ひとをねこにするはなし

のむらなのか

第1話

 人間を猫にする薬を開発したんです。


 え?待って、可愛い顔してる。勝手に可愛い顔しないで。先に言って下さい。写真撮りますから。

 はい。じゃあ撮れたんで、話を続けますけど。まずは僕がその薬を開発しようと思った動機から話しますね。それは勿論貴方を猫にする為です。貴方は僕と違って友人が多いし両親を大切にする人ですから、僕とばかりずっと一緒にいる訳にはいかない。貴方は貴方なりに僕との時間を確保してくれてはいるんでしょうけど、足りないんです。

 朝別々の部屋で目覚めることも、お風呂に一緒に入れないことも、ずっと手を繋いでいられないことも、堪えられない。

 こうして貴方と二人で過ごしている間は気が狂うくらい嬉しいけど、そうじゃない時間との気持ちの落差が激しすぎて……でもそうじゃない時間の方が長いから……だからその時間を貴方ともっと長くいる為に努力する時間にしようと思ったんです。つまりその暇な時間を使って、人間を猫にする薬を開発したってことなんですけど。

 ん?そう、これです。そうですね、二つありますね。これはどちらも人を猫にする薬です。

 こっちの薄紅色の方は人間を猫の姿に変える薬、でも心はそのまま。

 こちらの青い薬は飲んでも姿は人のままだけど、心が猫になるんです。

 どっちがいいかな……。

 姿が猫になったら……貴方を家に閉じ込めて、二度と外には出さない。それはとても魅力的だね。けど……猫は人に比べると寿命が短いから……きっと剥製にするとは思うけれど。そんな顔しないで。長く一緒にいる為だよ。それにずっと先の話だよ。

 じゃあ心が猫になるのはどうですか。昔、猫を飼っていた頃、猫が体当たりみたいに身体を擦り付けてくるのが凄く好きだった。全身で愛を表現してくれてるみたいで。あれを貴方がしてくれたらとても可愛いと思うんです。

 首を振って……嫌なの?

 でも僕はどちらかと言うとこっちを使いたいんだ。心が猫になった貴方を見たら皆、貴方がおかしくなったと思うよ。そしたら今、友人面してる連中なんて二度と会いに来なくなるよ。親だって最初は心配するだろうし、病院に連れていくだろうけど治る見込みがないって分かったら貴方を重荷に感じるはずだよ。精神病棟に押し込んで、それでおしまい。


 俺だけだ。

 本当に貴方を愛してるのは。

 俺は貴方が猫になったって、壊れたって、死んだって、好きだ。






 え?

 そうじゃない?






「人間として一緒にいられないなら猫にすればいい。正気でいられないなら壊してしまえばいい。生きて一緒にいられないなら殺せばいい。そんな風に考えてるだけだ、お前は!」






 はぁ。

 何でそんな酷いこと言うの。

 兄さん。 

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ひとをねこにするはなし のむらなのか @nomurananoka

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