第2話 魔法の家庭教師
「「こんにちはー」」
数日後、家庭教師が家にやってきた。
赤い髪の金色の瞳で、耳が長く華奢な体つきをしている。
先端に石が付いた大きな杖を持っていた。
不思議な雰囲気の女性だ。
「わたくし、フィリアと申します。Bランクの冒険者で魔法を得意としています。よろしくお願いします」
玄関先でキョロキョロと周りを見渡すフィリアさん。
わたしとレインを交互に見ていた。
「依頼主のレイン様…ですか?」
「ここは僕たちしか居ないんです。両親は亡くなってしまったので。まだ子供なんですがよろしくお願いしますね」
「そうだったんですか。失礼しました!」
通常は大人が対応するのが普通なのだろうけど。
家には私とレインしか居ないのよね。
「魔法学校の入学試験との事でしたので、簡単な入門書をお持ちしました」
リビングで椅子に座り、本の大まかな内容の説明を受ける私とレイン。
難しい内容ではないようで良かった。
あまり専門的な内容だと理解するのに時間がかかりそうだからね。
内容を覚えるくらいで良いらしい。
レベルは意外と高くはないそうだ。
ただ、まるっきり知らないと書くことも出来ないので試験には落ちるとか。
「あとは、簡単な基礎の魔法の実技をやっておきましょうかね」
*
場所を移し屋敷の庭に出た。
フィリアさんから魔力操作の仕方を教わる。
先ずは魔力を感じるところから始めるらしいのだけど。
「魔力ってこんな感じですか?」
レインの体が薄く光って見えた。
「そうそう、初めての魔力操作にしては上手ですね。レインさん」
「えっ?もう?凄い…」
「ローレライさん。まずは魔力を感じるところから始めてみましょうか…」
私は全神経を手のひらに集中させる。
*
「試験まで三か月かぁ。私に出来るかしら」
魔力操作っていうのをやってみたけど全然できなかった。
一発で出来るレインの方が珍しいとフィリアさんは言っていたけど。
何でも器用にこなすレインらしい。
「…疲れたわ」
「僕もばてたよ」
魔力を使うと体力も削られるらしい。
私とレインは芝生に足を延ばし寝転がっていた。
寒くもなく温かくも無い丁度いい季節。
「今日はこの辺で終わりにしましょう」とフィリアが告げ、魔法の練習は終了した。
「姉さん。こんな感じだよ」
そっと私の手をレインが触ってきた。
ピリッと何かが走る感覚。
「レイン、貴方今日は魔力残り少ないでしょうに。無理しちゃ駄目よ」
「このくらい平気だよ。ほら温かい感じするでしょ?」
確かに体中を何かが巡っている感じがした。
これが魔力なのか。
しかしどれだけ優しいんだこの弟は。
触られてドキドキしちゃったよ。
「ありがとね。でも無理されちゃうと姉さん心配だわ」
「分かった」
レインが優しく微笑んだ。
そういう笑顔は彼女さんにしてあげたほうが良いと思うのだけど。
レインって好きな人とかいるのかしら?
*
「え?僕に好きな人がいるのかって?」
私は、リビングで寛いでいたレインに訊いてみた。
驚いた表情のレイン。
少し考え込んでいる。
「…いるけど。それがなにか?」
「ええええっ?全然知らなかったわ。私の知ってる人なのかしら」
「よく知ってる人…だよ」
レインに女子の知り合いって居たっけ?
幼馴染はカーベルだけだし、知らないうちに友達が出来たのかしら。
この屋敷には数人のメイドさんたちが居るけど。
「困っちゃうな。姉さん、全然気が付かないんだもの。僕は一生隠しておくつもりだったけど」
それはどういう意味?
レインはじっと私を見つめている。
「僕の好きな人は…ローレライ、貴方だよ」
**レイン視点
気が付いたら、もう好きになっていたのだと思う。
一目ぼれだったのかもしれない。
小さい頃からずっと姉さんの姿を追いかけていた。
はた目には仲のいい姉弟に見えていたに違いない。
姉さんも僕に優しくしてくれていたから。
「もう、近寄らないで」
5年位前から急に姉さんが冷たくなった。
僕だけに冷たくなった。
悲しくなって辛くなった。
僕が病気で寝込んだ時、姉さんが付き添ってくれていた。
心配してずっと付いてくれていたのだ。
きっと冷たくするには理由があるんだ。
そう思う事にしたのだ。
僕はずっと姉に片思いをしてきた。
でも、とうとう言ってしまった。
本人を目の前で告白してしまった。
***
「そうだったのね」
私はレインから告白されてドキドキしていた。
凄い幸せな気分。
ああ、弟じゃなければ良かったのに。
考えてみれば以前からそんな雰囲気じゃなかった?
わざわざ起こしに来たり、いつも笑顔で話しかけられてたり。
普通「きょうだい」って喧嘩したり…もっと違う雰囲気だったりするものよね。
いくら仲が良いっていっても。
「でも姉弟じゃなければ良かったわね。きょうだいじゃ結婚も出来ないし」
「あれ?僕たち義理の姉弟だって知ってるよね?親同士が再婚して…」
「え?そうなの?」
「あ、そっか。記憶が無いところもあるんだっけ。って僕の事、変に思ったりしない。気持ち悪いとか…」
「そんな事無いわよ?流石に驚いたけどね」
実の姉弟じゃなかったんだ。
私はレインの頭を撫でる。
「ありがとね。好きになってくれて」
レインは照れて、少し嬉しそうにしていた。
レインを好きだったのだろうか。
もしかして、照れ隠しで冷たくしていたのかもしれない。
そうするとつじつまが合うのよね。
でも今の私はどうなのだろう。
彼の事を好きなのだろうか。
「ごめんね。弟としては好きだとは思うんだけど…よく分からないわ」
そのままの気持ちを言う事にした。
嘘をついてもレインに悪いから。
「うん。それで十分だよ。今まで通りいてくれれば」
笑ったレインの表情が、わずかに曇った。
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