第5話 衝撃の事実

私は城で呆然としていた。

転生したと気が付いた時もショックだったけどそれ以上だ。


「急な事で驚いただろうから、落ち着いたらまた城へ来てくれ」と王様に言われた。


そう、言われても…。

私とレインは屋敷に戻ることにしたのだけど。


「レイン?」


馬車の中でレインがほうけて、魂が抜けたみたいになっていた。


屋敷に戻れるのだからまだ良かったのかもしれない。

でも、学校を卒業するまでは家に居られるのだろうか。




   *




「お帰りなさいませ。随分帰りが遅かったですな」


執事のラルスが玄関で出迎えた。


「そうね…。色々あって…レインの具合が悪そうなの。休ませてあげてくれる?」

「いいよ。大丈夫だから…」


「大丈夫って、顔色まだ悪いわよ?」

「だって、姉さんと一緒に居たいから」


「一体、学校で何があったのですかな?」


只事でないと察したのかラルスが尋ねてきた。


「ラルスさん、父と付き合いが長かったんですよね?姉さんの事で父から訊いてませんか?」


「もしかして、王族から接触があったのですか?」

「姉さんと僕は、城に連れて行かれたよ」


「…そうでしたか」


執事のラルスは何処か遠くを見ながら静かに話し始めた。



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今から16年前―——。

雨の降りしきる中、旦那様の親友が赤子を連れてこられました。


「お前どうしたんだ。その子供は…」

「すまない。少しで良いから預かってくれないだろうか。一週間したら迎えに来るから」


切羽詰まった様子で、何か事情があるのかと思い預かることにした旦那様。

しかし一週間経っても親友は現れず。

城で王女が兵士と駆け落ちしたという噂を耳にします。


「まさか…」


駆け落ちした兵士は旦那様の親友でした。

兵士は捕まり王女をそそのかしたと死刑になり、その後王女は後を追うように病気で亡くなったそうです。


「親友の忘れ形見だったのですよ。ローレライ様は」




**レイン視点




僕は自室のベッドで寝転んでいた。

ドアは開きっぱなしだ。

何だかどうでも良くなっていた。

学校も、何もかも。


「レイン」

「何、姉さ…」


姉さんが僕に抱きついてきた。

僕は驚く。


「ごめんね。少しこのままでいさせて?」

「う、うん」


「色々あって私、訳わからなくなっちゃった…」

「僕もだよ」


「姉弟仲良く暮らせると思っていたのに」

「うん」


ポタッ

姉さんの瞳から雫がこぼれて僕の手に落ちる。


「うえーん…レインと離れるの嫌だよう。ずっと…一緒に居たい」

「姉さん」


姉さんは子供みたいに泣き始めた。

僕は姉さんの頭を優しく撫でる。

柔らかい髪は触っているだけで心地よくて、不思議と気分が落ち着いてくるのを感じていた。




***




次の日。

ジョディーと学校の廊下を歩いていた。

私はレインに呼び止められる。


「ローレライ、教室に居なかったから探したよ。先生が、次は魔法の実技の授業だから校庭に移動だって」


レインが急に姉さんと呼ぶのを止め、ローレライと呼ぶようになった。

何か心境の変化があったのだろうか。

顔つきも変わった気がする。

彼は手を振って、去って行く。


「そうなんだ。わざわざありがとう」

「レイン君、何か変わったわね?お姉さんは何か知ってるの?」


ジョディが訊いてくるが、私は首を横に振った。


「私も知らないわ」

「そうなのね。最初見た時からカッコ良いなと思っていたけど、益々男らしくなってどうしちゃったのかしらね」


正直、名前で呼ばれるのにちょっと慣れない。

普段、男性に呼ばれないからドキッとしてしまう。

レインだと分かっているのに。




   *




「「ローレライさん!聞いてますか?」」


担任のロレッタ先生が私の名前を呼んだ。

生徒たちは先生の周りに座って見学をしている。

私は先生の魔法の実演中にぼーっとしてしまっていたので、声をかけられたみたいだった。


「今は実演中ですがよく聞いていて下さいね。怪我したら大変ですから」


『ファイヤーボール』


ロレッタ先生が唱えると大きい炎が頭上に現れた。


「「「おおっ」」」


生徒たちが歓声を上げる。

初めて見る人も多いようだ。


『キャンセル』


ロレッタがパチンと指を鳴らすと炎が消え去る。


「魔法って消すことも出来るのですのね」

「私も知らなかったわ」


ジョディーも知らなかったみたい。

私は、魔法初心者だから知らなくて当然なのだけど。


「ここだと危ないので炎を消しましたが、実際は使う魔法だけを出現させるようにしてくださいね。次は…」




   *




授業が終わったので、ジョディーと教室へ戻っていた。


「魔法って思っていたより種類があるんですのね。ローレライ何か悩み事でもあるのですか?」


授業中ぼーっとしていたからなのかジョディーに訊かれる。


「え?ううん。特にないわ」

「そうですか?無理に訊いたりしませんが、話したくなったらいつでも相談にのりますわね」

「うん。ありがと」


悩みなのだろうか。

少しレインの事が、気になっているだけなのだけど。





**ケリー王子視点





「父上はああ言ったが、俺はローレライと仲良くするつもりは無い。あいつは庶民だからな」


キアラ王女と駆け落ちした兵士は平民だったそうだ。

次期国王の俺と何故仲良くしなければならない?


「王はお認めになられておられますし、今は男爵令嬢だったはずですが」


「シルダ、父上が勝手に決めたことだ。俺は認めないからな」


父上の寵愛を受けているのも気に食わない。


「学校で会っても親しくするつもりは無い。あっちは媚びてくるだろうがな。考えるだけでもうっとおしいが」


学校でも大多数の者は俺に媚びへつらうのが当然だ。

と俺は思っていたのだが。




「私、貴方が嫌いです」


彼女は俺を目の前にそう言い放った。

俺は初めての事で驚きを隠しきれず思わず聞き返してしまう。


「今、何と言った?もう一度言ってみろ」



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