決勝戦2

ユリウスたちは連携を取らず、各自の判断で自由に動いていた。それでも、5対2という状況と個々それぞれに相当の実力があり、アルノアたちは次第に追い詰められていく。


ユリウスは燃え盛る火と大地の魔力を組み合わせ、フィールド全体を揺るがす一撃を繰り出した。アルノアは《黒穿》に水の属性を纏わせて防御に回るが、その一瞬を突いてシエラの風刃が彼を狙う。


「くっ……!」

アルノアが咄嗟に雷を纏った大鎌を振り、シエラの攻撃を受け流したものの、隙をついてデクスターが無属性の斬撃を繰り出してくる。


「速い……!」

アルノアはギリギリで回避するが、再びユリウスの攻撃が迫る。


一方、アリシアは離れた場所でリリアンとヴィクトールに囲まれていた。ヴィクトールの光の槍が絶え間なくアリシアを狙い、リリアンが妨害魔法で動きを鈍らせる。アリシアはなんとか地の壁で防御しながら隙を見て反撃するが、ヴィクトールは炎の魔法を組み合わせて地の壁を焼き切る。


「厄介ね……。これでは持久戦になりかねない。」

アリシアが放った岩の砲弾がヴィクトールをかすめるものの、すぐにリリアンが光の治癒魔法を使い、ダメージを回復させてしまう。


 アルノアは《黒穿》に纏う属性を次々と入れ替え、攻撃と防御を使い分けていた。しかし、いくら攻撃してもシエラやデクスターが次々と攻撃に入り、ユリウス含めて絶え間ない攻撃を繰り出してくるため、押し返す余裕がない。


「……このままじゃ埒が明かない。」

アルノアは冷静さを保とうとするものの、追い込まれる状況に焦りが募る。


その時、アリシアの声がアルノアの耳に届いた。


「アルノア! 一旦私と合流しましょう!」


 アリシアはリリアンの妨害を受けつつも、地の魔法でフィールドの地形を変化させ、自分の周囲を一瞬だけ防御した。その隙に、アルノアの方へと走り出す。


ヴィクトールが追撃の光弾を放つが、アリシアは地面を隆起させて避ける。


「あなたたち、本当に手強いけど……私たちも、ここからが本番よ。」


アリシアはアルノアの位置を確認し、声を張り上げる。


「アルノア、二人で力を合わせるわ! あなたの多彩な攻撃に、私の万能な地の力を加えれば打開策が見つかるはず!」


 アルノアもユリウスたちの猛攻を受けながら、アリシアの言葉に頷く。

 


「分かった。今のままじゃ、確かに相手の防御を崩すのは難しい。君の力を借りる!」


二人が合流しようと動き出す中、シエラとデクスターがそれを阻止しようと立ちはだかる。ユリウスも遠距離からアルノアに火球を放ち、再び混戦が広がる。


「連携する隙なんて与えないぞ!」ユリウスが叫ぶ。


しかし、アルノアは《黒穿》を振り、雷の魔力で攻撃を弾きながらアリシアとの合流を目指す。その表情には、焦りではなく、戦略を練る冷静さが戻り始めていた。


 試合の流れを変えるため、アリシアが地属性の力を最大限に活用した広範囲攻撃を仕掛ける。


アリシアが魔法陣を展開し始めた。

「大地震!」

地面全体に震動を起こす大規模攻撃を放つ。この地震はただの物理的な揺れではなく、魔力を帯びており、足場を崩し敵の動きを封じる効果を持つ。

地面が割れたり、突き上げる岩の柱が現れるなど、戦場そのものを混乱状態に陥れる。

シンプルな魔法だが、魔力量や技量によってとても強力な威力を誇る攻撃となる。


「すごい、俺の周りには影響がない!」

 

アリシアはアルノアの足元だけを緻密に調整し、揺れの影響を受けない安定したエリアを作る。この繊細な魔力操作が、アリシアの熟練した技量を証明している。


ユリウスチームはそれぞれが個として強いため連携は少ないものの、この攻撃により動きが制限される。さらに、リリアンの回復に集中する隙を作り出す。


アリシアのサポートを受けたアルノアは、エーミラティスの力を部分的に解放し始める。


アルノアがエーミラティスとさらに深い共有を行い、身体の一部が白い魔力を纏い始める。この魔力は強大だが、完全に解放すると反動が難しいため、あくまで部分的な利用にとどめている。


白い魔力を帯びた瞬間、アルノアの周囲に強いプレッシャーが発生し、ユリウスたちに緊張感が走る。

《黒穿》に纏う属性魔法を素早く切り替え、攻防一体の戦い方を強化する。白い魔力の影響で、氷や雷の威力が従来よりも大幅に増している。


氷の刃がより鋭く、雷がより速く、ユリウスチームの反応を一瞬遅らせる。


身体共有により、アルノアの動きがこれまで以上に滑らかで洗練される。エーミラティスの戦闘経験がアルノアの動きに反映されており、攻撃も防御も一段と鋭くなる。


アリシアがアルノアの動きを計算しつつ、次の地形操作を準備。アルノアが白い魔力を纏いながら敵の意表を突く攻撃を繰り出す。

アリシアが再び地面を操作し、突き上げた岩をアルノアが氷で固め、一気に敵に向けて氷の槍が放たれる。


ユリウスは何とか回避しながらも変化に気づく。

「この魔力今までより強いな」

 

ユリウスはアルノアの「本気を引き出せた」と満足する表情を浮かべるが、同時にプレッシャーを感じ始める。

「魔力の鋭さも上がっているが、それ以上に動きのキレが段違いに良くなっているのが問題だな。」

アリシアの地震攻撃とアルノアの白い魔力の解放により、試合は均衡状態となる。ユリウスたちも本気を出さざるを得なくなり、観客をさらに沸かせる展開に。


「今迄の戦いの中で度々見せていたアルノアのこの白い魔力が決勝戦でもやはり出てきました!」

 実況も興奮気味に話す。


「これは何らかのバフなんでしょうかね?どうでしょうか教官。」

 

実況の生徒に質問されたグレゴールは答える。

「うむ。強化されているのは間違いないが、魔力の質はまだしも、動きがあまりにも洗練されたものに変化している。」

 

「普通のバフとは異なるのは間違いない。実戦経験の少ない学生で使えるものは少ないが、魔力の解放に近い。」


グレゴールは自分で解説しながら思う。

もし解放まで至っているなら既に冒険者として中堅レベルと言ってもいいな。正直この戦いの結果がどうあれ冒険者として認められるだろうな。

「まぁ、本人には伝えないでおくか。」


 アルノアは攻撃で牽制しつつアリシアと合流する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る