神様は今日からこの世界をゲームの世界にすることに決めたらしい

岡 あこ

第1話 プロローグ

その日も平凡な一日になるはずだった.

世界はそれなりに平和で,それなりに不平等で,それなりの幸せと不幸せと科学の支配する世界が今日も進んでいくはずだった.


その日.世界のルールが変わった.

『この世界を,人が言うゲームの世界にすることにした』

そんな言葉が全人類の頭に響いた.

それは,始まりだった.


佐藤 瑞樹は教室で授業を受けていた.名前と同じく中世的な容貌で,クラスメイトとはそれなりの距離感で親友はいないが,友人は多くいた.正義感が強いとは言えなかったが,少なくとも多少なり正義感がある,何処にでもいるような,少なくとも何処かにいる,その程度の凡夫であった.


彼はいつものように,授業中,退屈そうに空を眺めていたが,頭に声が響いて,少し焦り辺りを見回した.それは周りのクラスメイトも同じで,全員が混乱していた.


授業中であったので,その騒ぎを止めるために教師が何か言おうと声を上げようとしたときに,世界が物理的に少し揺れた.それは,地震のような揺れだったが,もっと規則的で人工的な意図的な振動だった.


数分の振動の後に窓の外を見た,佐藤 瑞樹は口を大きく開けた.

その振動で事故も起きなければ,恐らくケガ人も出ていないほどの揺れだったが,その代わりに窓の外には異様な光景があった.謎の巨大な塔が遠くに見え,それから,何かが溢れていたのだ.


クラスが学校が阿鼻叫喚に包まれている中,佐藤 瑞樹はただ驚きでしばらく固まっていた.しばらく停止していたが,クラスメイトの騒ぎで逆に冷静になったのか,状況を分析し始めた.

ひとまずネットで情報を集めようとしたが,アクセスが集中しているのか,ネットに繋がることがなかったので,それを諦めて,自身の今ある情報で考え始めた.

「ゲーム……ダンジョン……ステータスオープン」

謎の言葉を思い出して,佐藤 瑞樹がゲームとあの遠くに見える塔を見て,呟くと彼の目の前に謎の画面が表示された.


『レベル1 

名前 佐藤 瑞樹

種族 人  性別 男


ステータス(近日に実装予定)


スキル

スキル1 慧眼

スキル2 身体強化』


ゲームのステータス画面のような物が表示された瑞樹は,声を漏らしたが,混乱した教室では,その声が届くことが無く,大泣きする人物の声にかき消されていた.


その後,彼は数秒間ボーっとそれを眺めてから思考を巡らし始めた.

(スキル?まさしくゲームだな.身体強化は,身体能力をあげるとかだろうか?慧眼は何?)


瑞樹が顔を上げると,周りのクラスメイトや教師の見え方が変わった.全ての人の頭の上にレベルと謎のマークが見えた.それは,○,×,△など様々な記号であった.クラスメイトの頭の上には多くの×が浮かんでいた.

(何これ?……分からない.自分の事に精一杯で,忘れていたが,ひとますクラスで情報共有して……いや,遅かったな.)


それは,突然現れた.何も無かった場所から,3メートルはある,緑色の筋骨隆々で棍棒を持った化け物が廊下に表れて教室を覗いていた.教室が阿鼻叫喚に包まれた.「きゃあああ」そんな悲鳴の中で,それなりに冷静に動いていたのは,数人であった.


(ゲームなら,まあモンスターぐらいいるよね.)

『レベル77 ×』

化け物の頭の上に浮かんだそれを見て,瑞樹は,思わず笑ってしまった.危機を感じて笑うしか出来なかった.


化け物は,教室の前に立ち,動かずに教室を見ていた.叫び声が響く教室で,

「俺のスキルで,あの化け物を倒してやる.そしたら俺は,お前らの命の恩人だよな.俺の言うことをその後聞いてもらうからな.」

そう一人の生徒が立ち上がった.クラスでは目立たない静かな,生徒だったが右手にはハサミがあった.そのクラスメイトの頭の上には『レベル1 ×」そう浮かんでいた.そのクラスメイトが何か呟くと,ハサミが巨大化した,それを軽々と片手でそれから,ドアを開き,巨大化したハサミを化け物に突き立てた.


次の瞬間,グチョという音が教室に響いた.

化け物は無傷であり,巨大化したハサミは元のサイズに戻っていた.

そして,クラスメイトは,肉の塊になっていた.「きゃああ」そんな叫び声ともに,化け物がいない方の扉から逃げ出そうとした数人のクラスメイトも,何故か肉塊になっていた.


気がつかないはずがないが,いつの間にか,教室の周りを化け物が取り囲んでいた.悲鳴をあげる人物もいたが,ついに何も言わずに,その場に座り込むものが属した.この出来事が起きているのは,このクラスだけでなく,学校全体であり,学校はいつの間にか地獄になっていた.


(無理だ.……逃げるか.でも,何処に?ここは,2階,外は,今のところ……化け物はいない.飛び降りるか?そもそも何人で逃げる?)


「みんな逃げるぞ.俺に続け,皆で協力すれば.」

そうクラス委員が叫んだが,その瞬間に肉塊になっていた.それによって教室に動く気力が残っている人はほとんどいなかった.


(仕方ない,一人で,逃げるか.もしかしたら,妹も……いや,生きてる前提で助けに行かないといけない.)


瑞樹は,窓から逃走することにした.自身のもう一つのスキルを信じて,飛び降りれることを信じて,彼が窓から飛び降りようとしたとき,

「逃げるなら私も連れて行って,まだ死にたくないわ.」

黒色の長い髪の無表情の美少女だった.秋道 紅葉,いつも本を読んでおり,瑞樹だけでなくほとんどの人と話している姿は見たことが無かったが,圧倒的な学業成績で,一目置かれる存在という立ち位置であった.


瑞樹は一瞬,固まったが

『レベル1 ◎』それが見えて,直感的に連れて行くほうが良いと判断した.

「では,行きましょうか」

それから,彼女を持ち上げると窓から飛び出した,クラスメイトの悲痛な叫びを無視して.


スキルの効果か,余裕で地面に着地する事が出来た.

それから,先ほどまでいた教室を覗くと教室の窓が真っ赤に染まっていた.教室の中を見ることは出来ないが,恐らくクラスメイトは全滅していた.


二人は,その教室を見て

「クラスメイトを見捨てた罪,これで共犯ね」

「……とりあえず,進みましょ.」


(何で,都合よく,ギリギリ逃げ出せた,ラッキーなのかな?)

瑞樹はそう思いつつ,ひとまず,秋道を抱えながら校庭を走りだした.











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