ。下手に誤操作でもしようものなら後々凄まじく後悔するっていうか、すぐに死ぬかもしれん。


深呼吸。画面には未だトラック事故の映像が映し出されている。多分この画面をワンタップすることで画面は切り替わり、この映像を見ることは二度と叶わなくなるだろう。


現世で自分が死んだ事はもう変わりない、だが未練が一つも無い訳ではない。映像の中の電柱を、端に映るコンビニを、文明の匂いのするすべてを目に焼き付けて。両親や友達、あらゆる知人や想い人のことを思い出しながら俺は、大いなるワンタップをきめた。


トン



【ご覧の通り、あなたは亡くなりました。ですがこの後、別の世界にて新たな生を持って生まれ変わることが可能です。異世界にてあなたの身の安全を守るためのスキルと、自身の姿形を決定する種族の選択権を授けます。】



やはり画面が切り替わり、メッセージが浮かび上がった。そして思った通り、ブラウザをバックするかのような「戻る」ボタンは見当たらない。


「このUIは基本的に不可逆ふかぎゃくの作りになっているんだ…気をつけないと」

 

思わず独り言が漏れる。UI(ユーザーインターフェース)とはユーザーが見ることのできる画面デザインや操作できる画面上のアクションすべてのことを指す言葉だが、どうやら不親切設計にてこのサービスは作られていると見た。


戻ることが出来ないのならば、見逃しの無いよう文章を熟読する必要がある。なんの変哲も無い文章のようだが、「今この画面でできること」を最大限にしゃぶり尽くすべきだ。


数度読み直しをしたが、気になるのは国語的な観点とスキル・種族についてか。


まず!国語的に言えば【生まれ変わることが可能です】と言うのであれば生まれ変わりを拒否することも可能であると読み取れます!

うーん減点!文言の制作担当者に減点〜!

さらに続くスキルの件に接続する文章が若干物足りないかな〜!ムムム〜ン!


冗談はさておき、スキルと種族である。

特に気になったのは種族。これはもう大事件だろ。そもそも転生モノで種族まで選択可能なパターンは少数派だし、俺には【自身の姿形を決定する】以上の意味が種族値には込められていると思う。


種族値、つまり種族ごとに肉体の持つパラメータの違いというものは顕著に現れる。ファンタジー世界のテンプレである「獣人」などを選択すれば、所謂「人」種族を遥かに超えた筋力や知覚能力を得るだろう。


では強力なフィジカルを持った種族しか勝たん!ということなのかと言えば、それでは簡単すぎるだろうと思う。懸念点がいくつか考えられる。


まず最も繁栄している種族が何の種族なのかが読めない点。自分が選択した種族が、繁栄している種族と敵対していたり差別されていたりする可能性がある。


人の街で獣人が立ち入り禁止をくらっていたり、なんならサーチアンドデストロイ状態になっていることすら考えられる。これでは旅先の宿泊や調達作業に支障をきたすであろうし、およそ文化的な暮らしは見込めないだろう。また、異世界テンプレでは人種族が覇権を取っていることが多い。


次に知能のギャップがある可能性だ。

所詮生き物のオツムの良さなんてものは脳の大きさに左右されるものである。もし人間よりも知能の低い種族に転生した場合、生来の人間としての自己自認がその場で消え失せるかも知れない。簡単に言えば転生した瞬間に頭がパーになって、人間のころの思い出が全部思い出せなくなる可能性だってあるのだ。


最後に喉の構造の変化がある。

例えば爬虫類型の種族に転生した場合、喉の構造上ヒトの言語が発音できない可能性が高い。つまり同種もしくは近縁の種族としかコミュニケーションが取れなくなることを覚悟するべきだ。前述の通り覇権種族がヒト種族であった場合、相当生きづらい思いをするだろう。


何を捨て、何を得るか?自身の運命を左右する取捨選択となるはずだ。慎重に考え、情報を余す所なく吸収していくべきだ。


スキルと種族、スキルと種族ねぇ…


ん?あまりに自然で気に留めなかったが、スキルと種族の文字だけ若干、色が濃く表示されてねえか…?


これあれだ。ブラウザで言うマウスポインタをそこに合わせればよぉ、辞書機能が働くみてぇ〜なよぉ〜!アレなんじゃねえのか!?


タップするのが若干怖い…、いやしかしこの文章はもう何度もしゃぶったと言っていい。

「長押し」してみるか…?




「おま、いい加減に進め〜〜〜ぃ!!!」



またケモ様が現れたかと思ったら、後頭部をスコーンと叩かれた。ゲヘヘ、すいやせん。



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