転生したら貴族令嬢でした~私、義弟に愛されています~平穏に暮らしたいのに王女って嘘でしょ?

月城 夕実

第1話 たった一人の家族

 チュンチュン・・・。

 小鳥のさえずる声が聞こえる。


「姉さん、朝だよ。起きて」


 あれ?私に弟なんていたっけ?

 起きたての頭は、ぼーっとしていて意識がハッキリとしない。

 目の前には、どこかの映画から飛び出てきたような…ショートボブの金髪で灰色の瞳の美少年が居た。


 私は、目をパチパチさせる。


「あ…レイン」

「おはよう。姉さん」


 私は、この異世界に転生してきたのだった。

 目の前の美少年は私の弟のレイン。

 何処かのお城で、王子様と言われても不思議じゃ無いくらいのイケメンだ。


 転生前の私は『森下さくら』27歳だった。

 どこかの会社に勤めていた記憶はあるけどその後が思い出せない。

 …多分若くして死んだのかもしれない。

 残業が多いブラックな会社だったから。


 今の私はローレライ・アルフレッド16歳。

 プラチナブロンドの髪は背中まであって、瞳は水色をしている。

 背が低くて150センチくらい。

 貴族のお嬢様として生まれ変わったようだった。


 王都のアルティナに、両親の残した家で弟と二人きりで暮らしている。

 両親は三年前に、仕事中災害で亡くなってしまった。


 最近になって、転生前の記憶を思い出したのだけど。

 代わりに、今までの記憶が少し欠落しているみたいだった。

 私はベッドから降りて、オレンジ色のワンピースに着替える。


 階段を下りて、食堂に着くと大きなテーブルには白いテーブルクロスが敷かれていて、パンやスープ、サラダなどの料理が並べられていた。

 何処かの、高級フレンチレストランに来たような感じかしら。

 

 私は、椅子に座って食べるだけ。

 後片付けは、家の使用人がすべてやってくれる。

 前世に比べたら夢のような生活だわ。


 目の前には弟のレインが座っていた。


「いただきます」


 丸いパンを一個取ってバターを付けて食べる。

 さくっとして、香ばしい香りがした。


「美味しい」


 出来立てが食べれるなんて贅沢よね。

 でも記憶が戻らなければ、今の生活が当たり前って思ってたんだろうなぁ。


「そういえば…」


 一つ疑問が湧いた。

 レインが、朝起こしに来るのは一体なぜなのだろう。

 前世でも、弟は姉に気を遣うものじゃないはずだ。

 何か理由があるのだろうか?


「ねえ、レイン」

「なあに?姉さん」


「何で毎朝起こしに来てくれるの?」

「えっと…僕がしたいから」


 それ、答えになって無い様な…。

 まあいっか。

 別に困るわけでもないしね。


「そういえば、姉さん最近何かあった?何て言うのかな…前と、雰囲気が違うような気がするんだよね…」


 恐る恐ると言った感じで、レインが話しかけてきた。


「えっと、どんな風に?」


「え…前はそっけなくて、もっと冷たかった感じというか…ご、ごめん悪口とかじゃないのだけど…」


 記憶を思い出したので、性格が少し変わってしまったのかもしれない。

 以前はどんな性格だったのかしら。


「そうね…レインには、話しておこうかな。姉弟きょうだいだしね。信じて貰えるかわからないけれど…」


 私は転生した事を話した。

 以前は違う世界に住んでいた事、魔法の全くない世界だった事など。

 レインは少し驚いていたが、真剣に話を聞いてくれた。


「そう…だったんだ。でも姉さんは姉さんだよね?記憶が曖昧だと不安じゃないの?」

「うん…そうなのよ。16年生きていたはずなのに、ほとんど憶えていないんだもん」


「わかった。僕がサポートするよ。心配しないで」

「ありがとう」


 すっごく優しい弟じゃないの。

 前の私ローレライは何で弟に冷たかったのかしら?



 *** レイン視点



 僕は屋敷の中庭で、ガーデンチェアに座ってカーベルと話をしていた。

 幼馴染のカーベルは、時々家に遊びに来る。

 僕より1つ上の15歳。


 カーベルは茶髪で瞳も茶色、顔にそばかすがあり何でも言い合える仲だ。

 庭の木々がサワサワと揺れた。

 因みにカーベルは、貴族では無いが実家は大きなお店をやっているらしい。


「お前、ローレライに何で素直な気持ちを言わないんだ?義理の姉なんだろ?」

「姉だから言えないんだよ…」


 僕と姉さんローレライは、僕たちが小さい頃に親同士が再婚して姉弟になったらしい。

 だから本当の姉弟ではないのだけれど。


「ローレライって背が小さくて可愛くて良いよな?オレが告白しちゃおうかな?って冗談だよ、悪かった。そんな目でオレを睨むなよ。…だったらさっさと好きって言えばいいのに。多分大丈夫だと思うぜ。全く何を怖がっているんだか」


 それが出来たらとっくにしているよ。

「好き」って言って嫌われて口をきいてもらえなくなったら…どうするんだよ。

 ずっと一緒に暮らしていく家族なんだぞ?



      *



 屋敷に手紙が届いた。


「手紙?珍しいな」


 裏の蝋封を見ると、王家の家紋が入っている。

 これ、姉さんに持って行った方がいいのだろうか。

 僕は、リビングにいた姉さんに声をかけ手紙の封を開ける。


「アンフレッド家の御息女、ご子息…魔法学校へ通うように…将来的にも…」

「魔法学校?」


 首を傾げて、姉さんが訊いてきた。


「王都に魔法の学校があるんだよ。お金は出してくれるって書いてあるね…どうする?って王命だから断れないのだけど」


 王様自らが僕たち姉弟に、魔法学校へ行くようにと手紙で書いてきた。

 何故王様が?とも思ったけれど。

 もちろん学校へ行くために、お金がかかるが費用は持ってくれるらしい。

 無料で行けるのなら、良い事なのだろうけど何か意図があるのだろうか?



 ***



「えええ?魔法学校って入学試験なんてあるの?」

「何だお前、知らなかったのか?急に決めたから、てっきり知っていると思ってたぜ」


 リビングからレインとカーベルの声が聞こえた。

 今日もカーベルが来ているみたい。

 家に居ると、実家の稼業の手伝いをさせられるとか言ってたわね。


「なあに?今度行く学校の話をしているの?」

「ローレライ。こいつ試験あるの知らないで、学校に行くの決めたって訊いてさ」


「試験があるのね」

「あれ?もしかしてローレライも学校に行く予定?」


「そのつもりだけど…」

「だったら、誰か勉強を教えてくれる人を探した方が良いぜ?噂だと、入るのに筆記試験があるらしいから」


「仕方がないじゃないか。魔法学校とか全く興味なかったし…知らなくても…」


 ぶつぶつ呟くレイン。

 いじけてしまっているみたい。


「オレが教えられたら良かったんだけどな。そもそも魔法使えないし」


「では、冒険者ギルドで家庭教師を探したらどうでしょうか?」


 壁際に居た、執事のラルスが提案した。

 彼は私たちが生まれる前から働いている執事だ。


「冒険者ギルド…本当に異世界なのね」

「姉さん?何か言った?」

「ううん。何でもないわ」


 ラルスにお願いして、手続きをしてもらう事にした。

 優秀な執事がいて助かったわ。

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