まずはキャラクリ50時間
ふしあな
第1話 なんか待機中っぽい
時刻は夕暮れ、死因はトラック。
特に誰を助ける為でもなく、シンプルな事故で俺は死んだみたいだ。
脇見運転のドライバーがチャリンコごと俺を轢き殺す映像が、手元のタブレットに煌々と映し出されている。ループ再生されていてどこぞのショート動画みたいになってんな、これ。
おかげさまで、「俺死んでます」という事実は頭に刷り込まれたし、現在俺は死後の世界的な場所にいるってことが何となく理解できた。
死んだ際の痛みの記憶も無いため、トラウマが生まれたり精神が蝕まれている様子もない。他人事のように、めちゃくちゃ落ち着いて自身の死を認められている。
さて、問題はこの場所というかこの状況だ。
まず考えるべきはここが「天国/地獄」なのか
それとも「異世界転生の待機場」なのかというところだ。
前者の場合、地獄っぽいよなぁ。なんせ俺が今いるのは1k程の間取りの窮屈で真っ黒な部屋だ。
床、壁、天井のすべてが黒色。タブレットが置いてあるテーブルも、付随する椅子も黒。
扉は無いが壁の一面のみ大きなガラス張りになっていて、これまた真っ暗な外(?)が見える。まぁ何も見えないんだけど。
きっと俺のいる部屋に似た部屋が無数にあって、そのすべてが縦と横に連結してるんじゃなかろうか。マンションみたいに。
そしてガラス張りになっている面から時折り、地獄の異形がこちらを覗いてきたりして。スゲーでかい奴がこう、ね…。
怖すぎる。後者の場合を考えよう。
なんせ俺はトラック事故で死んでいる訳だが、異世界転生と言えばトラックである。
これだけで異世界転生のチャンスを感じるよな!テンプレだと白い空間に神様がポンと出てきたりするけども、それは一旦置いておこう。
もしかしたら黒色が好きな神様の可能性もあるし、ワンオペの神様が一部屋ずつ転生の対応をしてるのやもしれん。うん、きっとそうだ。それでいきましょう。
ではそのワンオペ神が来るまで俺はどうする?それはもう決まっている。もし万が一ここが地獄だった場合のことを考えると不安で不安でどうしようも御座いませんので、この部屋からの脱出経路を探して気を紛らわせよう!これです!ドスコイ!
という訳で俺はPC向けの脱出ゲームをプレイするかのように、壁や床のあらゆる部分をクリック(物理)し始めたのだった。何をやってるのかわからねえが、自分が死ぬ映像を見続けるよりはマシだよね。
ぺしぺし。ツンツン。ドンドン(殴打)
まだまだスイッチ的なものは見つからず。
ドュクシドュクシ。ぺちんぺちん。
ここで気づく。
俺、メガネかけてないじゃんね。
でもよく見える。
腹をさする。脂肪が全然ついてないね!
口の中の銀歯が…無くなってるね!
多分だけど、タバコとかも全然吸いたく無くなってるね!
これはあれだ、体が作り変えられてる。それは何を意味するのか?それはもう、これからの「冒険」のための前準備としか思えんよな。つまり!これ、転生とか転移の流れだろう。地獄なら醜く太った俺のまま釜茹でだろうもんな。
希望が見えたと言っても良いだろう。
俺はもちろん、小踊りを始めた。
ズン、ズン、カッ
ズンズズン、カッ
ヨォ、アン、チェケ、チェケナウ
脳内に現れるミラーボールとレーザー。
ダンスフロアの中心にはスモークから颯爽と登場する俺の姿があった。気分は間違いなくハイであってローではない。熱狂がフロアを包み、グルーピーとセキュリティが押し掛ける。
カモ、チェキ、オン、ダボタイム!
キュッ!キュッ!と俺のソールがフロアを鳴らす。ブレーキ痕のように焦げ付きを残して…
「おま、オイ、やめろ。やーめーろ」
ついにカミサマの登場ってワケですか。
「遅かったっスね」
振り向くとそこには…ん?思ったよりケモケモしい神様がいた。
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