転生したら貴族令嬢でした~私、義理の弟に愛されているみたいです~

月城 夕実

第1話 たった一人の家族

チュンチュン・・・。

小鳥のさえずる声が聞こえる。


「姉さん、朝だよ。起きて」


あれ?私に弟なんていたっけ?

起きたての頭は、ぼーっとしていて意識がハッキリとしない。

目の前には、どこかの映画から飛び出てきたような…ショートボブの金髪で灰色の瞳の美少年が居た。


私は驚いて目を見開いた。


「あ…レイン」

「おはよう。姉さん」


そっか。

私は今この異世界に転生してきたのだった。

目の前の美少年は私の弟のレイン。

何処かのお城で、王子様と言われても不思議じゃ無いくらいのイケメンだ。


私の名前は『森下さくら』27歳だった。

どこかの会社に勤めていた記憶はあるけどその後が思い出せない。

…多分若くして死んだのだろうか。

残業が多いブラックな会社だったから。


今の私はローレライ・アルフレッド15歳。

プラチナブロンドの髪は背中まであって、瞳は水色。

背が低くて150センチくらい。

貴族のお嬢様として生まれ変わったようだった。


王都のアルティナに、両親の残した家で弟と二人で暮らしている。

両親は三年前に仕事中に災害で亡くなってしまった。


最近になって転生前の記憶を思い出したのだけど。

代わりに今までの記憶が少し欠落しているみたいだった。

私はベッドから降りて、普段着に着替えた。

弟は随分優しい性格らしいわ。

わざわざ部屋まで起こしに来るなんて。




   *




食堂に着くとすでに料理は用意されていた。

私は料理人が作ってくれた料理を食べるだけで、メイドが後片付けもしてくれる。

作らなくていいし、片づけなくても良い。

前世に比べたら夢のような生活だ。


「いただきます」


朝から豪勢な料理が並ぶ。

食べきれないから量を減らしてもらったのだけど。

余るともったいないのよね。

以前余った物はどうしているの?って訊いたら使用人たちで食べているとの事だった。

だったらそんなに作らなくても良いのでは?と思ってしまう。


パンを一個取って食べる。

さくっとして、香ばしい香りがした。


「美味しい」


出来立てが食べれるなんて贅沢よね。

でも記憶が戻らなければ、今の生活が当たり前って思ってたんだろうなぁ。


「そういえば…」


一つ疑問が湧いた。

レインがわざわざ朝起こしに来なくてもいいのだ。

メイドが声をかけてくれるはずなのだから。

何か理由があるのだろうか?


「ねえ、レイン」

「なあに?姉さん」


「何で毎朝起こしに来てくれるの?」

「えっと…僕がしたいから」


答えになって無い様な…。

まあいっか。

別に困っているわけじゃないし。




**レイン視点




僕は家の中庭で、カーベルと話をしていた。

幼馴染のカーベルは時々家に遊びに来る。

カーベルは茶髪で瞳も茶色、顔にそばかすがある。

何でも言い合える仲だ。

庭の木々がサワサワと揺れる。


「お前、ローレライに何で素直な気持ちを言わないんだ?義理の姉なんだろ?」

「姉だから言えないんだよ…」


僕とローレライは、僕たちが小さい頃に親同士が再婚して姉弟になった。

だから本当の姉弟ではないのだけれど。


「オレが告白しちゃおうかな?ローレライって小さくて可愛いくて守ってあげたくなるし……って冗談だよ、悪かった。そんな目でオレを睨むなよ。…だったらさっさと告白すればいいのに。多分大丈夫だと思うぜ。全く何を怖がっているんだか」


それが出来たらとっくにしているよ。

「好き」って言って嫌われて口をきいてもらえなくなったら…どうするんだよ。

ずっと一緒に暮らしていく家族なんだぞ?




***




「ねえ、姉さん最近何かあった?」


リビングで本を読んでいる時、レインに話しかけられて私はドキッとした。


「何て言うのかな…前と、雰囲気が違うような気がするんだよね…」

「えっと、どんな風に?」


「え…前はそっけなくて、もっと冷たかった感じというか…ご、ごめん悪口じゃないから…」


記憶を思い出して、性格が少し変わってしまったのかもしれない。


「そうね…レインには、話しておこうかな。姉弟きょうだいだしね」


私は転生した事を話した。

以前は違う世界に住んでいた事、魔法の全くない世界だった事など。

レインは少し驚いていたが、真剣に話を聞いてくれた。


「そう…だったんだ。でも姉さんの中身は同じだもんね?記憶が曖昧だと不安じゃないの?」

「うん…そうなのよ。16年生きていたはずなのに、ほとんど憶えていないんだもん」


「わかった。僕がサポートするよ。心配しないで」


すっごく優しい弟じゃないの。

前の私ローレライは何で弟に冷たかったのかしら?




    *




「ん~~」


レインが難しい顔をしていた。

手に持っていたのは手紙の様だけど。

家に手紙が届くのも珍しい。


「王様から直々の手紙が来て「魔法学校へ行ったらどうか」って書いてあるんだけど…」


「魔法学校?」


「王都に魔法の学校があるんだよ。お金は出してくれるって書いてあるけど…どうする?って王様だから断れないよね。幸い姉さんと一緒に行けるからいいけど」


「へええ。そうなのね」


王様が私たちに「学校へ通うように」と言っているらしい。

もちろんお金がかかるが、費用は持ってくれるとか。

王様は私たちの事を知っていたのだろうか。




   *




「えええ?魔法学校って入学試験なんてあるの?」

「何だお前知らなかったのか?急に決めたからてっきり知っていると思ってたぜ」


リビングからカーベルの声が聞こえた。

この家が気に入っているらしくよく遊びに来る。


「なあに?今度行く学校の話をしているの?」

「ローレライ。こいつ試験あるの知らないで、学校に行くの決めたって訊いてさ」


「試験あるのね」

「あれ?もしかしてローレライも学校に行く予定?」


「そのつもりだけど…」

「だったら誰か勉強を教えてくれる人を探した方が良いぜ?」


「しょうがないじゃないか。魔法学校とか全く興味なかったし…」


ぶつぶつ呟くレイン。

いじけてしまっているみたいだ。


「オレが教えられたら良かったんだけどな。座学は自信無いし…」


結局、冒険者ギルドに家庭教師を依頼する事になり募集をかけることになった。


「冒険者ギルド…本当に異世界なのね」

「姉さん?何か言った?」

「ううん。何でもないわ」


王都の中心街にある大きな建物。

冒険者ギルドは職業案内所みたいな位置づけらしい。

便利な所があるものね。

私たちは、ギルド職員にお願いして依頼募集をかけてもらった。

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